四十二話
結論から言えば、戦いは終結した。
爆発によって王の寝室はおろか、王の寝室がある階すべての鏡が割れる被害を出してしまった。
しかし幸いだったのは怪我をした者は使用人の軽傷ばかりで、その怪我人も王妃ソフィアの回復魔法によって瞬く間に回復出来た事だ。
それからカインらを衛兵に引き渡したアクア達が合流し、王宮にやって来た。
そして事情を説明するとアーサーは「なんと! そうか、君達には娘まで助けられたのか!」と驚き、そのお礼に王宮に泊まらせてもらえる事になった。
全員の傷を癒したのは王妃であるソフィアだ。
【聖女】の名を欲しいままとしている彼女は、特に酷かったナックルの傷さえ瞬く間に治してしまった。
まあソフィアに後少しでもあの状態の拳で殴り続けていたら、もう二度と使い物にならなくなていたと言われていたがな。
それから、王宮の王の寝室がある階以外にある客室で全員風呂に入る事もなく、泥の様に眠った。
目が覚めたのは次の日の夕方だった。
「……おはよう」
「う、うん」
何故か目を覚ますと知らない天井、では無くアクアの顔が見えた。
俺の髪の毛を触っているみたいだけど、顔を赤くして固まっている。
「髪なんか触って楽しいのか?」
「え、うん、楽しいよ……?」
「そうか」
「うん」
俺もアクアに触れられて、少し心地良い気持ちを感じていた。
とても暖かくて、それでーーー。
俺は自然とアクアの手を握っていた。
視線が交差し、見つめ合う。
二人の頬は赤く染まり、鼓動が早まる。
これは伝えるには今しかないのか?
覚悟を決めて口を開こうとする。
するとーーーー。
「そ、そうだ! この後、晩餐会が開かれるから準備しておいてね! 着替えはそこに用意しておいたから!」
……逃げられた。
残念に思うと同時に、良かったと安堵している自分もいた。
そんな自分を恥じた。
覚悟した事なのに、逃げようとしている自分に対して。
その後、アクアに言われた通り部屋に備え向きの浴槽にお湯を溜め、身体をよく洗ってから浸かった。
ずっと寝ていたと言っても疲れはまだ溜まっていて、まだ全開じゃない上に“破壊神剣”の副作用がキツイ。
今も筋肉痛で激痛に蝕まれているのを、無理矢理動かしているんだ。
まあ、食事くらいなら何とかなるだろう。
そう思って、アクアに用意された正装に着替えて食堂に向かった。
王宮の食堂は一際豪華なものだった。内装には黄金の装飾が施され、机は大理石を削り細部には宝石が散りばめられた長い食卓、派手でありながら座り心地が抜群な椅子。
そのどれもが俺の
この食堂に集まったのはラストとアクア、アーサー、ソフィアの四名のみだった。
ナックル達は少し前にアクアに案内された時に辞退していた。それぞれ理由は違ったが、大概は「自分を見つめ直すために」と言って学園に戻って行った。
約一名、「眠いから」と言って帰って行ったりもいていたが。
とにかく、この長い食卓でラストの隣にはアクアが座り、正面にアーサー、斜め向かいにソフィアが座った。
「乾杯」
アーサーの一声で食事が開催された。
それぞれに用意された飲み物を一口飲む。
食事会と言っても、これはほとんどアーサーとソフィアがラストと話したいから
「改めて感謝するぞ。ラストよ。君がいなければ娘は攫われ、妻まで失うこととなっていた。王としてでは無く、一人の親として、男として」
アーサーは深々と頭を下げた。
それは普通ならあり得ないことだ。
一国の王がただの学生に頭を下げるなどと。
しかし、ここはアーサー達一家しかいない一室だ。
咎める者は誰もいない。
「私からも感謝しますよ。ラスト君」
「助けてくれてありがとう、ラストさん」
と、ソフィアとアクアから次々と感謝の言葉を投げかけられた。
流石にラストも照れて「は、はい」と返事をした。
さて、しみじみとした話はそれで終わりだ。
それからはラストの生い立ちの事やアクアとの学園生活の事、それからアーサーとソフィアが現役時代の冒険記を話してくれた。
英雄好きのラストにとって、本物の英雄の口から聞く物語はとても魅力的でとても充実した日となった。
王宮での食事会が終わり、すっかり夜になっていた。
月明かりに照らされながらも、足りない灯りは街灯が街を照らす。すでに21時を過ぎて、人通りも少ない中でラストとアクアは寮に帰る為に肩を並べて歩いていた。
「ラストさん。私を助けてくれてありがとう」
ある時、アクアがそんな事を言った。
「ラストさん」
「うん」
「好きです」
「っ、え?」
「私は、貴方が好き」
「……俺も」
「え?」
「俺も、好きです」
「嘘」
「本当に」
「本当?」
「うん」
「そ、そっか」
「本当は俺から伝えたかったんだけど」
「ふふ。それじゃあ、もう少し待てばラストさんから好きって言ってもらえたんだ」
「まあ、そうだな」
「…………」
「…………」
「好きです。ラストさんが、とても」
「俺も好きだよ、アクア」
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