王都
第二章、やっと始まりました。お待たせしてごめんなさい。
「宿屋の角を右だから……ここか」
道ゆく親切なおばさんに書いてもらった地図を頼りに、王都の石畳の上をてくてく歩く。
あの逃亡劇から約半年。俺たちはクリスに言われた通り、王都にやってきていた。到着したのは、つい1週間前だ。住むところは、レイチェルの貴族令嬢時代のツテを使ってなんとか手に入れた。ミーティアたちも一緒に住んでいる。
結局、追いついてくると言ったヴァルターも、帰ってくると約束したクリスも未だ現れない。耳にするのは、ゾキア領が滅んだだの、領主が処刑されただの、悪いニュースばかりだ。
だんだんと王都の中心部に向かうにつれ、街の様相が変化していく。建物は石造のがっしりとしたものへ。道ゆく人は減り、どこか上品な雰囲気が漂う。
「この道をまっすぐ……」
幅の広い大通りを歩いていくと、建物が途切れ、塀に囲まれた場所が見えてきた。俺の目的地だ。身なりのいい少年少女が続々と門をくぐり、その敷地内へと入って行く。
『王立術科学院』
何代か前の国王が、術師後進国であることを憂いて創立した術師育成機関。今では、世界有数の術師養成機関で、世界中から術師の卵が集まってくる……らしい。
件のクリスにもらった紙に書いてあったのがここだ。ミーティアの方は、また別の場所が書いてあったのでそっちに行っている。
どうやったら入学できるのかは知らないが、クリスが紹介状代わりになるとか言ってた紙きれを見せれば入れるだろう、多分。
この一歩から!俺の素晴らしき青春の物語が始まるのだ!!とかそんなことを考えながら、学院の敷地内に一歩踏み出s──
「おい、そこのボウズ!」
さなかった。
門のそばに立っていた、守衛らしきオッサンに呼び止められたのだ。
「困るんだよな、ボウズ。ここは遊び場じゃねぇの」
場所は変わり、なんか詰所みたいなとこに連れてかれてお説教中だ。
俺の素晴らしきアオハル計画を、こんな死んだ魚の目をしたそこらの路地裏でたむろってそうなオッサンに邪魔されるとはな……。不覚ッ!
まぁともかく、この状況をどうにかするか。
「あのぉ、偉い人を呼んでほしいのですが。紹介状があるので」
クレーマーの必殺技、『上司呼べ!』だ。
「突っ立てるだけの楽チンな仕事だっつーから受けたのによォ……。なんでオレがガキのお守りなんぞをせにゃならんのだ……。
……なんだぁ?」
ブツブツとボヤいていたオッサンは、俺の呼びかけに気付くと、目を剥いてこちらを見た。
「いや、だから偉い人を……」
これはまさかの逆ギレパターン?
『オレが偉くねぇとでもいうのか、あ゛ぁ゛!?』とかメンチ切られちゃうのか!?
「んん……?」
そんな俺の予想とは裏腹に、オッサンは訝しげな目をしてまじまじと俺を見つめる。
な、なあに? 恥ずかしいからあまり見ないでよっ! というかオッサンの口臭なんて嗅ぎたくないのであまり顔を近づけないでいただきたい。
「な、何です?」
「……いや、昔の知り合いに似てた気がしてな。ま、気のせいだろ。
…………それはそうとして、だ。紹介状だって? オメェ、どっかの貴族ってワケじゃあねぇだろ?」
「まぁ、普通の平民ですけど」
逆に、こんな普通なガキを捕まえてお貴族さまだなんて冗談だろう。
「だよなぁ……。あー、本当に良いのか?」
「? 何がです?」
「……ま、良いか。恨んでくれるなよ。……ちょっと待ってろ」
意味深な言葉を残し、守衛のオッサンは詰所を出て行った。
そして、オッサンを待つこと数分。
バタン!
乱暴にドアが開かれ、1人の男が部屋に入ってきた。そして、少し遅れて守衛のオッサンが入ってくる。
白髪にカイゼル髭、片眼鏡の初老の男だ。表情が硬いからだろうか、どこか神経質な感じがする。
そして、ずんずんとこちらへ歩いて来ると。
「君が、紹介状とやらを持ってきたとか言う平民かね?」
あからさまに見下した、上から目線で聞いてきた。
「あっはい、そうです」
「……ふん、この私が立っているというのに、平民が座ったままとは……失礼な奴だ」
この、平民を馬鹿にした言い草は……。さては貴族だな?
前に会った男爵はそんな事はなかったが、それはやはり俺が孫であったからで、これがお貴族サマのデフォルトなのだろうか。
ま、ここで貴族と揉めるのも面倒だし、下手に出ておこう。
諸々の損得勘定を終わらせた俺は、椅子から優雅に(主観)立ち上がり、キザったらしく言った。
「これは申し訳ございません。かの高名な学院にいると思うと緊張してしまい……。礼儀もままならない私ですが、どうぞお許しください」
「……フン。では、紹介状とやらを見せてくれたまえ」
よし、門前払いは回避できた。
「只今」
懐をまさぐり、一つの封筒を取り出す。クリスに渡されたもので、真紅の蝋に複雑な紋章が押された封印がされている、なんだか凄そうなものだ。クリスがこの封印をする時になんだか呪文を唱えていたが、ゴニョゴニョと言っていたので聞き取れなかった。
きっと偽造防止とかなんかだったのだろう。この紹介状の信用度も上がるってもんだ。
「どうぞ」
「ふむ」
俺が差し出した封筒を受け取り、封蝋に刻印されている紋章を一瞥して、封筒を開いた。そして、中から一枚の便箋を取り出し、それに目を走らせた。
短くてごめんなさい。明日も多分、同じくらいの時間です。




