第五話 大きくなったわね
馬車に揺られて半日が経って、タキオス家の屋敷に到着した。
普通、貴族の家なら常に新しく、目立つように豪華にするのが当たり前だ。実際、フォシオル家でもそうだった。
だけどタキオス家の屋敷は他の貴族宅よりも質素で、表門には花壇に綺麗な花が沢山咲いていた。
「ここがタキオス家じゃ。どうじゃ、何か感じるか?」
「なんだか、凄く懐かしいです」
「そうかそうか」
何故かご機嫌なクロノスさんにワシワシっとくしゃくしゃに撫でられた。
懐かしさを感じるのは、きっと赤ん坊だった頃にこの家に住んでいたからだ。
まだ屋敷の中にも入っていないのにとても安心する。
「あら。帰って来てたのね」
花壇の手入れをしていたのか、つばの広い麦わら帽子を被った女性が来た。
「どうでした?」
「まあ、な」
くいっ、と顎で俺を指す。
そして女性と目が合った。
「あらあら、あらあらあら!」
女性が駆け寄って来た。
その拍子で帽子が脱げたけど、それでも構わずに俺に抱きついた。
「大きくなったわね、ラストちゃん!」
ぎゅっ、と抱き締められた。
その時に身長差から、大き過ぎるおっぱいに顔を埋める形になった。
で、でかい……っ!?
顔の感触は天国だ。
天国なんだけど、息が出来ない。
「お母さん。ラストが窒息死してしまいますよ」
「あら、ごめんなさい。ちょっと興奮しちゃって」
クレアさんのおかげでやっと離してくれた。
「私はスカーレット・タキオス。貴方の母の妹で、貴方にとっては叔母に当たるわね」
その人、スカーレットさんはとても美人な人だった。俺やクレアさんと同じ赤髪で、スタイルもとても良く、大人の魅力が漂っている。
クレアさんも大人になったならこうなるんだろう、という感じだ。
「本当に大きくなって……」
目元に涙を浮かべて、俺の頭を撫でる。
その手付きがとても優しくて、暖かった。
いけないわね、とスカーレットが涙を拭った。
「さっ、こんな時はご飯よね! 腕によりをかけて作るからね! うちの料理人たちが!」
いや、そこはスカーレットさんが作るんじゃないのかよ。
そう疑問に思っているとクレアさんが小声で教えてくれた。
「……実はお母さんは料理が苦手なんです。肉の丸焼きを作ろうとしたら、何故か真っ青な物体が出来てしまうほどで」
ああ、それはやばいな。
そしてスカーレットさん先導のもと、屋敷の中へ向かおうとするとーーーー。
「うおおおおおっ! ラストっ!!」
「えっ、うわっ!!?」
突然やって来た金髪の男に抱き上げられた。
いきなりの事で驚いたけど、この人も安心できる気がする。
「凄え、大きくなったな! だがちょっと軽過ぎるぞ!」
わはははは!と豪快に笑う。
何者なんだ、この人……。
速過ぎて見えなかった。
「これ、やめんか、ライオス。ラストが困っておるぞ」
「おっと、そりゃそうか!」
クロノスさんに言われて簡単に下ろしてくれた。
「俺はライオス! そこにいるクレアの弟で、これからはお兄ちゃんって呼んでいいぜ!」
新しいお兄ちゃんが出て来ました。
「ライオス。これからラストと一緒に食事よ」
「おっ、もうそんな時間か! 修行してたら忘れちまったぜ」
そしてライオスを加えて、食堂へ向かうのであった。
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