剣術2
カンッ
「ぬぐっ」
カンカンッ
「ふぇっ」
バシッ
「ふべっ」
いってぇ。3歳児を殴るなや。
「さ、早く立ち上がれ」
「いてて……。ああもう、こりゃアザ確定かなぁ」
「治せんだからいいだろ。続けるぞ」
ヒュッ!
「ぬぉっ!?」
間髪入れずに飛んできた剣閃をなんとか避ける。ギリギリ避けられるくらいの速さでやってくるのがやらしいところだ。
なまじ俺が治癒術を使えてしまうので、怪我も辞さないスパルタ指導になってしまっている。
と言っても、ヴァルターから攻撃してくることはあまりない。基本的に、俺が攻撃した後にできる隙を突いてくるだけだ。
それでもボロボロになっていると言うことは、それだけ俺が隙だらけだということで──
「は……あっ?」
俺の渾身の唐竹割りは、体捌きと剣でいなされてしまう。そして、俺の体が浮いてできた隙に──
「ほれ」
ぼごっ
「ぐぅっ」
ヴァルターが軽く振った木剣が俺の腹にヒットし、吹っ飛ばされる。
「じゃ、ミーティアと交代な」
や、やっと終わった……。
打撲痕と擦り傷だらけの身体を引きずり、庭の端へと向かう。
「はーい!」
これからボコボコにされるのになんでこんなに楽しそうなのだろうかこの幼馴染は。
死んでいるであろう目で元気一杯のミーティアを見ながらそんなことを思う。
ミーティアの爆弾発言から三ヶ月。俺たちは毎日のようにヴァルターにボコられていた。
結果、俺は下級の下、ミーティアは下級の中くらいにはなったらしい。
つまり、俺は全然成長してなくてミーティアは結構成長しているということだ。ヴァルター曰く、2年で中級行けたらかなりいい方らしい。このまま行けば、ミーティアは順当に剣術が上達していくことだろう。
俺? 知らんね。身体変わっても運痴は治んなかったし。いつもボコボコにされるだけで、どうしたら上達すんのかよく分かんないし。
ちなみに、ヴァルターに聞いた話からの勝手な印象だと、下級:初心者、中級:一人前、上級:達人、人位級:ヤベェやつ、地位級:もっとヤベェやつ、天位級:もはや意味不明、神級:マジ神。
人位級から急に適当になっているが、俺がその強さを理解できなくてかつ、どう言い表せばいいか分からなかったせいだ。
いやだって、一太刀で大陸割るような連中を神以外どう言えばいいのさ。
「おいアル、交代だぞ」
いつのまにか、木剣がぶつかり合う音が止んでいた。
顔を上げれば、地面に突っ伏して動かないミーティア。
………………やりすぎなんとちゃう?
「うー、あー、アル、ミーティアの傷、治してやってくんねぇか? ほら、女の子だしさ」
そんなこと言うんだったら最初から傷付けんなっつーの。
「うん」
ミーティアの傷は、俺と同じく打撲痕と擦り傷だけ。下級の治癒術を何度かかければ、傷は綺麗さっぱり消えた。
「アルぅ、ありがとう……」
地面に突っ伏したままモゴモゴと言う。
「別に気にしないで。元はと言えば父さんのせいだし」
こんな日々の繰り返し。剣の腕は上達しないのに、治癒術の腕は上達するばかりだ。
そして、数分後。
今度は自分に治癒術をかけるハメになった。
あの親父、いつかぜってぇぶっ飛ばす……!
術でね。
剣じゃ確実に負けるので。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして、2年が経った──
今日もミーティアにボコされました。痛いです。
昔は小さかったミーティアとの差も中級と下級の中の差にまで広がり、最近ではまるで歯が立たなくなってしまった。
俺を任した後には必ずと言っていいほどドヤ顔を向けてくるのがかわいい。
しかしそのドヤ顔も《身体強化2倍》を出した俺の前には儚く拗ね顔に変化するがな! 《身体強化》の前には小手先の技術など無意味なのだ!
…………まぁ、一回やった時、めっちゃ涙目で睨んできたのが可哀想だったし、なんかめっちゃ悪いことしてる気がしたのでもうやらないけど。
そう! 俺は《身体強化》が使えるようになったのだ。これはめっちゃ頑張った。ここ2年で一番頑張ったと言ってもいいだろう。めっちゃ転んだし、めっちゃ怪我もした。その血と涙の結晶が《身体強化・2倍》なのだ。
魔導書の改良もした。
具体的には、詠唱がなくても魔法陣を展開できるようになったのだ。
これは改良というか、俺がただ勘違いしていただけだった。
今まで詠唱で手のひらを指定してたけど、よく考えればこれ魔法陣で良くね? そもそもなんで魔法陣じゃなくて詠唱にしたのかっつーと、その都度その都度状況によって展開する場所を変えてるからであって、展開する場所を『手のひら』に固定するのなら、魔法陣をその都度その都度改変する必要もないし、その方がよっぽど早い。
とか色々考えた結果、《我が手に宿れ叡智のかたち》の詠唱を解析して作った魔法陣を、手のひらに仕込んだ手袋ができた。
ちなみに、手袋は普通に防寒用の手袋だ。去年の冬あたりにレイチェルが作ってくれた手袋を流用したのだ。
本当は指貫グローブとか白手袋とかが良かったのだが、ウチにそんなものはなかった。
冬場は別にいいのだが、夏はめっちゃ蒸れるのでそのうちどうにかしたい。
「さ、立って!」
と、そんな俺の現実逃避を邪魔する声が。
ミーティアだ。
またボコボコにされるのはごめんなので、断固気絶したふりを敢行する。
「あれぇ、気絶しちゃったの?」
そうです。私は気絶しちゃったのです。話しかけても何も返事がないただのしかばねです。なのでどうかそっとしといてください。
「う〜ん…………」
ミーティアは考え込み、そしてブツブツと何事かを呟いた。
そして、しゃがみ込んで俺の頭に手をかざす。
「【治癒】!」
や、優しすぎるっ! なんていい子なんだ!
俺だったら絶対水ぶっ掛けてやるのに。
おっさん感激っす!
感動に身を任せ、ガバッと勢いよく起きる。
「あ、起きた!」
飛び起きた俺の眼前には満面の笑みを浮かべたミーティア。
そして勢いのままミーティア抱きつこうと──
「もう一本、できるね!」
そうでした。こんな人なのでした。
ここ2年で、ミーティアは立派な(?)戦闘狂に育ってしまった。
遊び?それより剣術だ!な美少女剣士☆ミーティアちゃんになってしまったのだ。
別にそれはいいのだが、いつもいつも俺をボコすのはやめて頂きたい。本当に、やめて頂きたい。
悪意は全くないのだろうが、それがまた厄介だ。無邪気な笑顔で、『剣術、やろ!』とか言われちゃったらもう断れない。
俺はサンドバッグじゃないのだ。
あとは、先程【治癒】を使っていたことからも分かるように、術も下級の幾つかは習得した。ミーティアが俺に術を教えてほしいと頼んできた時には、俺は戦々恐々としたものだ。剣術だけでなく、術でも抜かされてしまうのではないか、と。
まぁ、それはただの杞憂だった。飽きたのかどうかは分からないが、ミーティアが術を諦めた時には陰ながらホッとしたものだ。
まぁそんな話は置いといて。
「えーとぉ……」
この場をどう切り抜けるか。それが問題だ。
またボコされるのは割と真剣に勘弁して頂きたい。後で治せるとはいえ、痛いものは痛いのだ。
と、後ろで落ち葉を踏む音が。
「あ、師匠!」
なんだヴァルターか。
ミーティアは、いつからかヴァルターのことを『師匠』と呼ぶようになったのだ。初めてそう呼ばれた時のヴァルターの顔面は、ニマニマしていてとても見られたものじゃなかった。
「おおミーティアか。今日も頑張ってんな。っと、アル、明日出かけるからなー。準備しとけよ」
ここで思わぬ助け船。毎度のごとく唐突な話だ。
出かけるだって? 一体どこへ。
自慢じゃないが、俺はこの村から一度も出たことがない。外のことも、たまに来る行商人のおっさんから聞いたくらいだ。
「どこ行くの?」
「領都だよ。領主に会いに行くんだ」
「何故に領都? それに領主ってどういう──」
「あー、それは行きに話すから。じゃ、準備しっかりな」
行っちゃった。
さっぱり分からん。まあここは、ミーティアのしごきから逃げる口実ができたことを喜んでおこう。
「じゃあ、そういうわけだから。ちょっともう時間ないかな」
「そう……」
なんだか悲しそうな顔だ。悪いことをしてしまったかな……。
「じゃ、帰ってきたら絶対やろうね!」
「あ、うん。ジカンアッタラネ」




