お泊まり会
いつもよりは長めです。
一日遅れてごめんなさい。
ところで。
この世界の、それなりに裕福な家には大体風呂がある。実際のところ、中世ヨーロッパに風呂が存在したかどうかは知らないが──俺にとっては都合がいいので気にしないことにする。
『それなりに裕福』──それには我がグリモワル家と、クリストフファミリーも含まれるようで、ウチには風呂があった。
そして、クリストフ邸にも──
──バシャ、バチャ
水の音が小さな部屋に反響し、白い湯気が部屋を満たす。
そんな空間で過ごす至高のひととき──
「ふぅ……」
パシャリ。
手でお湯を掬い、身体にかける。
やはり風呂とはいいものだ。汚れと一緒に疲れまで流されていく気がする。
今日は本当に疲れたというか緊張した。そして痛かった。
まあ全て丸く収まったのは良かったが。
これでここ一週間のストレスの元は全て解消された。はず……。
──バシャッ!
「ぬぉ!?」
水滴がポタポタと顔面を伝う。
「にへへ……」
その顔の向く方には、満面の笑みを浮かべたミーティア。
お湯ぶっかけたな……。
「このぉっ!」
お返しでこちらもお湯をかけてやる。
「うきゃっ!」
ミーティアは顔を背ける。
そして、振り返るのと同時に……お湯をまたかけてきた。
そしてこちらもやり返す。
お湯の掛け合いはだんだんと激しくなっていき……。
「こーら、そのくらいにしておきなさい」
一緒に入浴していたクリストフに嗜められた。
「はぁい」
ミーティアは特に悪びれた様子もない。
「そろそろあがろうか。顔、赤くなってるよ?」
「あーはい」
いつの間にかのぼせてしまっていたらしい。
「じゃ、あがろうか。ほら、ミーティアも」
「うん」
ざぱぁっと音を立てながら立ち上がる。
術師のくせにやけに鍛えられたクリスの体が顕になる。
細マッチョというやつだろう。
俺の体を見下ろす。
見事なイカ腹。筋肉のきの字のかけらもない。
「はぁ……」
なんだか負けた気分だ。
「どしたの?」
ミーティアの顔がにゅっと視界に入ってくる。
「別にどうもしてないよ」
こちらも見事なぽってりイカ腹。色気のかけらもない。まぁ、3歳で色気があったらそれはそれで問題なのだが。
風呂を上がった俺たちは、すぐに寝る準備を始めた。
多分時間的には7時を回ったくらいか。まぁ、幼児が寝るには遅いくらいだ。
「ほらアル、こっち!」
ミーティアは満面の笑みで俺を部屋へと引っ張ってゆく。まるで眠気のかけらも感じない。
きっと、『お泊まり会』というシチュエーションに興奮しているのだろう。そんなイベントがこっちの世界にあるかは知らないが。
ともかく、俺がミーティアと一緒に寝るのは決定事項らしい。まぁ別に良いのだけれども。この体格では、同じベッドに二人寝たとしても余るくらいだろう。
特に問題はない。ないはずなのだが……。
なんだろうこの緊張感は。
なぁに、裸の付き合いもした仲だ、別に添い寝?なんてなんてこともないさ!
そう思いたい。別に添い寝しても興奮なんてしないと思うが。
だって3歳児だもの。
そんな相手に中身31のおっさんが興奮したら問題だ。ロリコンどころの話ではない。
というか、この状態ではきっと性欲なんかもないだろう。あっても意味ないから。
生殖なんてまだできないし。
というわけで、安心して一緒に寝れる。ハズ……とかそんなことを考えているうちに、ミーティアの部屋の前まで来てしまった。
もうここまできたら覚悟を決めるしかない。
幼女と添い寝する覚悟を……!
と、文字に起こしてみると別にそれほど問題ないのではないかと思い始めてきた。
幼女(3歳)と幼児(3歳、中身31歳)が一緒の布団で寝る。中身さえ無視すればなんの問題もない、ただ微笑ましいだけの光景だ。
そして俺の中身を知る人間は誰もいない。なぜなら、帰ってこれないからだ……!とか冗談はほどほどにしておく。普通に教えてない、誰にも。
その中身に関しても、別に幼児性愛者というわけではない。
倫理的にも、父親とその娘が一緒に寝てる図にしか見えない……ハズ。
いやまぁ、金髪美幼女と黒髪の冴えないおっさんとの間に血縁関係を感じるのはほぼ不可能に近いが。
そんな細かいことは気にしないで良い。
つまり、俺とミーティアが一緒に寝てもなんら問題はない、ということだ!
おーけーおーけー。これで今夜も熟睡できるぜ! と言っても、倫理的に問題がないとわかっただけで、俺の心情的には問題大アリだ。
そもそも、30年間童貞の魔法使いには、同年代の異性と同衾というだけで刺激が強すぎる。はなぢがでそうだ。
……まぁ覚悟を決めるしかない。
ほら、もうミーティアがベッドに腰掛けて隣をバンバン叩いている。
行くしかないか……。
「はぁ……」
ため息をひとつ、ベッドへと足を向ける。
ミーティアの隣に腰を下ろし、そのまま横に倒れ、奥の方へと転がる。
──ぼふっ
ミーティアも倒れてきて、図らずも向かい合う形となった。
「んふふ……」
夜の暗がりの中、ミーティアの白い肌だけがぼうっと浮かび上がる。
「ち……」
「ち?」
近ええぇぇぇぇええ!
──バッ!
「? なんで向こう向いちゃうの?」
「べ、別に……? それよりも、早く寝ないと。もう遅いし……」
「ええー、もう少しだけお話ししたい!」
「うぐっ」
そう言われると弱い。
「……じゃあ、少し話したら絶対寝るんだよ。あと、もう少しボリューム下げて」
「うん、わかった……」
こしょこしょ声でミーティアが返事する。
まぁ、案外こしょこしょ声のほうがよく聞こえたりするのだけど。
「ねぇねぇ」
「んー?」
「私のこと、好き?」
どういう意図の質問だろうか。恋愛的な意味なのか、それとも親愛的な意味なのか。
「そりゃまぁ……、好きだよ」
相手は3歳児。きっと親愛的な意味だろう。
「よかった……。私もアルのこと好きだよー?」
ここまでストレートに好意を向けられたのは初めてだ。そういう意味ではないと分かってはいるが、勘違いしてしまいそうだ。
「そりゃよかった」
照れ臭さを押し隠し、そっけなく応える。
「む〜……!」
俺の返しに何か不満でもあったのか、そんな声を出す。
!
背中に柔らかくて温いものが密着してきた。
「!?」
思わず、首を後ろに回す。
「ちょ……!」
ミーティアが背中に引っ付いていた。
──ズズッ
奥の方へと身体を動かす。
──ズズッ、ピトッ
ミーティアも動き、また引っ付いてきた。
──ズズッ
──ズズッ、ピトッ
──ズズズッ
──ズズズズッ、ピトッ
やばい、もう動けない。
前には壁、後ろにはミーティア。
完全に挟まれてしまい、身動きが取れない。
「あのー、ミーティア? もう少し寄ってくれると……」
「スー、スー……」
寝てる。
「マジかよ……」
主人公がなんかうじうじ言ってるだけの回でした。
次回は魔術方面で進歩があるハズなので。




