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とある少年の夢

今日から多分毎日更新です。10日くらいは待ちます。多分。

「──でねでね、リットが投げたのをしゅって避けて、投げ返したの! そしたらね、あのね、顔にばーん、てっ!」


 雪遊びの帰り道、ミーティアが身振り手振りを交えながら大袈裟に自分の戦果を披露する。なんとも微笑ましいことだ。

 気の早い冬の太陽は既に森へとその半身を沈ませ、俺たちの足元から長い影を伸ばしている。辺りは夕闇に覆われ、もう小1時間もすればすっかり暗闇に包まれるだろう。

「今日は泊まってくの?」

 ここからミーティアの家に帰るとなると、向こうに着く頃にはかなり暗くなってしまうだろう。そんな時間に子供が一人歩きするのは危険だ。ウチに泊まるか、クリスが迎えに来るかのどちらかだろう。

「うーん、多分そう」

 泊まっていくらしい。

 実のところ、ミーティアが泊まりにくるのはしょっちゅうだ。大体週1くらいだろうか。俺の部屋にミーティアの私物が置いてあるくらいだ。

 思えば、クリストフ家の面々はウチに入り浸りすぎではないだろうか。always(いつも)暇人の実質無職なクリスは、ウチに押しかけてきてはヴァルトと雑談したり俺を無理やり実験に連れ出したりする。ミーティアはこれまた俺を無理やり遊びに連れ出す。

 カティは…………時々ウチを訪ねてきて、レイチェルと世間話をするくらいだろう。

 こう考えてみると、クリストフ家がアレなのではなく、クリスとミーティアがアレなだけらしい。それでも一家の3分の2だが。四捨五入して1、つまり連中はみんなアレなのだ。


「またいっしょに寝よーね?」

「あ………………、ハイ」

 

 どうやら俺は今日も安眠できないようです。

 


 ◇◆◇



 向こうの方に、家の明かりが見えてきた。


「ただいまー」

「おう、おかえり」

「…………これ、どうしたの?」

 家の扉を開けると、蝋燭が煌々と輝いているのに気がついた。いつもは燃料節約のために火をつけていても1、2本なのに。

「ああ、それはね──」

 今日もなぜかウチにいるクリスが説明しようとしたのを遮って、俺に続いて扉を潜ったミーティアがドヤ顔をして言う。


「知らないの? 今日は、『雪解(レゲラーティオ)』だよ!」


 …………ああ。もうそんな時期か。


 『雪解(レゲラーティオ)』。

 冬の終わりと、春の訪れを祝う日だ。前世で言う立春に当たる日だ…………多分。特に豆まきとかをするわけでもない。冬の備蓄を放出して、いつもより少し豪華な食事をする日。ただそれだけ。季節感に密着した、農村らしい文化だと思う。


 そうか、もうそんな時期だったか。今日も雪が降ったもんだから、雪解けなんて言葉と結び付かなかった。


 見ると、カティもいた。クリストフ家とウチの合同なようだ。

 食卓を見ると、やはりいつもより豪華で、冬に入ってから質素な食事を強いられた俺としてはとても嬉しい。材料はあまり美味しくない保存食だが、レイチェルとカティが工夫して調理したのだろう、美味しそうな匂いが漂っている。


「じゃ、席について。いただきましょう!」





 ◇◆◇



 


 卓上の料理もあらかたなくなり、レイチェルとカティが忙しそうに後片付けをしている。ミーティアは満腹になったせいか少し前に寝落ちしたし、クリスとヴァルトもその辺でぐうたらしている。

 食器がぶつかり合うカチャカチャという音と、ミーティアの寝息以外には音がない、のんびりとした時間だ。

 目の前に立っている、ゆらゆらと揺れる蝋燭の火をぼんやりと眺めていると、なんだかまぶたが重くなってくる。


「おや、もうおねむかい?」

 クリスがニヤニヤと笑いながら揶揄うように聞いてくるのが見えた。

「何か、文句でも……?」

 ぼんやりとした頭のまま、それだけ答える。

「いいや? やっぱり、まだ子供なんだなと思ってね」

「…………」


「あら、寝ちゃったか」

 


 ◇◆◇


「……んんーっ……。…………アレ?」

 朝起きると、ミーティアが隣で寝ていた。

 昨日は確か、二人ともリビングで寝落ちしたはず……。

 ……ああ、ヴァルトだかクリスだかが運んでくれたのか。

 

「んみゅぅ……」

 ぐっすりと眠っているミーティアを起こさないようにそっとベッドから抜け出し、居間へ向かう。




「あら、おはよう」

「うん」

 階下では、レイチェルが朝食の用意をしていた。

「あれ、父さんたちは?」

 クリスはともかく、ヴァルトもいつもなら既に起きている時間だ。

「さぁ……。ヴァルトは起きて直ぐ出て行ったし、クリストフさんもその後……」

 レイチェルが配膳をしながら答える。

「ふぅん。直ぐ帰ってくるの?」

 なぜだか気になったので、聞いてみる。

「クリストフさんはそのうち迎えにくるって言ってたけど、ヴァルトは何も……」

 迎えにくると言うのは、ミーティアのことだろう。アイツはなんだかんだ過保護なのだ。

「あ、アル。ミーティアちゃん起こしてきて。ご飯できたから」

「あー、うん」

 レイチェルに言われ、まだグースカと寝こけているであろうミーティアを起こしに行く。



「ミーティアー、朝だよー。……って、泣いてる?」

 部屋の扉を開けると、ミーティアは既に起きていてベッドにぺたんと座っていた。その瞳は少し潤んでいる。

「ううん、あくびしただけ」

「ふぅん」

 何だ、心配して損した。

「じゃ、ご飯冷めちゃうからなるべく早くね」

「ん」

 ミーティアが短く返事をしたのを聞いて、部屋の外に出る。

 さて、今日のご飯は何だろな……ととっ!?

「うわぁぁぁあっ!」



 ◇◆◇



「──ぁぁぁあっ!」

粗末な布団からガバリと身を起こす。

「………………なんだ、夢か」

 

 夢の中でも階段から足を踏み外すなんて、俺ってば前方不注意が多すぎる。前世はそれで死んだようなものだし。もう少し足元を見て歩くこととしよう。


 それにしても、懐かしい夢だった。おおよそ1年くらい前のことだろうか。そういえば、昨日が『雪解(レゲラーティオ)』だったはずだ。今年はそんな事をする余裕もなかったが、そのせいであんな夢を見たのだろうか。

 多分もう、当分は見ることの出来ない光景だ。


 まぁ、いつかまたあの家に戻れるように、頑張ろう。

多分明日19時くらいの更新になると思います。

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