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戦火を逃れて

「どうして、こうなった……」


 普段は長閑な農村が、今日はピリピリとした空気に包まれていた。

 家から家財を運び出し、大きな荷車に積み込む人。頑として動こうとしない老人を、なんとか説得しようとする青年。泣く子供をあやす母親。

 

 村全体が重苦しい雰囲気に包まれていた。これも全て、隣国のアホどものせいだ。イクステン王国(アホ)が俺たちの住む国、トラディツィオ王国と戦争をおっ始める気なんだそうだ。土地が欲しいとかなんかで。


 傍迷惑な話だ。俺の日常(居場所)をぶっ壊しやがって。


 数時間ほど前に早馬が来て、敵軍に動きがあったと報せがあった。不運にもこの村は国境に程近いところにある。そう時間を置かずに敵兵が来るということで、急遽村民は領都に避難することになったのだ。いわゆる疎開というやつだろう。歴史で散々聞いた言葉だが、まさか自分がすることになるとは思わなかった。


 初めて領都を訪れてから一月ほど。存外に早い再訪だった。


 俺も荷造りは進めているのだが、いかんせん研究資料(紙切れ)が多すぎる。全ては持っていけないし、そのままにしておくのは接収された時にガチで危ないので、必要なものだけを選別して、それ以外は灰になるまで燃やすのだ。

 ヴァルターたちはその間、家財を運び出している。と言っても、家具なんかは持っていけないので向こうで売れるようなものばかりだ。主に倉庫の魔石と迷宮発掘品、あとはお金に少しの食糧。それだけだ。


「んー、これはいいかな……。覚えてるし」

 また一枚、要らない紙を魔法陣の上に投げる。陣が輝き、ひらひらと舞い落ちる紙を一瞬で灰へと変えた。

 この魔法陣は俺のオリジナルだ。基本は【発火(イグニション)】の出力を上げたもので、そこに結界術を応用して領域内に侵入したものを感知し、その時に陣が発動するようにした物だ。

 名前は【焼却陣(バーンサークル)】。どんなゴミも一瞬で灰にしてくれる優れもの。シュレッダーより有能だ。秘密文書を処分するのにピッタリ。後ろ暗いことしてる連中御用達の魔法陣である。


「アル! そろそろ出るぞ」

「うん。あとちょっと」

 初めは俺の背丈ほどあった紙の束も、残りあと数十枚。適当にパラパラと流し見る。


「全部いーらないっと……」


 空中に紅の花弁が舞い落ちる。そしてそれは地面へと落ちる前に灰となり、風に吹かれて散っていった。

 そして最後に残った【焼却陣(バーンサークル)】の魔法陣を自前の【発火(イグニション)】で燃やし、俺の荷造りは終わった。


 最初と比べると随分と量が減った紙束を抱え、馬車に向かう。

 どうやら荷物の積み込みはあらかた済んでいたようで、レイチェルと腰に剣を佩いたヴァルターが馬車の隣に立って俺を待っていた。

「お待たせ」

「よし、これで最後だな」

 ヴァルターに紙束を手渡し、馬車に積み込んでもらう。続いて、俺もヴァルターに抱き上げてもらい馬車に乗り込んだ。前に領都に行くときに乗ったような箱馬車ではなく──アレはチャーターしたやつだったらしい──、幌馬車だ。

 今回は治癒術があるので車酔い対策もバッチリだ。


「クリスの方は……っと、終わったみたいだな」

「や、おまたせ」

 森の方からは、ローブに身を包み長杖を携えたクリスと、カティに手を引かれたミーティアがやってきた。

 こちらは荷物も少なめで、クリスが背負っている分だけのようだ。

「失礼するよ」

 クリス達が馬車に乗り込んでくる。この馬車は、ウチとクリスの家の共用なのだとヴァルターが言っていた。

 

 流石に5人+荷物も乗ると馬車の中も手狭に感じられる。

「あれ、父さんは?」

 1人人数が足りないと思ったら、ヴァルターが乗っていない。

 俺の問いかけに、ヴァルターは答えにくそうに頬をポリポリと掻いて言う。

「あー、俺はここに残るんだ。腐っても村の駐在衛士だからな、真っ先に逃げるわけにもいかん」

「え?」

 ヴァルターが苦笑して言った。

「そんな顔するなって。村の連中が出てったら俺もすぐ追いつくから」

 それに、連中の足止めもしないといけないからな……とボソリと付け足す。


「大丈夫なの? 本当に」

「なぁに、心配はいらんさ。俺は人位級剣士だぞ? そこらの雑兵にやられるはずもないだろが」

「そう、だね」

 その笑顔が、空元気に感じられるのは俺の気のせいだろうか。


「じゃ、アル。母さんを頼んだぞ」

「……うん」


「師匠っ!」

 ミーティアが馬車から飛び降りてヴァルターに抱きつく。

「おっと」

 馬車は案外車高が高いので、ヴァルターが慌てて抱き抱える。

「大丈夫、また剣術教えてやるから」

「約束?」

「ああ、約束だ。だから、それまで鍛錬を怠るなよ? ……そうだな、一つ宿題だ。次会うまでに、俺から一本取れるようになっておくこと。分かったか?」

「できるかなぁ……」

「できるとも。ミーティア、君には才能がある。俺なんかよりも、な。だから、努力すれば絶対できるさ」

「うんっ!」

「……じゃあな」

 いいなぁ……、なんかめっちゃ師弟って感じ。


 ヴァルターがミーティアを抱いて馬車に乗せた。


「──クリス、道中の護衛は頼んだぞ」

「もちろんさ。……絶対、追いついてこいよ」

 その言葉への返答は無かった。


 クリスがパシンと手綱を打つ。

 ゴロゴロと音を立てて馬車が動き出した。

 ゆっくりと、ゆっくりとヴァルターの姿が小さくなってゆく。

 ゆっくりと、ゆっくりと故郷の懐かしい景色が遠ざかってゆく。

 

 次にこの景色を見るのは、一体いつになるだろうか。


 この日、俺たちは故郷を出た。


 戦火を逃れて。


あと1、2話くらいで一章は終わる予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして、小説読ませて頂きました。 とても面白かったです!(^^)! 文章の構成から、話しの流れなど読み手の事を考えて読みやすかったです。 今後も、頑張って下さいm(__)m
2022/12/11 08:24 退会済み
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