仲直り
少し遅れました。
翌日──
色々と謝る準備をしていたら、一日が過ぎてしまった。
授業が終わり、昼食も食べ終わった昼過ぎに家を出て、数分前にクリスの家に着いたのだが……家に入る勇気が出ない。
何度も家の前を行ったり来たりしている。これでは完全に不審者だ。まぁ見た目3歳なので、どちらかというと迷子に見えるかもしれないが。
そんなことをしていたら、気づいて声かけてくれないかな〜とか内心期待しているのだ、どうせ。
情けないやつだと自分でも思う。
でもそれが前世からの俺の性格なのだ。仕方がない。
……と前世の俺なら諦めただろう。しかし、今世では違う。変わらなければならないのだ。
いける、いけるぞアルベール。きっと上手く仲直りできる。何も問題はないさ。きっとない。さぁ、行かないと。行こう、ドアを叩きに。
意を決してドアの前に立つ。
「ふぅ……、よし」
息を大きく吐き、木製の扉を軽く叩く。
木材の、柔らかく軽快な音が響いた。
後は人が出てくるのを待つだけだ。
第一関門──クリア。
「はーい」
すぐに返事が聞こえてきた。この声はカティか。
一番楽なのは、ミーティアが出迎えてくれるパターンだが、やはりそう上手くはいかないらしい。
しばらくして扉が開いた。
「あらアルベール君。久しぶりね」
「はい、ご無沙汰してます。ミーティアさんはいらっしゃいますか」
「ええ、いるわよ。呼んでくる?」
「いえ、大丈夫です。こちらが向かうので」
「あらそう? アルベール君は本当に礼儀正しいわねぇ。ウチの子にも見習わせたいくらい」
なんか分不相応にも褒められてしまった。3歳児が敬語なんて使っていても不気味なだけだろうに、優しい人だ。
それに礼儀正しいわけではない。前世の癖で媚を売っているだけだ。
廊下を少し進んだところでカティと別れ、俺は一人ミーティアの部屋へと向かう。
一階の居間の隣にある部屋がそれだ。
ドアには、『三ーテイアのへか』という札が掛かっていた。
何だこれ。
ああ、『ミーティアのへや』か。きっと、字が少し書けるようになったのが嬉しくて書いたのだろう。何とも微笑ましい。
おっと、そんなことをしている場合じゃない。部屋の真ん前で突っ立ってる間に部屋から出てきて鉢合わせ、とか一番気まずいパターンだ。早くノックしよう。
「スゥウ……、よし」
息を大きく吸って、扉へと手を伸ばす。
──コン、コン
「えーと、アルベールです、入ってもいいですか?」
反応なし。
やっぱ嫌われちゃったのだろうか。
そう意気消沈していると、部屋の中から何やらどったんばったんと音が聞こえてきた。
──バン!
「ぐぼぉわっ!?」
顔面に激痛が走った。
その衝撃で背中から床に倒れ込み、鼻先を手で押さえて悶絶する。
「アル! ……あれぇ?」
いつの間にか扉が開いていて、そこからミーティアが顔を出し、辺りをキョロキョロと見回している。
どうやら、彼女が勢いよく開いた扉が俺の顔面へと激突したらしい。
道理でめっちゃ痛いわけだ。
と、ミーティアが床に転がる俺をやっとこさ発見したようで、驚いたように目を見開き、そして顔を歪めた。
そして──
「あ、アル!」
俺の腹へと勢いよくダーイブ!!
「おぅえっ!」
今日は厄日だ、本当に。
「アルぅ……! さびしかったよぉぉぉお!」
さらに、俺の腹に抱きついたまま泣き出してしまった。
何故に? 誰か説明プリーズ。
「あらら、やっぱこうなってたか……」
隣の居間からクリスが顔を出し、そう言った。
数分後──
「あの時は、ごめん。俺が悪かった」
やっと俺はミーティアに謝ることができた。
あの後、クリスから全ての事情を聞いた。
どうも、あの日俺が帰った後に、ミーティアは拗ねて不貞寝をしてしまったようだ。そしてそのまま翌日の朝まで寝てしまったらしい。
起きた後はまだ喧嘩したことをはっきりと覚えていたらしく、自分から「授業は行かない!」と言ったらしい。
で、そのまた翌日も来なかったのだが、それは喧嘩とかは関係なしに、ただの惰性で行かなかったようだ。その頃にはもう喧嘩のことなどすっきりと忘れていたようだ。
その翌日もそんな感じで、最終的に一週間来なかったらしい。
要するに、一回でも学校サボるとその後も行くのがダルくなって、最終的に不登校になってしまう、というのとほぼ同じだろう。
普段、俺とミーティアの接点は基本授業だけで、遊ぶ約束もその時にしていたので、授業に来なければ当然接点も消え、その間俺と会えない寂しさに思いを募らせていた──らしい。
それが今回の顔面負傷と腹ダイブへつながったようだ。
嫌われているどころか、むしろ好かれていたようなので嬉しい。
こうして、俺たちの喧嘩事件は解決を迎えたのであった──
とか言って帰ろうとした時。
「やだ!」
あれ?
「一緒にいたい!」
「でも、もう遅いし、アルベール君も帰らないと、お家の人たちが心配しちゃうだろう?」
「うぅぅぅう……!」
俺と離れるのが嫌らしい。
ふっ、愛されすぎててつらいぜ。
「困ったなぁ……。ああ、そうだ。じゃあアルベール君、今日泊まって行かないかい?」
唐突なお泊まり会!?
「ええと、まぁいいですけど」
「よし、じゃあ決まりだ。ヴァルターの方には後で連絡しとくから」
「やったぁ!」
俺がお泊まりするのがよっぽど嬉しいらしい、飛び跳ねて喜んでいる。
とても微笑ましい光景だ。
と、そこでミーティアが爆弾発言。
「今日は私と一緒に寝よっ!」
ど、同衾っすか!?
……冗談です。別に何もやらしいことなんてしません。




