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初めてのアルバイト

今日からバイトに行くことになった。

 昨日の合格発表で俺が無事、合格したからだ。

 本来ならば、正式に入学してからの筈だったのだが、昨日の入学手続きで衝撃の事実が判明。

 なんとあの学校、制服までボッてやがったのだ。

 制服一着、驚異の金貨一枚十万円。

 まだ縫製技術が未発達で服が高価だったとしても、現代日本の高校制服の10倍。高すぎる。

 流石にレイチェルへの罪悪感も半端なく、バイトの前倒しを頼み込んだのだ。


 そうそう、昨日驚いたことといえばもう一つ。これは驚いた、というよりはむしろショックだったというのが正しいだろうか。



 俺ってば、次席合格だった。


 

 予想外に良くて驚いたのではない。

 予想外に悪くて驚いたのだ。


 いや別に満点取れるぜ! とか自惚れていたわけではない。まあ正直言って筆記に関してはそのくらいの手応えがあったのだが、どっかでミスってるだろうなとは思っていた。

 それを加味しても、1番にはなれるだろうとも思っていた。

 実技に関しても、結構好感触だったように思う。何せ試験官も気絶させたからな。流石に天才くんの人位級には目劣りするが、筆記を含めたら多分勝てるだろとか思っていた。

 舐めてました。


 したら、結果は次席合格。2番目。


 はい、見事天才くんに負けました。これが才能の差。

 パチパチパチ。


 悔しい。とっても悔しい。というかそんな綺麗な感じではなく、気に入らない。

 年上なのに、生意気な年下に負けたもんだからめっちゃ気に入らない。まあ生意気かどうかは知らんが。

 何というかこう、ムッキィィィィイィィィィイッッ! って感じ。レースのハンケチも破ってしまいそう。

 おっさんの醜い嫉妬である。


 

 それはそうとして、バイトだ。

 俺はバイトには一家言持っている。

 なんせ、それだけで6年くらい生きて来たからな。面接の時点で、楽にサボれるかどうかさえ分かってしまうほどだ。あまり人には誇れない特技である。

 もっとも今回に関しては、サボる気など毛頭ない。

 そんな事をしたら、レイチェルの信頼に傷をつけてしまう。

 頑張って稼ぎませう。


 バイト先はここ、『トマス魔導具工房』。

 王都中心街の外れの閑静な裏通りにひっそりと(たたず)む、魔導具屋だ。

 その店構えはなかなかに品がよく、高級店らしさを(かも)し出している。

 こんな店が5歳のガキを本当に雇うのかというのは甚だ疑問だが、まあ貴族ネットワークのことはよく分からん。働けるだけ感謝だ。

 ここで認められて、ゆくゆくは夢の正社員に……なんて野望も秘めていたり。さぁ、頑張っていこう。

 

「こんにちはー」

 チリンチリンとドアベルが鳴る。

 奥のカウンターには、(いかめ)しい顔つきの初老の男性が座っていた。店主だろうか。店内には他に客が一人もいない。閑古鳥が鳴いているのか、それともたまたまこうなのか。

 店主が、ドアベルの音で気付いたのか顔を上げて眼鏡を外し、こちらを見る。


「…………君か」


 はて? 俺、この人と会ったことなんてあっただろうか。

 ………………あ、もしかして。『君(がバイト)か』って事だろうか。

 うん、言葉足らず。もっと喋った方がいいと思います、まる


「今日からここで働かせていただくことになりました、アルベール・グリモワルと申します」

「……」

 店主はコクリと頷く。

「……」

「……」


 店の中に、気まずい沈黙が漂った。

「……えぇとその、それで僕は何をすればいいのでしょうか」

「……店番、だ」

 なんだ、案外普通だった。魔導具工房とかいうから、何か怪しい実験の実験台にされるのかと思っていた。まぁ、レイチェルがそんな危ないバイトを紹介するとは思えないが。


 それにしても、店番ね。それなら自信がある。昔、コンビニバイトをしていた頃、店長に『その陰気なオーラ出すのやめてくれる? 客が減るんだけど』という趣旨のことを遠回しに言われたくらい、客足を遠のけるのには自信が。

 うん、ダメなバイトだ。今世では無垢な笑顔を振り撒きまくって、正社員になってやるぜ!


「了解しました、店番ですね」

「私は工房にいる。何かあったら呼べ」

 と言って、カウンターの奥に引っ込んでしまった。おそらくそっちに工房があるのだろう。

 

「よいしょ、と」

 カウンターの裏に回り、高めの椅子に飛び乗り、営業スマイルを浮かべる。

 さて、どんな客が来るかな。

 この店のリッチな立地と外観を見ると、主なターゲットは貴族層だろうか。面倒な客じゃなければいいが。



 ◇◆◇



「………………暇だ」


 とっっても、暇だ。

 朝から昼まで、一度も客が来ない。別に俺は陰気オーラを発してはいないはずだが。というか、そもそも誰も来ていないのに客足が遠のくなんてことは、オーラが店の外に(にじ)み出ていない限りあり得ない。つまり俺のせいでは無い。

 果たして、いつもこのような調子なのか。バイトである俺としては楽ちんでいいが、商売として成り立っているのか心配になるレベルだ。そして俺の給料も心配だ。ちゃんと払われる、よね?


「客は来たか?」

「ふわぁっ!?」

 

 やべっ、ダラけてたの見られてただろうか。

「ええと、その…………」

 言いにくい。一人も客来てませんよあんたの店流行ってねぇななんて言えない!

「まぁ、その、1人も?」

「………………そうか」

 あ、寂しそうにフッと笑った。

 なんかカッケェ。でもその理由はカッコワリィ。


「……今日はもう、いい」

「分かりました」

 多分、バイトを上がっていいと言うことだろう。

「失礼します」

 

 ドアベルの音に混じって、重苦しい溜息がかすかに聞こえたような気がした。



 ◇◆◇


 

「腹減ったなぁ……」

 薄暗い店を出ると、太陽はすでに天頂にあり、正午を過ぎていた。早く帰って昼を食べたい。

 それにしても、客が来なかったな。確かに商業街からは離れているが、それほど立地が悪いというわけでもないし、店の雰囲気も良かった。なぜ客があんなに少ないのかが不思議でならない。店主の様子を見るに、いつもあんな調子のようだし。

 問題があるとすれば…………。

 店主が無口で無愛想なことだろうか。

 

 でもそれだけであんなに閑古鳥が鳴くとは思えない。そもそもが魔道具工房なのだから、接客ではなく品質で勝負すべきであろう。

 魔導具なんてよく知らないので、品質は分からないが……。


 まぁ、店の経営なんてただのバイトの俺にゃあ知ったこっちゃないし、元フリーターに何が出来るわけでもない。考えてもしょうがないだろう。

 それより、今日の昼食は何だろうか。最近は食費を切り詰めているので、質素な食事になっている。大体は俺のせいだ。全てあの学校がボッているのが悪い。

 明日の食卓を心配しながら、俺は家路を急ぐ。


そろそろストックが無くなりそう。

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