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第三十四話 対峙

「爆速全開 レッドゾーン!」


 ナックルは激走していた。

 自身の脚に炎を纏い、蹴り出す瞬間に炎を放出して加速する技だ。


 身体に負担はかかるが、自分の限界を超えた速度で走る事ができるとっておきの技でもある。


 ただ、ナックルは少しイラついていた。


「バハハハッ!」


 目の前のおっさん(アベル)が自分と同じような技で走っていたからである。

 おそらく、蹴り出すタイミングで足の裏を爆発させて加速しているんだ。


 ラストの情報であった、爆発男とはコイツの事だろう。


 腹立たしい事にこれだけの技を使っているくせに、疲労している姿がまったく見えない。


 スピードは全くの互角。どちらの体力が尽きるかの戦いになっていた。


 だが――――。


「…………むう。飽きた」


 そう呟いて、アベルは急に足を止めた。

 振り返り際に見えた拳には炎が纏っていた。


「爆拳!」

「ぐぬぅ……ッ!!」


 咄嗟に両手をクロスさせて、ガードした。

 だが殴った瞬間に爆発して吹き飛ばされてしまった。

 踏ん張って耐えたが、最初の位置からかなりずらされてしまった。


「クソ……ッ!」


 両の腕が熱い。奥歯を噛み締めて痛みを我慢するが……。


 火に慣れているナックルでもこの様だ。ラストでは皮膚が持たずに()()なってしまうのも無理はない。


「バハハッ! ワシはこっちの方が向いとるわい!」

「へへっ……。奇遇だな、俺もだ」


 拳に炎を纏う。


 ナックルvsアベルの戦いが今、始まった。





 そしてウルフもまた、敵と対峙していた。


「ほう。今のを避けますか」


 ファンブルは眼鏡をくいっ、と上げて感心した様に笑った。

 ただ、それは強者から弱者に送る賞賛の類だった。


「チッ……。当たってんだよ……!」


 頬に一筋の鮮血が流れた。

 レイピアによる刺突が頬を掠めていたのだ。


 口調が荒くなってしまうほどに、ウルフは動揺していた。


 ウルフはスピードに自信があった。

 実際、スピードで攪乱して不意を突いて重たい一撃で倒す、それがウルフの戦闘スタイルだった。


 ただ、敵のスピードはウルフ以上だ。

 

「でも、負けるワケには行かないんスよ!」

「まあ、少しは遊んであげましょうか」


 ここでもウルフvsファンブルの戦いが始まった。







 そして、こちらでも異様な戦いが開始されようとしていた。


 サキュバスのリリスとラースが対峙していた。


 どちらも美女だが、ラースは露出度が高くド派手な服装だ。それに対してリリスはスカートを膝下まで伸ばして、同じサキュバスと思えないほど地味な服装をしていた。


「久しぶりね、リリス」

「…………ラース、ちゃん」


 二人は顔見知りだった。

 まだ淫魔の里にいた頃の友達だった。


 昔は仲が良かった。一緒に遊んだりもした。でも……


「ぼそぼそと何をしゃべってるのか分からないんだよっ!」

「ひうっ!?」


 ラースに怒鳴られて、思わずびくっと反応してしまう。


 だが、委縮してはダメだ。何とか睨み返す様に目を合わせる。


「ねえ! サキュバスの面汚しちゃん!」

「……ッ!!」


 サキュバスの面汚し。

 そうだ。私は、そう呼ばれて里を追い出されたんだ。


 だって、サキュバスがえっちな事をしないなんてありえないことだ。

 サキュバスにとってえっちな事は家業みたいなものだった。


 それを拒否して、私は何もしなかった。


「懐かしいよねぇ……。貴方が実習の時に嫌だって騒いで、喚き散らした時の事は!」


 ラースは淫魔学校でのえっちい実習の事を大袈裟に身振り手振りで昔の事を表現した。


 だって、私は他の人とはしたくないんだ。たった一人としか、嫌だ。


「生涯でたった一人を愛したい? ふざけるんじゃないよ!」


 魔力を開放して、風が起こり砂埃が巻き上がった。


「それがサキュバスでしょう!? 私達、サキュバスの仕事なのよ!」

「――――確かに、確かに、私はサキュバスとして、異端なのかも、しれない……!」


 里のみんなに言われた言葉を思い出しながら、リリスはギュッと胸の前で両手を握って耐えた。


 「でもっ!」と目を開い大声で言った。


「私はもう違う! 友達ができた! 愛したい人も出来た! 私はその人とその人が大切だと言う人を絶対に守って見せる! それが私の、リリスの生き方だ!」


 リリスは初めて明確な敵意を持って、ラースを睨んで言った。


 サキュバス同士の対決、リリスvsラースの因縁の戦いが開始された。






 こちらも二人の少女が対峙していた。ジト目でにらみ合っているが、どちらも恐ろしい魔力をその身に宿している。


 少しの間睨み合って、ホロムがゆっくりとした口調で話し出した。


「……私、孤児院で、化け物って、呼ばれてた」


 右手を挙げて、指を一つ立たせる。

 すると指先に黒い渦が出現した。


「……いじめ、られて、た」


 昔の事を思い出して、ホロムのジト目に若干の涙が浮かんだ。


「……そんな、時に、カインが、助けて、くれた」


 涙は消え去り、右手の指を全て立たせた。

 そして黒い渦が無数に出現した。


「……だから、カインの、邪魔を、する、敵は、消す」


 殺気によって、大地が揺らぐ。空間魔法の影響で歪み、空間に亀裂が走った。


「どうでもいいから、さっさと殺ろう……!」


 珍しく、メユリは怒気を孕ませた声で言った。


 メユリは昼寝の邪魔をされた、と言うくだらない戦いの動機だったが、それでもメユリにとって昼寝を妨げられるのは最悪だった。




 どちらの陣営の最強同士、メユリvsホロムの戦いが始まった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。ブックマークや高評価、感想など是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 表現が神すぎる(上手) [気になる点] どの袋にアクアはいるのか気になるぜ [一言] 更新頑張らないと許さない(ユメミ) 兄貴ー更新がんバレー
2021/08/15 09:17 中二病でも恋がしたい
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