準備
あれから一週間。
俺は一度もミーティアと口を聞いていないどころか、顔を合わせてさえいない。
「まだ仲直りしてないのか」
ヴァルターが呆れたように言ってきた。
「うん……」
「まったく……、案外意地っ張りなんだな」
別に意地を張っている訳ではないのだが。
あの後、家に帰ってきた俺はこっ酷く叱られた。
まぁ、約束を一方的に破った上に相手を泣かせたのだから妥当だとは思うが。
あれは完全に俺が悪かった。
いわば、ミーティアの『私と魔法陣、どっちが大事なの!?』という問いに対して、『テメェよか魔法陣の方が百倍大事だわ!』と逆ギレしたようなものだ。
うん。
俺が悪い。
3歳児相手にキレる俺がおかしい。
あの後、ミーティアは家に引きこもっているらしい。
謝ろうにも、家に行くのが大変気まずいので謝れてさえいない。
やはり俺は成長などしていなかった、という事が分かった一件だった。
結局は自己中心的で自分が最優先。自分のやりたいことだけやって、やりたくないことはやらない。意気地もない。
ないないだらけだ。
「まぁ、早めに仲直りしといた方がいいぞ?」
「うん。わかってるけどさ……」
「わかっているなら、早めに行動しなさい」
え。
そう思って顔を上げ、ヴァルターを見る。
ヴァルターはもう立ち上がり、部屋を出ていた。
珍しい。基本的にあの人は子供の争いには不干渉だ。あの日、俺を叱ったのはレイチェルで、ヴァルターは横で眺めているだけだった。
何かあったのだろうか。
いや、今はこれからどうするかだ。
とりあえず、仲直り。
だめ。とりあえずとかそんな考えでやっても、また同じ事になる。
俺の行動を改善せねば。
やはり問題があったのは接し方だろう。
俺はきっと、ミーティアを見下していた。
年齢が低いから。ただそれだけの理由で。
だから約束だって簡単に破った。
やはり俺はクズだった。
そういう話だ。
……いやそうではなくて! それをどう正すかだ。
要するに、ミーティアを見下さないようにすれば良い。
俺の『年齢』という優位性に優るミーティアの良さを見つければ良いだろうか。
結局は意識の問題なのだ。
良いところ……たくさん思い浮かぶ。
まず、かわいい。かわいいは正義。将来はきっと美人さんになる。
そして、性格もいい。とにかく無邪気。このまま行けば、将来も無邪気に──はっ! 恐ろしいことに気づいてしまった。もしかしたら、今回の一件が彼女の性格に悪い影響を与えているかもしれない。そんな事はないと思いたいが……。
きっと大丈夫だ。そんなことで歪むような子ではないと信じている。
勉強はあまり得意ではないようだが、それもまたご愛嬌だ。
結論。なんで俺はミーティアより上だとか思っていたのだろう。頭おかしいのではないだろうか。
これはもう、認めざるを得ない、いや認めよう。……上から目線だな。
認めさせてください、あなたの方が上です!
よし、意識の改変終了。もう大丈夫。ミーティアを見下すことなんてきっとない。むしろ、嫉妬してしまいそうだ。
そもそも、年齢で優位がどーのとか言っていた時点で頭おかしい。年齢ではなく、長い人生で培われた知識と経験が優位性を生むのだ。
よし、仲直りだ。
ぜひしたい。絶対にしたい。あんないい子との縁がここで切れてしまうのは勿体無すぎる。
さて、どうするか。
まずは謝る。これは絶対に必要だ。これをなくして仲直りなんてできない。
その前に、会わないといけないが……。
会って、くれるだろうか。それが一番心配だ。もしかしたら、どうしようもないほど嫌われているかも知れない。罵られるかもしれない。それが恐ろしい。
この世界で、一番最初の友人。一番の友人。
初めての『一番』だ。
前世の俺にはなかったもの。
それを失いたくない。
……それなら、あんな態度取るなよって話だ。
話がずれてきているな。
会ってくれないのなら、強引にでも会う。そうしよう。もしくは『天岩戸作戦』しちゃうとか。
まぁ、案外普通に会ってくれるかもしれないし、深く考えるのはやめておこう。
あとはお詫びの品でも持っていけばいいか。




