詠唱の可能性、師弟生活の終わり
大変長らくお待たせいたしました。ごめんなさい。
やっと書けたので投稿します。
新作もありますので、よければお読みください。
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魔力の正体が分かったからと言って、魔術が急に上達するという事もなく──
二年が過ぎた。
この二年で四属性は中級、その他三属性も中級まで習得できた。
今は上級に苦戦中だ。
中級までは一発で成功していたのに、上級になると急に不発が増えた。
考えたくはないが、ここらが才能の限界なのかもしれない。
「うーん……。もう少し、押さえつけるような感じでやるといいかも」
「はい。《遍く水の精よ 我が力を贄として 我が定めし今、我が定めし此処に 天より墜つる水龍の、破壊の奔流をもたらせ》【瀑布】」
いつかのクリストフと同じくらいの量の魔力が放出され、形を成そうとするが、途中で霧散してしまう。
どうも高位の術になると、詠唱だけでは大量の魔力を制御しきれないらしい。術者のイメージが必要になってくるようだ。
そのせいか、クリスのアドバイスも抽象的、感覚的なものが多く、やりづらい。
俺はそのイメージが苦手なようで、今日だけで何度も魔力を霧散させてしまっている。
イメージというのは存外難しいのだ。
そもそも、出て行った魔力を制御するのが難しい。
なまじ魔力が見えているせいで、自分とは離れていて制御できない、というイメージができているのかもしれない。
そう、ここ一年と少しのクリストフの様子を見ると、普通の人は魔力なんて見えないようだ。
俺の体質だったらしい。
特異体質。
なんか嬉しい。
離れた魔力を制御するコツが掴めれば案外行けそうな気がするのだが……。
「身体から出てった魔力って、どう制御すればいいんですか?」
「えと、随分感覚的な話になっちゃうんだけど、『魔力との繋がりを意識する』ことかな。指先とのだったり、杖の先とのだったり。人によるらしいけどね」
「繋がり……」
「簡単な魔術から練習していけば良いんじゃない?」
糸みたいなのをイメージすれば良いのだろうか。
「《大いなる導きの火よ》」
魔力の塊と指先が細い糸で繋がるようにイメージして詠唱する。
いきなり遠くすると難しいと思うので、指に付くか付かないか、というところだ。
「【灯火】」
うねっていた魔力の形がはっきりとし、指先に火が灯る。
「うわっち!?」
本当に指に火がついてしまった。
慌てて火を遠ざける。
「ああ、できたじゃないか」
クリスが呑気に言う。
「それより、早く治してくださいよ!」
「自分でやればいいじゃない。どんなに痛いときでも魔術を使える。それも練習だよ」
「はいはいわかりましたから!」
急いで下級の治癒魔法を唱える。
「《秘めたる力以ちて傷を癒せ》【治癒】」
火傷をした指先が白い光につつまれ、それが収まると火傷の跡も残っていない綺麗な指が現れる。
簡単な怪我なら治癒魔法で一瞬のうちに治るのは、この世界の良いところだ。
この火傷だって、前世なら流水で冷やして軟膏を塗って……と面倒な処置をした上で、何日か経たないと完全には治らない。
ただ、あまり時間が経って、瘡蓋ができたりすると、それを剥がしてからでないと治癒魔法が効かないので要注意だ。
「もう一回やってみたら?」
「もう一回火傷しろと?」
「いや、感覚を忘れないうちに……ってやつさ」
「《大いなる導きの火よ》【灯火】」
えーと、『糸』だったけ。
うごけー、うごけー。
むむむ〜〜っと念じる。
動かない。
やっぱ感覚的なのは苦手だ。
「出来ないねぇ。でも、これが出来ないと上級以降は難しいんだよね」
「そうですか……」
感覚的なのが入ってくるとなると、上級以降は無理かもしれない。
……待てよ? 詠唱で制御しきれないなら、詠唱を追加すれば制御できるようになるんじゃ?
試してみる価値はあるかもしれない。
「《遍く水の精よ 我が力を贄として 我が定めし今、我が定めし此処に」
ここまでは通常と同じ。
「天より墜つる細き重き水龍の、破壊の奔流をもたらせ》」
俺の身体から魔力が抜けていき、渦を巻きながら次第に圧縮されていく。
「【瀑布】」
限界まで圧縮されていた魔力が解放され、大量の水が勢いよく放出される。
「できた……!」
「できた、だって……? ちょ、ちょっとアルベール君。今、何をしたんだい?」
「詠唱の追加です」
「詠唱の、追加……。…………ハハハッ、君は本当に僕を驚かせてくれるよ! そんな技術があれば、才能なんてなくても魔力さえあれば誰でも使えるじゃないか。世紀の大発見だよ、これは!! 君が! 君こそが!! このクソみたいな慣例に縛られた神秘の世界を解き明かせるのかも、しれないな……」
興奮したようにそんなことを言って、クリスは遠い目をした。
何この空気。
「君の師匠も今日で終わりかな。もう僕は教えることなんてないしね」
「そう、ですか……」
この一年と少し、こいつに苦労させられることもあった。
ああでも、やはり、この生活が終わるとなると、少し寂しい。
「じゃあ、家まで送ってくよ」
「はい……」
なんだか眠くなってきた。かなり魔力を使ったからかもしれない。
「おんぶしたげようか?」
そんな様子の俺をみて、クリスが言う。
「お願いします……」
お言葉に甘えさせてもらうことにした。
2022/08/07 時系列に不都合が生じたので、少し弄りました。




