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魔導書

めっちゃ遅れました。ごめんなさい。

ここ二週間くらいは少し忙しいので、あまり更新できないかも知れません。

 一週間後──


 魔法陣を書いた本がようやく完成した。

 これからクリスにお披露目する予定。

 何故あのオタクにわざわざ見せるのかというと、約束をしてしまったからだ。

 完成したら、見せるという約束を。

 アレは迂闊だった。

 いくら上級の術が使えるところに案内してもらう、という負い目があっても了承すべきではなかったのだ。


 ……ま、良いんだけどね。別に。

 何かアドバイスとか貰えるかもだし。

 

 と、言うことで。見せに行こう。

 紙の束をつかみ、部屋を出て居間へと向かう。


「──えーと、それで、報酬の件なんだけど……、」

 居間を覗くと、案の定クリスがいて、ヴァルターと話をしていた。

 クリスの隣には、ミーティアがお行儀よく座っている。

 なんだか大事そうなお話をしているようだ。これは出直してきたほうがいいかな?

 と、クリスがふとこちらを見る。目が合った。


「や、アルベール君。お邪魔してるよ」

 やっぱりバレたか。もう今更部屋に戻ってもアレなので、開き直って居間へと踏み込む。

「こんにちは」

「おお、アル。何か用か?」

 クリスに遅れること数瞬、ヴァルターが俺に気付く。

「いや、別に……」

「おや、その紙束は?」

 目敏いやつめ。

 クリスが俺の抱える紙束に気づいてしまった。

 いやまぁ、そのために来たのだけれど。

 

「えーと、これはアレです。約束の」

 

「? ……ああ、あの時のか!」

 俺の曖昧な返答でもすぐに気づいたようで、ぱぁっと顔が輝き、瞳に好奇心の色が宿る。

「で、完成したのかい?」

「まぁ試作品ですが、一応」

「それで? 何を作ったのかな?」

「えと、まぁ見た方が早いと思うので、来てください」

 しつこく聞いてくるクリスにいちいち説明するのも面倒になったので、それだけ言って庭へと向かう。


 玄関の扉を開く時にチラっと後ろを見ると、クリスだけでなくミーティアやヴァルターまでもがゾロゾロとついて来ていた。

 観客が増えた。緊張するぜ……!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 さぁ始まりました大魔術○験!! 今回の実験は……『魔法陣の空中展開』!


 ……はい、そういうことで。

 テンションアゲアゲでやっていきましょう、はい。


 使う術は水属性中級【水斬ウォータージェット】。高圧の水流で物を斬る術だ。

 的は庭にある大岩。いつぞやに【魔弾マジックバレット】で穴を開けたやつだ。


 本をペラペラめくって目的の陣を探す。

 えーと、何ページに描いたっけ。確か、属性順に並べて、その中で階級順に並べたはず……。


 あった。

 しかし、これは目次とか作った方がいいな。後で作っておこう。

 早速見つかった改善点にうんざりとしつつ、魔法陣へと右手をかざす。


「じゃあ、始めます」


 返事を待たず、魔法陣に少しの魔力を流す。

 魔法陣が薄く輝き、俺の右手に白いモヤが集まった。


 これで準備は完了。あとは狙いを定めて撃つだけだ。

 

 ゆっくりと手を伸ばし、その手のひらを岩へと向ける。


「発射」

 と小さな声でつぶやいて、手のひらへと魔力を込めた。

 ピンと開いた手のひらに、青い魔法陣が展開され、エアコンプレッサーのような音を立てて、水が放たれる。


 勢いが衰える様子を全く見せずに岩に激突した水流は、盛大な水飛沫と音を立てて岩を穿ってゆく。

 

 そしてその轟音が数秒ほど続き──


「このくらいかな……」

 陣への魔力の供給を止める。

 

 轟音が消え去り、後に残ったのは静寂と穴が空いた岩だけ。

 

 誰も言葉を発しない。

「え、と、これが僕が作ったものです。細かい理論とかは省きますが、簡単に素早く術を使える本です。まぁ簡単な仕組みとしては、魔法陣の──」

「アルベール君」

 と、クリスが口を挟んでくる。

「……君、ソレを誰かに見せたかい?」

「え? いや、今日がはじめてのお披露目ですが……」

「そう、か……。…………それはダメだ。その本は、誰かに見せてはいけない。絶対に、だ。分かったね?」

 唐突にそんなことを言って来た。

「え……何故──」

「危ないからさ。その本は、魔力さえあれば誰でも術を使えてしまうのだろう?」

「まぁ、そうですね」

 そのような使い方は想定していなかったが、確かに使えないわけではない。だって、魔力を込めて詠唱するだけでいいのだから、最低限『魔力を込める』ということさえできれば誰でも使えるわけだ。


「もしそんな道具を売り出したら、間違いなく莫大な利益が得られるだろう」

 なるほど。

「でも、売るつもりなんてないですよ?」

「そう、それが問題なんだ。君が売るつもりがなくとも、必ずそれを売ろうとする輩が現れるだろう。でも、製法は君に聞かなきゃ分からない。金を積んで買おうとするならまだマシだ。最悪、誘拐拷問拉致監禁なんてのもあり得る。

 つまり、その本を君が作れると知られることは、君と、その周りの人を危険に晒す、という事と同義だということを分かっていて欲しい」


 な、るほど……。俺には考えが足らなかったようだ。今のクリスの話を聞いてよく分かった。

 今世が平穏過ぎて、金の為ならどんなことでもする奴がいる、ということを忘れていた。

 じゃあ、この本も封印かな……。

 結構頑張って作ったので、残念だ。


「──ま、せっかく君が作ったわけだし、そんな画期的なものがなくなってしまうのも惜しい。と、いうことで僕から一つ提案だ」

「提案……?」

「そう。要するに、その本を君が作れてしまうというのが問題なわけだ。そこで、それを迷宮発掘品ということにして、一点物にすればいい。まあ、迷宮発掘品もそれなりに貴重ではあるけど、魔力を込めれば術が使える、程度のものにそんな必死になる輩もいないだろうし」

「迷宮発掘品って?」

「ああ……。迷宮(ダンジョン)から時々見つかる、特殊な効果を持った道具のことだよ。基本的に一点物で、同じものが見つかったっていう話は聞いたことがないな」

 なるほど。やっぱり赤い宝箱とかに入ってたりするのだろうか。

「魔導具とは違うんですか?」

 魔導具というのは、その名の通り魔力をエネルギー源とする道具のことだ。


「えぇと、魔導具はしっかり理論的に組み立てられていて、同じものが作れるけど、迷宮発掘品はそもそもなぜそんな効果がついているのかさえ分からないんだ。まあ、魔導具にも古代魔導具(アーティファクト)っていう、仕組みがよく分からない物もあるけど、それも一応機構っぽいのがついてるしね」


 不思議パワーで動くのが迷宮発掘品で、かっちり組み立てられてるのが魔導具というらしい。


「じゃ、問題は解決ってことで。あ、アルベール君。その本だけど、ただの紙束じゃ格好がつかないから、後で革表紙をつけてあげるよ」

「マジですか!?」

「まじ?」

「ああいや……」

 革表紙のついた本って、なんかかっこいい。

「ところで、その本名前ってあるのかい?」

「名前ですか……」

 今までは『魔法陣を描いた本』で通していたけれど、さすがに長すぎるか。

 ここは一つ、とびっきりかっこいい名前を……。

 魔法書……魔術書……なんか違うな。

 ああ、そうだ──


「これは、『魔導書』です!」


やっと魔導書が出てきました。

あと、ポイントが20pt台に乗ってました。評価していただいた方、ありがとうございます。


備考

【水斬】についてですが、実際のウォータージェットは『斬る』というより、水が当たったところを『吹き飛ばす』らしいです。

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