表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/42

第四十話 大海原の揺り篭

「絶対に助けてやるから、ちょっと待ってろ」


 カインの身体はすでにかなりの浸食が進んでいた。もう人間の原型を留めていない、まるで昆虫の様な見た目になってしまった。


 だが、何か治す方法はあるはずだ。


 するとカインは可笑しそうにクックッと笑った。


「なら、兄ちゃンから一つプレゼントをしてヤロう……」

「え?」

「国王に刺客が迫ッテイル。サッサト助ケニ行ッテヤレ」

「カイン、お前――――」

「……グゥウアァアアアアアアィヴァテュアイイデュアアアアァアア!!!」


 その時だ。カインが突然、叫び出したと思ったら魔力が膨れ上がった。苦しいのか地面を何度も転がり、膨大な魔力が黒い風となり、カインを中心に渦巻いた。


 これは何だ? 一体、カインの身に何が起こったんだ!


「逃ゲ、ロ……ッ!」

「カイン! 今、助け――――!」


 本能がこの風は()()()()()()()()と告げた。


 一旦、カインの事は置いておく。それよりも黒い風がアクアにまで迫りそうだ。


「アクア!」

「むぐぅ!」


 アクアはさるぐつわに、身体もロープで縛られている。そして首輪、あれは奴隷の首輪か。下手に外すとアクアは死んでしまう。


 ただ、こんな首輪程度なら破壊神剣で斬れる。


 アクアの束縛を斬り解いて、少し離れた場所に移動した。


「ラストさん!」

「むぐっ……!」


 感極まったのか、アクアが抱き着いてきた。


 む、胸が顔に……柔らか……! って、そうじゃない!


 何とかアクアを引き離し、


「アレは何なんだ……?」


 それはもう、カインでは無かった。全身が黒く、目や鼻も耳も無い。口だけがある。角と翼が生え、鋭い爪が尖り、獣の様に四足歩行で歩いている。

 

 その疑問にアクアが答えてくれた。


「おそらくは禁術の影響です……」

「禁術?」

「はい。初代魔王が残したと言われる、“黒い四元素”。黒炎、黒水、黒風、黒土の四つの魔法を残し、それらは魔王の魔力を身体を喰われてしまいます。途方もない力を得られる代わりに悪魔に身体を乗っ取られると言われています」


 つまり、カインの力は禁術によるものだったのか? 早くどうにかしないと……。


「待ってください、ラストさん!」


 助けに動こうとした時、アクアに袖を引っ張られて止められた。

 見ると覚悟を


「ラストさん。ここは私に任せてください」

「でも」

「大丈夫よ、空っぽの敵には絶対に負けませんから」


 その言葉を聞いて、カインを見た。

 よだれを垂らしながら、ゆっくりとこちらに向かって歩いている。


 確かに、あれはカインではない。殺戮本能のままに生きる、ただの獣。

 そんなものに、信念の無い敵にアクアが負ける道理は無かった。


「それよりも、御父様を助けに行ってあげてください」

「…………分かった」


 アクアが立ち上がり、俺に背を向けた。戦う気だ。

 流石は王族、凄まじい魔力が轟々と地面を揺らす。


 魔力は完全にアクアの方が上だ。


 でも……。


「アクア!」

「はい――――ふぇっ?」


 アクアをぎゅっ、と抱きしめた。


 別れ難い。

 やっと、やっと取り戻せたのに。

 やっと気づけたのに。

 でも今は王様を護らないと。


「戻ったら大事な話がある。だから、絶対に無事でいてくれ」

「うん」


 耳元で囁くように告げると、アクアはそう頷いた。


 また会う約束はできた。安心してアクアから離れて、影に潜る。


「闇魔法 影移動」









 ラストが御父様、つまり王様の居る場所に向かった後、私はカインだった()()と対峙していた。


 アレが一体何なのか。アレを倒したところでカインを救えるのか。


 そんな事は今は考えない。とにかく、アレを止める事に全力を注ぐんだ。


「海魔法 大海の芽吹き」


 まず私はこの魔法を使った。簡単に言えば、地下水脈から水を出現させる魔法だ。

 

 今も段々と地面から水が湧き出て、私の膝下までの水が現れた。これだけあれば充分か。


「海魔法 海龍の咆哮」


 次にその全ての水を使って巨大な大蛇、いや、東方のドラゴンを出現させる。


 その龍は私の周りでどぐろを巻き、“何か”を睨みつけた。


「行きなさい」

「ギィイイイイイイイイイイイッ!!!」


 私の命令と同時に海龍が“何か”に向かって突撃した。

 

 “何か”も抵抗する様に黒い風を放つが、そんなものは水の身体の龍には効かない。


 海龍はずっと、真っすぐに、一直線に進み続ける。


 そしてついに海龍は“何か”を吞み込んだ。その瞬間、海龍は弾け飛び、周囲にスコールの様な雨が降り注いだ。


 私は悠然と歩き、ボロボロになった“何か”を発見する。


「ギィ、ギ…………!」


 すでに身体は動けない状態なのに、首と鋭い眼球を何とか動かして睨んでくる。


 この中身が悪魔なのか、それとも別の何かなのかは分からない。

 ただ、人間への恨みと凄まじい殺意を感じる。



「海魔法 大海原の揺り篭」

 


 スコールとなった水が収束し巨大な水球が“何か”を包み込む。


 この魔法で“何か”をカインに戻す事が出来るかどうかは、正直分からない。それでも、ほんの少しの可能性を信じてこの魔法を使う。


 “何か”は水球の中で心地よさそうに眠っている。


 これでこちらはひとまず、終了だ。


 王宮のある方角の空を見上げる。


「ラストさん……」


 もう私には信じることしかできない。


 御父様を護って、ラストさん。

ここまで読んでいただきありがとうございます。ブックマークや高評価、感想など是非よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ