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第三十六話 雄叫び

 ウルフ達の決着の少し後、ナックルvsアベルの戦いでも決着が置きそうになっていた。

 

「灼熱鉄拳 紅蓮灼拳(ブンナグリ)!」


 拳に炎を纏ったナックルがアベルの腹に一撃を食らわせる。


 だが。


「グッ……!!」


 逆にダメージを負ったのはナックルの方だった。


 殴った箇所が爆発した。

 もう何度も殴っては爆発を繰り返しているため、皮膚が剝がれて血で垂れ流れている。


「バハハハッ! 馬鹿の一つ覚えの様にそればかりだなぁ!」

「うるっせぇんだよッッ!」

「ぬっ……!?」


 ? 何だ、今の手応えは……。初めてまともにダメージが入った様な感触が……。


「もう飽きたわ!!」


 爆発する爆拳を顔面にもろに受けてしまった。

 爆風で吹き飛ばされて、何度も地面を転がった。


「ワシの魔法爆弾身体(ダイナマイトボディ)は触れた瞬間に爆発を引き起こす! そして、その爆発のダメージはワシは絶対に受けない!」


 薄れていく意識の中、アベルの自慢気に語っているのが聞こえた。


 ……相性が悪過ぎる。


 俺は打撃系ばかりで、唯一の遠距離技である“熱烈歓迎 レッドカーペット”も有効打にはならない威力だ。


 どうやっても勝てない。


 どんなに頑張っても……。
















 かなり昔に、まだナックルが貴族だった時。

 妹のカーラは病弱で、手術を受けなければいけない状況だった。


 だからこそ、ナックルは次の日に貴族学院の試合で優勝することでカーラに勇気を与えられると思ったのだ。


『待っていろよ、カーラ! 俺が必ず、優勝してやるからな!』

『うん、約束だよっ!』


 カーラのか細い小指を結んで約束をした。

 

 優勝するには何人もの相手に勝たなければいけなかった。


 だが、頑張った。


『絶対に、勝つんだ!』


 自分よりも格上の相手にだって勝った。

 格下、同格の相手には油断せずに勝った。


 けれど、力及ばずに決勝で負けてしまった。


 結果は上々だ。準優勝でも、誇れる結果だった。


 でも優勝しなければ意味は無かったんだ。


 打ちひしがれて、泣いて、もうダメだと思った。


『お兄ちゃん、もう負けないでね!』


 でも、カーラの言葉でナックルはまた立ち上がる事が出来た。


 修行して、その相手にも雪辱を果たして圧勝することができた。


 そして、数か月後にカーラは死んだ。


 カーラの最後の言葉はずっと心に残っていた。














「負けて、たまるかよぉ!!」

「ぬうっ!?」


 そうだよ、俺は誓ったんだ。


 カーラに、誓ったんだ。


 二度と、もう二度と絶対に負けないと。


 両腕に炎を纏う。


「灼熱鉄拳 鬼殴灼拳オニナグリッ!」

「バハハハッ! そんな豆鉄砲、いくら撃たれても効かんぞ!」


 アベルも全身に魔法を巡らせる。

 触れたら爆発する肉体で防御を固める。


 だが。


「ウオオオオオッ!」


 ナックルにはそんな事は関係ない。


 最早、爆発することを分かっていながら無視して、殴り続ける。


「ウオオオオオオオオオオオッ!!」

「グ、グオオオ……!」


 炎の拳による連打は一発一発が紅蓮灼拳(ブンナグリ)と同等かそれ以上の威力を持っている。


 何度も何度も何度も何度も、連打を加える。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……ッ!!!」

「グヌウウウウウウウッッ!!」


 アベルにだって、ダメージは入るのだ。


 さっき、異様に手応えがあった時があった。


 あれはおそらく、ラストが与えたという一撃を受けた箇所だ。


 例え、アベルが爆発によるカウンターをする事が出来たとしても、打撃によって与えられるダメージは残るのだ。


 ならば、ナックルはただ殴るだけだ。


 無限に。永遠に。アベルが倒れるまで。




「いい加減に、しろォ! クソガキがぁ!!!」




 爆拳でナックルの顔面をぶん殴る。

 今までで最も強力な爆発がナックルを襲う。


「はぁはぁ……手こずらせやがって」


 ナックルの予想通り、アベルには相当なダメージが入っていた。上裸だからこそ見えるが、身体中に痛々しい青アザが出来ていた。


 ナックルはかなりのダメージをアベルに与えた。


 だが、それもここまでだ。


 アベルは心の中で「見事だった」とナックルを認めた。


 ここまで打たれ強い敵は初めてだった。


 だから、ナックルに背を向けてしまった。





「…ァ……待、て………!」





 そこにはナックルが立っていた。


 身体中がボロボロで、ズタズタに引き裂かれ、皮膚はおろか内部まで相当な火傷を負っている。


 そんな人間が立っていられるはずがない。

 アベルも思わず、驚愕の声が漏れた。


「な、なぜ、立っていられる……!?」


 手は火傷でボロボロだ、灼熱鉄拳など出来るわけがない。


「知るかよ、んなこたぁ……」


 なのになんだ、この危機感は、コイツの存在感は!


 ナックルの瞳の奥深く、そこに宿っている闘争心――――いや、覚悟だ。


 拳には炎は纏えない。振り上げる事すらできない。


 だから、額に炎を纏った。


「だかよぉ、俺は、俺のーーーー」


 “俺の身体はーーー


「ウオオオオォォ………ッ!」


 無茶と浪漫で出来ているーーーッ!”


「爆裂覚悟!」

「よせ、やめろぉおおおお!!!」

地獄頭突ヘッドバッドッ!!!」


 重たい、重たい頭突きがアベルの頭に直撃した。


 当然、爆発もする。


「バ、ハハハ…………!」


 だが、先に倒れたのはアベルだった。











「俺の、勝ちだぁああああああっっ!!!」










 ナックルは勝利の雄叫びを上げた。


 天国にいるカーラに届くように。


 懐かしい日々を思い浮かべる様に。


 いつまでも、いつまでも、ナックルの雄叫びは空に轟いた。





 勝者、ナックル。

書き溜めが切れました……。連続投稿の危機……!?


ここまで読んでいただきありがとうございます。ブックマークや高評価、感想など是非よろしくお願いします。

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