実技試験
魔力切れで気絶した天才くんは、教師たちに運ばれて行った。
それにしても、なんで魔力切れする前に術を消さなかったのだろう。
クリスが言っていた。『自分の魔力残量も把握できないように術師は、二流だ』と。
あの天才くんは二流なのか、それとも単に術を消し忘れたあほなのか。
「ンンッ! 962番の人!」
何事も無かったかのように、試験官が受験番号を呼んだ。
あ、このまま続けちゃうのね。まあ、雨も止んだし、問題ないのか。
それにしても、あの天才くんの後に受ける人たちがかわいそうだ。人位級見た後に、しょぼい下級を使わなきゃならないなんて……。
「971番!」
また1人、受験生が呼ばれる。……が、誰も出てこない。
「……971番、いないのか?」
誰だよ、居眠りでもしてんのかwwって、971って俺じゃん!
ヤッベヤッベ。
内心焦りながら、早歩きで試験官のところに向かう。後ろから貴族どもの忍び笑いが聞こえてくるが、気にしない。大方、穴あきのズボンか、俺の年齢か、平民であることを笑っているのだろう。性悪どもめ。
「ええと、971番。アルベール、だな?」
「はい、よろしくお願いします」
試験官の教師に、よそ行きの表情で挨拶をする。
「では、試験を始める……あれ?」
試験官が手元の書類をめくる。
「成程、あの人か……」
あの人ってどの人? この、何か問題がありそうなのにその中身が予想できないのが一番怖い。
「君の事前資料がないようなので、幾つか質問をさせてもらう」
事前資料……。そんなものがあったらしい。履歴書みたいなものか。本当は出願の時に書いて提出するはずが、俺は飛び込み受験だから書いてない、と。
「使える属性は?」
「全部です」
「全属性、と……。次、得意属性は?」
「ええと……、特にないです」
「最後、使える階級は?」
「上級、です」
「え……と、全ての属性を、上級まで扱える、という認識でいいのか?」
「あ、はい。それで大丈夫です」
そんなに驚くことでもないだろうに。だって、あの天才くんは少なくとも水属性は人位級まで扱えるんだぞ? それに比べたら上級なんてねぇ?
……ああ、思い出したらイライラしてきた。
試験官が手元の書類をまた一枚めくった。
「では、試験として……っ!? なぜこんな内容に?」
いや、どんな内容なのさ。
「……いや、しょうがないか。全く、あの人も困ったものだ……。
試験として、主要四属性の上級を見せてもらおう」
なぜか苦々しい表情をして言う。
ちなみに、主要四属性というのは、『火、水、風、土』の四つのことだ。
「あ、はい。分かりました」
他の受験生は、せいぜい一つか二つしか試験で使っていなかったが……。
まあ、別に問題はないから気にしないでおこう。
「じゃあまずは、火属性、【蒼炎球】から……」
【蒼炎球】。火属性下級【火球】の出力を上げただけの術だ。術式は単純だが、火力は段違いに強い。
メ○→メ○ミと来てメ○ゾーマみたいな感じだ。メ○ゾーマになると名前的にもエフェクト的にも強そうになる。特にドラ○エ8。
中級の【炎球】とは違い、術式に空気を吸い込むのが付くので、完全燃焼が起こり炎が青くなるのだ。
「………………えーと」
なんだっけ、詠唱。
上級の攻撃系なんて物騒なもの滅多に使わないし、使ったとしても魔導書でやるので忘れてしまった。
「えっと、詠唱、何でしたっけ」
多分教えてくれないが、ダメ元で聞いてみる。
「……これは、試験だぞ?」
案の定、なに言ってんだコイツみたいな顔をされた。
ですよね、わかってましたとも。
「……どうした? 出来ないのか?」
「い、いえ! 出来ますとも」
うんそう、詠唱を思い出しさえすればね!
……ああ、思い出せねぇ!!
……し、しょうがない。アレを使おう。
一応、アレならセーフだよね、クリスさん?
天上のクリスにお伺いをたてる。別に死んでないが。
『いいとも!』
よし、許可もらった。貰ってないけどね。
さ、集中していこう!
指先に魔力を白く輝くほど集中させ、指先で空を切る。すると、その軌跡を追うように白い光の線が描かれた。
俺がやろうとしているのは、『魔法陣を魔力で描くこと』だ。指に魔力を集中させて空中に魔力の線を描き、魔法陣を描く。
つまり、魔導書がやっている事を自力でやるという事だ。王都へと向かう間、手持ち無沙汰だったので練習していた。
正直魔導書使った方がよっぽど早いので、ソレ意味あるの?みたいな感じだが、きっと意味があると信じている。
……めっちゃ苦労して習得した後に、これ意味ねぇじゃん!とか気づいたりなんかしてないんだからねっ!
これなら短縮詠唱と同じように『個人技能』の範囲に入るので、問題ない……はず。
何か聞かれたとしても、一族の秘伝ですとか答えとけばいいし。
ちなみに、別に魔法陣を丸暗記しているわけではない。効果から逆算して魔法陣の形を考えているのだ。
詠唱でも同じようなことはできるのだが、教科書通りの詠唱を作れるかと言われれば、そういう訳でもない。その詠唱の細かな差異に気づかれてしまうかもしれないのだ。
対して魔法陣は、全くと言って良いほど普及していないので、気付かれることはまずないだろう。
「おい、何をしている?」
見た目では何もない場所に指を走らせているので、流石に不審に思ったのか、試験官が咎めてくる。
が、どうせ言っても信じまい。あと少しで完成するので、見た方が早いだろう。
「おい!」
「おっと、近づかないで」
狙いを調節して……。
「……【蒼炎球】!」
一応、何をしたのか分かるように術名を唱えながら、完成した陣に魔力を流す。
魔力を供給された魔法陣によって蒼い火の玉が生成され、狙い過たず的に着弾し、その業火を以て的を灰へと変えた。
「よし……。ええと、試験官さん。今ので良いですよね」
「……あ、ああ。問題ない」
試験官は何だか呆然としている。
何か文句言われるかと思っていたが、言われないのならそれはそれで良い。
後ろの貴族連中の囁き声も、今はもうしない。
「じゃ、次は水属性【降雨】で」
ただ雨を降らすだけの術だ。
さっきの天才くんが残してくれた雨雲もあるので、いつもよりも楽に発動できるだろう。




