第八話 クソジジイ
次の日、爺ちゃんと二人で森を歩いていた。
新しく服も見繕って貰って、それを着ている。
「英雄になるには何が必要か、分かるか?」
肌を撫でる様なそよ風が吹いた。
「えっと、強い心とか、優しさとか?」
「まあ、それも必要じゃがな。他に最も必要なものがある。それは…………力じゃ」
「ッ!!」
ズンッ、と全身に重たい圧力がかかった。
思わず歩みを止めてしまうほどの圧倒的な圧力だ。けれどクロノスは悠然と歩き続けた。
圧力が解かれて身体が軽くなった。急いでクロノスの後を追い掛ける。
「一般的な闇属性の攻撃手段は何じゃ?」
「ダークアローだけ、です」
「うむ。その通りじゃ。しかし、それだけでは勝てない相手の方が多い。ならばどうする?」
ダークアローは闇の矢を放つ魔法だ。だがその威力はかなり弱い。
昔にたった一つの魔法を工夫して戦争を戦い抜いた魔法使いもいたが、それは例外中の例外だろう。実際にその魔法使いは次の戦争で呆気なく殺された。
俺もダークアローだけで英雄になれるほど、世界は甘くないだろう。
それ以外となると新しい魔法を開発するか、あるいはーーーー。
「剣術を鍛える?」
「それはどちらにしても重要じゃ。魔法使いだからと言っても近接戦は必要となる。それも追々鍛えるとしよう」
「は、はい。よろしくお願いします!」
そうだったのか……。
確かに英雄記の英雄には、魔法と武術の両方を使える人が多かった。
今後は身体能力を鍛えないといけないな。
「ラストよ。神を信じているか?」
「え? あ、はい、フレイヤ神ですよね?」
俺が、というよりも王国が信仰する唯一神だ。
愛と豊穣の女神フレイヤ。万物に公平であり、愛を与える女神だ。
「いや、それはたった一人の神に過ぎない」
「それは唯一神の考えが間違っていると言う事、ですか?」
「そもそも、東方の和の国では八百万の神と言って、万物に神が宿ると言う考えもあるのじゃ。神は無数に存在する。それこそ、八百万では済まないほどにな」
今日だけで次々と常識が覆っている気がする。
こんな事を言えば、唯一神だけを信仰し、それ以外を認めないフレイヤ教徒の逆鱗に触れてしまうな。
「その神々にはそれぞれ、属性を司る神がおる。当然、闇属性を司る神もおる」
「そうなんですね」
「あまり知られておらんが、その神に力を借りる方法があるんじゃよ」
「っ! と言うことは俺の魔法ももっと強力になる可能性も!」
「無論じゃ」
突然、クロノスが立ち止まって、俺に視線を向ける。真剣な顔付きだ。
「神に会って来い」
「は?」
次の瞬間に俺は身体を押された。いや、崖に突き落とされた。茂みに隠れて崖が見えなかったのだろう。
あー、やばい。この崖、そこが見えない。
真っ暗闇だ。
てかさ、こんな事、普通やるか?
やる? やらないよね? やるわけないよね?
なら、怒ってもいいよね。
「クソジジイィイイイイイイイッッ!!!」
「わははははっ! 夢を想え、ラストよ!」
メチャクチャ楽しそうに笑うクロノスの姿が恨めしかった。
その間も俺の身体はずっと落下し続けていた。
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