ブルジョワさん
多分短いです。
ヤヴァイ。俺の10万円がっ!
いや俺のじゃないけど。でもアレがないと受験できない!
多分さっき転んだ時に落としたのだろう。あんのクソ野郎め!
「ど、どこだ……?」
屈んで探すが、受験生たちの雑踏に紛れて全く見つからない。
ヤバイヤバイやばいやばいヤバい! お金落として入れませんでしたなんて、頑張って金を用意してくれたレイチェルに申し訳が立たない。
誰かに拾われる前にどうにか見つけないと……!
「ボク、どうしたの?」
四つん這いになって必死に金貨を探す俺の背に、そんな声がかけられた。
顔を上げると、清楚なワンピースに身を包んだ亜麻色の髪の少女が、中腰になって俺を心配そうに見ていた。
今ここにいるということは、この人も受験生なのだろう。つまりは貴族。きっとこのまま話してたら、婚約者を名乗るごっつい男が出て来て、『俺の婚約者に手ェ出してんじゃねぇぞ!?』とか怒鳴られちゃうんだ。
面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だから、早めに話を切り上げたい。
「ええと、受験料をさっき転んだ時に落としちゃったみたいなので、探してました」
「ふうん……。てことは君、受験するんだ! 小っちゃいのに、凄いね」
「いや、それほどでも……。まぁ、このままじゃ受けられるかさえ怪しいですけどね」
「ふふふふふ……」
え、怖い。
何か唐突に笑い出したのだけれど。
「ど、どうかしましたか?」
「汝が落としたるは、この大金貨か?」
俺の問いかけは綺麗にスルーして、彼女は芝居がかった仕草で、ポケットから普通のものより一回り大きい金貨を取り出した。
な、なんつーモンを持ち歩いてやがんだこのねぇちゃん。金貨10枚で大金貨1枚。つまり10万円×10で、その価値100万円! このブルジョワが!
「いえ、金貨1枚です」
「……あそう」
俺がマジレスすると、彼女は白けたような顔をして、今度は反対のポケットから俺の見覚えのある物を取り出した。
「……つまんないなぁ。ほら、落とし物」
「ああっ! 俺の財布!」
何でこの人が持ってるんだ?
「ああ、盗んだわけじゃないよ? さっき拾ったの」
「ああ、あ、ありがとうございます! マジ感謝!」
俺が土下座してお礼を言うと、少し引かれたようで。
「ま、まぁ、良いってことよ! じゃ、受験頑張ってね〜」
彼女は小走りに雑踏の中へと去っていった。
訂正:貴族にも良い人はいるらしい。
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筆記試験が終わった。正直言って、拍子抜けした。くそ簡単だった。
科目は数学、国語、地歴だけ。
数学に関しては大体中学数学レベルの問題だったし、国語は前世で得意だったので問題なし。
一番大変だったのが地歴だが、クリスに教わったレベルの内容しか出なかったので安心した。
それにしても、国内最高峰の学校でこのレベルとは。そしてそのレベルの知識を5歳児に教えるクリスとは一体。
……とりあえず、筆記に関してはパスできただろうからよしとしよう。
昼休憩を挟んで次は、実技だ。つまり、術のテスト。
そりゃ『術科』学院なのだからあって当たり前だ。
フフフ……。心踊るシチュエーションだぜ。周りが下級しか使えなくて、中級でどよめく中、ドヤ顔で上級をぶっ放す無名な俺……。
それで的を粉々にして、『やっちゃった⭐︎』とか言うんだ!
やってみたい……。やってみたいが、そんなことをしたらプライド高い貴族連中の目の敵にされそうだ。貴族の面倒臭さは今日と昨日でよぉく分かった。もう金輪際関わりたくない。
この学院にいるうちは、嫌でも関わることになりそうだが。
と、言うことで。ここは『地味にスゴイ!』を目指してみたい。つまり、技で魅せるのだ。
分かる人には分かる、そんな感じの凄さ。
俺はパワーでゴリ押しの脳筋じゃない。技巧派なのだ……!
まぁ、そんなことより合格するのが先決か。とりあえず無難に教科書通りの術にしておこう。考えるのもめんどいし。
「次の試験に移るので、移動しますよ」
教師がやって来て、そうアナウンスした。
俺はカティに作ってもらった弁当を掻き込み、立ち上がって、ゾロゾロと教室を出ていく受験生たちに急いでついて行く。
明日も同じ時間です。




