第七話 英雄記
その日は散々泣いて、風呂に入ってから与えられた寝室に向かった。
ベッドの上で目を閉じるが中々寝付けない。
こんなに柔らかい寝床は久しぶりだからか。
その時だ。
「ラストお兄様?」
「もう大丈夫?」
幼い双子の少女が
二人ともパジャマ姿で枕を抱いて来たと言うことは怖い夢でも見たのかな?
「大丈夫だよ。心配をかけたね」
「ラストお兄様はさっきも」
「そう言ってた」
「ははは。そうだっけ」
単に心配してくれただけかな?
優しい妹達だ。
「ほら、おいで。本を読んであげる」
「「わーいっ!」」
二人ともベッドに飛び乗って来た。
右側にリリ、左側にララがいた。
仰向けになって、両肘を突いて完全に寝ない気だな。
まあ、俺も寝れなかったしちょうどいいか。
「「何を読んでくれるの?」」
「これだよ」
俺が唯一、前にいた家から持って来たもの。
“英雄記”。俺の夢の始まりの品を取り出す。
表紙から中身の紙まで何度も補修しているからボロボロだ。
「じゃあ、まずは【金剛の戦士】からだね。彼は遥か北の大陸でーーーー」
【金剛の戦士】オズウェル。
彼は遥か北の大陸の極寒の地に生まれながら、素肌で走り回る頑丈な青年に育った。
そんなある日に大陸が寒波に襲われた。作物は腐り、家畜は死に絶え、指が凍って腐り落ちた。
その原因は氷竜王ブリザードだった。
オズウェルは少しも動こうとしない騎士団に代わって氷竜王ブリザードに立ち向かった。
「何故、貴様は立ち上がるのだ。何故、貴様は凍りつかぬのだ」
「例えこの指が腐り落ちようとも、我の熱き魂が凍り付くことは永遠にない!!!」
オズウェルは絶対零度の冷気に包まれながらも、指が腐り落ちても剣を握った。
そしてとうとうオズウェルは氷竜王の首を刎ねたのだ。
国王は感激し、オズウェルを王宮に招いて宴会を開くと言った。
しかし。
「申し訳ないが、そのお金を少しでも復興に使ってください」
オズウェルは断ったのだ。
だがお咎めは無し。
むしろ国王はその精神に感銘を受け、宴会を取りやめて国の復旧に全力で取り組んだ。
その一件で毛高き精神を持っている、と国王に気に入られたオズウェルは美しいお姫様を嫁に貰い、英雄の国王として歴史に名を刻んでいった。
「カッコいいなぁ。俺もいつかは、オズウェルみたいに…………」
いつの間にか睡魔に襲われ、そのまま眠りに落ちた。
そんなラストの肩まで布団をかける、二つの幼い影。
「ラストお兄様、寝ちゃったね」
「うん。一人目も持たなかったね」
リリとララ。二人はまだ幼いが、人を見る目と優しさに溢れた子供である。
二人とも疲れ切ったラストの姿を見て、逆に緊張して眠れないだろうと思ってこの部屋まで来たのだ。
少しでも安心してもらうために。
「ねえ、ララ」
「なに、リリ」
「ラストお兄様は英雄になれると思う?」
「思うよ。だって、私達のお兄様だもん」
二人には人を見る目があった。
それは一重に貴族の、しかもタキオス家ともなれば取り入ろうとする他の貴族も多かった。
だから見ただけで人の本質を見抜く力を手に入れた。
最初にラストを見た時は悲しい事を背負った人だと思った。
次に手を繋いだ時は、子供のリリとララの手を優しく握ってくれた。
この人は他の人とは違う。
だから、凄く気に入った。
簡単に言うと懐いた。
リリとララはすでにラストが大好きになっていた。
「そうだね」
「そうだよ」
そして、二人とも目を閉じて眠りの世界に向かう。
その小さな手のひらはラストの手と繋がれていて、三人で身を寄せ合って眠った。
「あらあら。本当の兄妹みたいね」
その様子を見たスカーレットがこの姿を模写魔道具を使って記録していた事を知るのは随分と後の事だ。
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