初授業
遅くてごめんなさい。
さて、クリストフに連れられてうちの庭にきたのだが……。
俺は今、地べたに座っている。
「おほん! えー、まずは自己紹介から。僕はクリストフ。クリスって呼んでくれ。術師だ。君のお父さんーーヴァルターの冒険者時代の仲間だ」
なんか自己紹介された。
大体知っていた情報だが、一つだけ。
「父さんは冒険者だったんですか?」
冒険者だ! 魔術があるんだからあるかもとは思っていたが、本当にあったとは……。
興奮する。
「そうだよ。凄腕だったんだ。僕もだけどね」
さりげなく自慢を挟んできやがる。
「へえ、そうなんですか」
「いや、冒険者としての話さ。術師としては、僕は上級までしか使えないからね」
今度は謙遜か。
上がったり下がったり忙しいな。
「上級でもすごいです!」
とりあえず持ち上げとく。
「そうでもないさ。ああ……、上級と言えば、昨日使ってた火術、アレはなんだい?」
やべっ。
「え、えっとぉ……」
「まぁ良いや。今の実力を見たいから、何か使ってみてよ」
「何かって、何を?」
「なんでも良いよ。面白ければもっと良い」
なんでも良いが一番困るんだよ。
どうするか。
今のところ、そんな悪いやつじゃないっぽいし、【魔弾】でもぶっ放すか?
いやでもなぁ……。
まぁ良いや。
隠してるのも面倒臭いし、多分そのうちバレる……っつーかもうバレてら。
やっちゃえ。
うん。実力を測るためだからな。あんまり低くみられて初歩の指導をされても意味がないからな。
うん。
よし、正当化完了!
「じゃあ、やります」
「うん。どうぞ」
俺は右手を突き出し、オリジナル呪文を唱える。……オリジナル呪文ってなんか厨二っぽいな。
「《大いなる魔よ」
身体から白い魔力が噴出する。
「『魔』? 聞いたことないな……」
横でクリスがごちゃごちゃ言っているが、気にしない。
「我が喚び声に応えよ 今此処に 魔弾を与え、彼のものを撃ち抜け》」
目標は、正面の岩だ。
何故庭に岩があるのかは知らない。
「【魔弾】」
ーーパヒュン。
そんな音を響かせて、魔力の弾丸は飛んでいき、岩に穴を開けた。
流石に貫通はしなかったらしい。
しばしの静寂。
「素晴らしい! こんな術は見たことがないよ!」
クリスがパチパチと拍手をする。
「ど、どうも……」
「いやぁ、面白い! 本当に面白いね!」
そう言いながらこちらに近づいてくる。
そして、少し屈み、耳元に口を近づけて。
「それで、あの詠唱は何かな?」
静かに、そう言った。
俺は咄嗟に飛び退く。
怖えぇぇ!
ガチ怖いんだけど!
俺、やっちゃったかもしれない。
「ああ、ちょっとそんな怖がらないでよ。あんな術は聞いたことないし、僕があげた教本にも載ってない筈だから、気になっただけさ」
絶対『だけ』じゃないだろ!
……うん? 『僕があげた教本』?
つまり、あの教科書はクリスがくれた物だったのか。
気付かないうちにめっちゃお世話になってたっぽい。
ありがとうございます。
でもこれとそれは違う!
「それで、何なのかな?」
「ハイ。おりじなる魔術デス」
ナマ言ってごめんなさい。
「オリジナル……。創ったってことかい?」
「ソウデス」
「どうやって?」
「おりじなる呪文ヲカンガエマシタ」
「へぇえ! すごいね。この世界の誰も出来なかったことだよ」
「ソレハドウモーー。はっ!」
俺は何をしてたんだ!?
怖すぎて意識飛んでた。
ヤヴァイ。
話しすぎた。
「おっと、寄り道しすぎたな。仕事しないと」
良かった。
追及が止んだ。
「じゃあ、まずは基本から。まあ、教本にも載ってるはずだけどね。一応確認がてら」
やっとまともな授業が始まるらしい。
「この世界には、七つの流派が存在するんだけど、それはなんだっけ?」
なるほど、こちらに質問しながら進めていくスタイルらしい。
まあ、ただ喋ってるの聞くだけよりはいいか。
えっと……確か。
「火術、水術、風術、土術、治癒術、結界術、召喚術、ですよね」
「正解。これは教本に書いたはずだし。ここからは載ってない内容ね」
なんだろう。
「その七つの流派にはそれぞれ開祖がいてね……。火術だったら火祖、水術だったら水祖、風術だったら風祖、土術だったら土祖、治癒術だったら治祖、結界術だったら界祖、召喚術だったら召祖……っていう具合に」
なるほど。初耳だ。
天才が七人もいた訳だ。
そいつらが仲悪かったのだろうか。
「その人たちって仲悪かったんですか?」
クリスに聞いてみる。
「え? いや、分からないな。残念ながら、彼らの話はあまり伝わっていなくてね」
そうなのか。
なんか、もっとこう伝説とかになっていてもおかしくはないと思うのだが。
その功績なら。
「彼らは、他にもいろいろやっていて、例えば今の暦を作ったのも彼らなんだ。そんなもんだから、『太古の七祖』とか呼ばれる事もある」
「へぇ、すごかったんですね」
「そう! 凄いんだよ!」
あれ? 急にテンション上がったな。
マズイ。
スイッチ押しちゃったかも。
「彼らは他にもね、魔導具とかも開発していたんだ。だけど、残念なことにその技術は殆ど失われてしまってね……。僕は魔導具は門外漢だけど、とっても勿体無い事をしたと思うよ! でも、その一部は今も脈脈と受け継がれているんだ。ま、そんなこんなで彼らは今の基礎を創ったのさ! まだあるんだ。例えばーー」
話が長い。
これだからヲタクってのは……。
困ったもんだぜ。まともな授業になりゃしない。
扱いには少し注意が必要そうだ。ヲタスイッチを押さないように。
昔からこんなだったのだろうか。
ヴァルターも苦労したんだなぁ……。




