死
弟の結婚式を、抜けてきた。
トボトボと歩きながら、空を見上げる。今日は新たな門出に相応しい快晴だった。
そんな空とは反対に、俺の心はどんよりと曇っていた。
「──ッ!」
周りから視線を感じる。大方、真っ昼間から草臥れた安物のスーツで俯きながら歩いているアラサー男を不審に思って居るのだろう。
……いや、それは被害妄想という奴だ。誰も俺なんて見ていない。
「はぁ……」
自然とため息がでる。
何で俺と弟でこんなに差があるのだろうか。同じ親から生まれたはずなのに。
俺は就活に失敗してフリーター。勿論独身。方や、弟は大企業に就職して、今日結婚式。相手は俺と弟の共通の幼馴染だ。
妬ましい。あいつが。
ああ、だめだ。こんな事を思っては。
せめて、あいつが嫌な奴だったならよかった。それなら、俺は何の気兼ねもなくあいつの悪口も言えたし、憎む事だって出来た。
でも、あいつは、完璧な弟は、性格まで完璧だった。
「ハハッ」
乾いた笑い声が出た。
勝てるところなんて、一つもない。
あいつは、何もかもが完璧で、俺は、何もかもが中途半端で、醜くて、欠点だらけだった。幼馴染が、あいつを好きになるのも無理はないだろう。
ああ。どうすれば、あいつのようになれたのだろう。
何故、俺はこんな風になってしまったのだろう。
中学までは良かった。小学校からの持ち上がりで、それなりに友人もいたし、それなりに勉強も出来た。
変わったのは、高校からだった。
それなりに受験勉強もして、それなりな高校にはそう苦労せずに行けた。
そこまでは良かった。
そう、そこまでは。
成績が落ちた。
勉強をせずに趣味に走っていたから、当然の結果ではあった。
それから、落ちていくのは早かった
もう一度、やり直せたなら。
人を妬まず、卑屈にならず、努力し続けて。そうすれば、俺もきっと、あいつみたいになれただろう。
いや、今からでも、やり直せる。なんせ、俺はまだ28歳だ。人生の4分の1を過ぎたくらいだ。
家に帰ったら、勉強しよう。資格をとって、頑張って、正社員になろう。
まだ、やり直せる。やり直すのだ。人生を──
「あっ」
縁石を踏み外した。
体が道路の方に傾く。
向こうからトラックが突っ込んでくる。ドライバーの顔が、驚きに歪んでいる。
それが、やけにゆっくりと、そしてはっきりと見えた。
キイィィィィィイッーーーーーー
ドンッ
身体が宙に舞う。
「ぅ、え?」
轢かれた。
少し遅れて、そう気付いた。
身体が地面に叩きつけられる。
そして、トラックに潰されて、俺は、呆気なく。
死んだ。