苦労のはじまり
遅れてごめんなさい。
なぜにそんな話になる?
「なんで?」
「そりゃお前……。危ないからだ。一歳でコレじゃ、もっと成長したらどうなるか分かんないからな。
それなら、力の制御を覚えさせといた方がいいかと思ってな」
はぁ……。
まぁ、理にかなってはいる。
というか、願ったりかなったりなのではないか?
独学じゃなく、しっかりと学べるのだから。
「そうでーー」
「ちょっとヴァルト! 私は反対よ! だってアルはまだ一歳じゃない。そんな、弟子だなんて……」
「いやレイチェル。必要なことなんだ。将来、間違いを起こさない為に……」
「でも!」
なんか必死に庇ってくれてる?レイチェルには悪いが。
「あー、別に大丈夫だよ、母さん。元々興味あったし」
レイチェルがこっちを振り向く。
何故かその目には、涙が浮かんでいた。
「ああアル……。ごめんなさい、こんな、大変な……」
そして、俺を抱きしめてそう言った。
マジで泣いてる。
案外涙脆いタチだったようだ。
「あのー。なんか一応当事者っぽい僕を置いて話が進んでるようなんだけど……。ひぃっ」
そんな空気を読まない発言をした奴を、レイチェルがすごい目で睨む。
「で、でも、いくらヴァルターの頼みでも、ただじゃやれないよ?」
そんなことにもめげずに、報酬の話をし始めた。
「まぁ、そうだな。何がいいか?」
「うぅん……。まぁ、後々でいいや」
「俺にできることだけだからな!」
ヴァルターが念を押す。
「うん。じゃあ、君はこれから僕の弟子だ。なんかやりがいありそうなんで、ビシビシいくからね」
そう言ってクリストフは顔を歪めて笑う。
イケメンなのに、なんでこんなに不気味に見えるのだろう。
イケメンだからかね。
「んじゃ、明日からね」
と言って、クリストフは帰って行った。
自分が壊した壁を放って。
というわけで、俺はなんだか弟子になってしまったようだ。
……マッドな師匠の。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌日ーー
目を覚ます。
見慣れない天井だ……が、知らないわけでもない。
あの後、壁に大穴が空いた俺の部屋はヴァルターが修理中だ。
そのうち大きなバツ印が付くことだろう。
それまで俺は、他の部屋へ移っている。
ドアが開く。
レイチェルが来たようだ。
「おはよう、アル」
身体を起こす。
「おはよう、母さん」
「ご飯、出来てるからね」
「うん」
レイチェルが部屋から出て行った。
その後を追うように、俺も食堂へ向かう。
俺の部屋は一階で、食堂も当然一階にあるので移動は楽だ。
食堂に着くと、もうみんな揃っていた。
「おはよう、父さん」
「おお、おはよう、アル」
抱き上げてもらい、席に着く。
「いただきます」
別にいただきますと言っているわけではないのだが、それと同じ感じの食前の挨拶だ。
どの世界でも人間の考えることは同じようだ。
今日の朝食はパンとスープと少しの肉。
家のサイズと食事のメニューは比例しないらしい。
「朝食ったら来るってよ」
ヴァルターが唐突にそんなことを言った。
「なんのこと?」
「あー、アレだ、クリストフだよ」
「ああ……」
アレか。
早速やるらしい。
ーーコン、コン。
ドアノッカーの音が聞こえる。
レイチェルが食事の手を止めて、玄関へ向かう。
噂をすれば……って奴か。
レイチェルが連れてきたのは、案の定クリストフだった。
気が早いやつだ。
「やあ、おはよう……っと、食事中だったか」
「そりゃそうだろ。もうちょい常識ってのを考えろ」
ヴァルターが呆れ気味に言う。
「いやぁ、楽しみだったものでね」
クリストフが悪びれもせず言う。
「とりあえず、もうちょい待て」
「うん。そこ座ってていい?」
「勝手にしろ。……アル、急がなくていいからな。早く来たあいつが悪いんだから」
この二人は仲が良さそうだ。きっと長い付き合いなのだろう。
腐れ縁ってやつだ。
なんか憧れる。
「うん」
言われた通り、気にせず食べ続ける。
「お茶、出しますか?」
レイチェルがクリストフの相手をしてるようだ。
「ああ、じゃあ貰います」
「ちったぁ遠慮しやがれ……」
ヴァルターはやれやれという感じだ。
苦労しているのだろう。
こんな自由奔放だからな……。
もしかして、俺も苦労しちゃうの? 弟子になったら。
やだな。
「ごちそうさまでした」
食べ終わった。
「よし! 食べ終わったな。行こう!」
クリストフがすっくと立ち上がって言った。
だから気が早い。
「ちょっと食後の休憩を……」
「必要ないだろう? 行こう!」
「え、いやちょっ!」
抱き上げられて連れていかれる。
全く、こんな子供みたいなやつだったなんて。
思いもしなかった。




