領主の館へ
「うぇっぷ……」
どうも。アルベールです。ただいまグロッキー中です。その原因は……。
ズバリ、馬車です。
異世界最恐は馬車と未舗装の道路でした。
そいつらは簡単に三半規管とケツをぶっ壊しやがります。皆さんも、異世界行った時には気をつけて──
と、言うことで。俺は今、サスペンションもない馬車に乗って、アスファルトのアの字もない道を領都に向かっている。
生まれてこの方ここまでの苦行を味わったことはない。出発して30秒で気分が悪くなり、ものの5分で完全に酔った。
バネとゴムタイヤとアスファルトは偉大だと言うことが分かった瞬間だった。
領都までは馬車で村から2時間ほどかかるらしい。この苦行があと1時間半……。頭がおかしくなりそうだ。
えぇと、車酔いを治すにはどうすればいいんだっけ……。そう、確か遠くの緑を見るとかだったか。幸い、眺める緑には事欠かない。自然いっぱいの平原がずぅっと続いているから。
緑緑またまた緑時々小川の水色が。そんな自然の中を馬車は走る。ガタガタと揺れながら。そう、揺れながら……。
「うぇっぷ」
微妙に治りかけてきたと思ったら、またぶり返してきやがった。
嗚呼、早くつかないかなぁ……領都。
1時間半後──
「うぷ……。吐きそう……」
俺は依然として吐き気と格闘していた。
「も、もう少しだから我慢しろ、な? …………あ、ほら、城壁が見えてきたぞ! だから、絶対吐くなよ?」
ヴァルターの声が遠くに聞こえる。
そうか、やっとこの苦行も終わるのか。
「アル、そんなに気持ち悪いのなら、降りる?」
おお、救いの女神よ……!
レイチェルがとても素晴らしい提案をしてくれた。
「ああ、その方がいいかもしれんな。街中で吐くわけにもいかんし」
「じゃあそうする……」
「よし、じゃあ降りよう。……おぉい、馬車止めてくれ。ちょっと降りたいんだ」
ヴァルターが窓を開けて御者に呼びかける。
「へい、旦那」
そんな御者の返答が聞こえると、馬車は段々と速度を落とし、揺れもおさまった。
「おい、降りるぞ」
「うん……」
ヴァルターに手を引かれ、フラフラと馬車を降りる。
「おお……。うぷっ」
馬車を出た俺の目の前には、大きな城壁がそびえ立っていた。日本のお城の塀みたいなやつではなくて、でっかい石造りの城壁だ。めっちゃファンタジー。
「──だから、先に屋敷に行って、荷物とかを下ろしといてくれ。俺らは歩きでゆっくり向かうから」
「わかりやした。では」
ごろごろと音を立てながら、俺のケツと三半規管をぶっ壊してくれやがった馬車は去っていった。
もう二度と、馬車には乗らない。絶対にだ。
そう心に誓い、ヴァルターとレイチェルに手を引かれながらフラフラと街門を抜けた。
「うわぁ……!」
街門を抜けた先は、大勢の人で賑わっていた。
赤毛茶髪金髪銀髪グレーなどなど、およそ日本であまり見かけないような人たちが大勢行き交っている。
所々に馬車も見かけるし、鎧や剣を装備している人もいる。
「どうだ、すごいだろ」
別に自分の成果でもないのに、ヴァルターが自慢げに言う。
「うん……」
人の量こそ前世の大都市には及ばないが、賑わいが違う。前世の連中はみんな板を見ながら無言で歩いているだけだが、こちらは違う。奥さん方の井戸端会議、市場の呼び込みに商人の商談。色々な会話が行き交っている。本当に賑やかだ。
「ほれ、ぼーっとしてないで早く行くぞ」
「あ、うん」
ヴァルターに促され、三人で連れ立って歩く。
通りには色々な店や屋台が並んでいるが、識字率が低いせいかどの看板も絵が描かれている。どんな店か想像がつくものもあれば、全く見当がつかない看板もあった。
「父さん、あれって何?」
「うん? どれだ?」
「あの剣と杖が描かれてる看板のやつ」
大体の見当はついているが、合っているかどうか確かめたい。
「ああ、ありゃ冒険者ギルドだな」
「おおっ!」
やはりか! 異世界系ラノベで定番の冒険者ギルド。
「父さんはな、昔冒険者だったんだぞ」
「うん。クリスに聞いたよ」
「なんだ、知ってたのかよ」
「うん。……じゃあ、あれは?」
「あれはだな──」
その後も、色々と質問をしながら街を歩いた。武器屋だったり魔導具屋だったり覗いてみたいものもあったが、俺の車酔いで歩いているタイムロスもあってか時間が押していたらしい。見ることはできなかった。まぁいずれまた来る時もあるだろう。その時に見ればいいのだ。
「お、ここだ。領主の館」
どうやら目的地に着いたようだ。俺の目の前には────クソボロい幽霊屋敷があった。
「…………え?」




