喧嘩
短めです。
「ふむぅ……。つまり、魔力回路に問題はないのに座標設定がおかしい、というかそもそも存在しない、と」
「そういう事です」
やはりクリスは頭がいい。俺の要領を得ない説明で全てを理解するとは。
「じゃあ、魔石回路の方に問題があるんじゃないかい?」
「でも、魔力回路に問題がないのだから、魔石回路の方も大丈夫だと思うのですが」
だって、魔石回路の問題は魔力回路にも反映されるはずだから。
「もし、反映されない部分があるとしたら?」
「? どういう事ですか?」
「座標設定の魔石回路が、魔力回路に反映されないんじゃないかって事だよ」
「でも、魔力回路に反映されないと効果が……」
「魔力回路には要らない効果だからじゃないかい?」
だって──と続けて。
「魔力回路を展開する場所を指定するのだから、魔力回路を展開する前に効果を発揮しないと意味がないじゃないか」
「……………………ああっ!!」
そうか! そういうことか!!
持ってきた荷物から白紙の紙を取りだして、魔法陣を描く。【灯火】の魔法陣だ。しょっちゅう実験とかで描いているので、形は覚えている。
ささっと描き上げると、魔力を流して魔法陣を起動させた。
「ここが……、これで……」
魔石回路と魔力回路の対応表を見ながら、魔力回路に反映されていない魔石回路を探す。
「あった」
魔法陣の外縁部。三つの円と、その周り。
そこだけ魔力回路に反映されていない。
ここが──
「アルやっときた!!」
居間の扉が開くバン!という音とともにそんな声が聞こえてきた。
「ああミーティア、起きたのかい」
どうやら昼寝でもしていたらしい。
「おはよう、とうさま」
「うん、おはよう。アルベール君に用事かな?」
「うん。昨日遊ぶって約束したの」
「したっけ?」
「した!」
ミーティアが強く肯定する。
「ごめん、今忙しいからさ。また今度でもいい?」
この記憶が薄れないうちに、記録に纏めておきたいのだ。
「むー、昨日もそれ言った!」
頬を膨らませて不満げに言う。
「そうだっけ? まあともかく今は時間ないからちょっと……」
「やだ! 今日遊ぶの! 約束したじゃん!」
ミーティアは、地団駄を踏みながらそう駄々をこねる。
ああ、もう!
「今はそんなことしてる暇はないんだって!」
しまった。
その言葉を叫んだ後、そう思った。
「…………ぇくっ」
小さくしゃくり上げるような声が聞こえた。
ミーティアの翠の瞳は潤み、大粒の涙がほのかに紅潮した頬を流れ落ちてゆく。
「あ」
「アルのうそつき! うそつきうそつきうそつきうそつきううぅぅぁぁうう!! ひくっ、あそぶって、あそんでぐれるって言っだのに゛! やくそくしたのに!! きらい! ぎらいきらいきらいぎらいきらい!!! だいっきらい!! アルなんて、ぇくっ、大っっっきらい!!!」
そう、一頻り怒鳴った後、泣きながら居間を出て行ってしまった。
俺は、何も言えなかった。
終わった。
「あーあ、泣いちゃったか」
クリスがとぼけたように言う。
「きょうは、もう帰ります……」
「あー、そう。まぁ、あんまり気にしなくても良いよ。一晩寝たら忘れてるさ」
クリスの言葉には応えず、手早く荷物を纏めて部屋の扉に手を掛ける。
「さぁて、どうするのかな」
そんなクリスの呟きが、背後から聞こえてきた。
そして、翌日。
クリスの授業に、ミーティアが来ることは、無かった。




