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第三十三話 再び生きて

 話は少し前に遡る。


 俺達はすでに判明している敵のアジトまでの道すがら、話をしていた。


「影法師?」

「ああ、そうだ」

「それって自分の影の事だよね。僕も昔は良く泣いたなぁ……」


 何やら昔の事を思い出しているみたいで、遠い目をしているコウシロウを置いておいて話を進める。


「自分の影を動かす能力なんだ。ほら、俺の影はないだろ?」

「言われてみれば……」

「今その影法師を敵の大男に憑けた」


 あの爆弾男にだ。

 直接接触したのはアイツだったし、何より追跡とかには鈍感そうな納金タイプだったからな。


「俺の影法師は分身みたいなものだ。だから、どこにいるのかが分かる」

「おお! 流石はアニキっス!」


 ウルフが目を輝かせて賞賛してくる。走っていなければ感極まって抱き着いて来そうだったので良かった。


 そして、よくやく辿り着いた。


「ここがアジトだ」

「はあ!?」


 ナックルが驚くのも無理はない。


 何故ならここは下水道の入り口なんだから。


「こ、ここなら、アジトにも、ぴったりだと思います……」


 控え目ながらも小さな声で、リリスが得意の本知識を披露した。


「過去には著名な山賊や盗賊、犯罪組織が下水道を根城に活動していましたその利点を挙げると裏組織の人間なら死臭や鉄臭い独特の臭いも下水道なら誤魔化す事ができますそれに死体や証拠品の処分もこの下水道に流せば隠滅する事ができます仮に敵にアジトを突き止められても下水道は入り組んでいて逃げ道は王国中に広がっています」


 リリスは話し終わると一気に喋ったせいで呼吸過多なり「あうぅ……」と胸に手を当てて顔を紅潮させていた。


 実はリリスは人と話すのが苦手というのを克服するために、ここ最近の放課後に図書館で俺と一緒に喋る練習をしていた。長文を離すには今はまだ一気に話すしかないが、いずれはちゃんと会話できるようになるだろう。


「と、言うワケだ」

「はーん……」


 リリスの話を聞いてしん、と静まり返った。

 どんどんとナックルが距離を詰めて、リリスは「ひうっ!?」と悲鳴を上げる。

 大丈夫だと思うけど、助け船を出そうと思ったら……。


「お前、スゲェな!」

「え?」


 ナックルの口から飛び出した言葉にリリスは驚いた様に声を上げた。


「マジで凄いっスよ!」

「それだけの事が分かるなんて、凄い知識だよ!」

「ん」


 リリスは人と関わって来なかったから、人と関わる事に慣れていなかった。

 頬を赤くして「え、え?」と困惑している。

 その後もコウシロウ達に褒められ続けて、さらに頬を赤くして照れていた。


 下水道の中のアジトに辿り着いた。

 中には見張りは置いておらず、簡単に


 途中で何度も部屋を見かけたから、そこに敵の構成員がいるのだろう。


 とにかく、影法師がいる部屋を目指した。







 コウシロウが金属製の扉を両断し、それを俺が蹴り飛ばして突入した。


「アクアを返せぇえええええええ!」


 そこには幹部が全員集まっていた。


「バハハッ、襲撃か!」

「影法師!」

「バハッ!?」


 一瞬で戦闘態勢を取った厄介そうな爆発男(アベル)を影法師に足を掴ませて、転ばせた。


 常時爆発するってわけじゃなさそうだな。何か仕掛けがあるはずだ。


「眠り香っ!」

「旋風脚!」


 サキュバスの女(ラース)が俺達に向けて、眠り香を放つ。


 だが、それはもう対策済みだ。

 ウルフが足に風を纏って、旋風を巻き起こして眠り香を吹き飛ばした。


「はあっ!?」

「お前達、伏せろ!」


 リーダーの男(カイン)が両手を地面に置いて、しゃがみこんだ。それを見て、他の幹部も各々で()()()()()()を取った。


 ――――マズイ!


「闇魔法――――」

「風魔法 黒風乱舞!」


 間に合わなかった。


 リーダーの男を中心にして、黒い風が乱舞した。

 直接の威力は無かったが、凄まじい風圧だ。

 吹き飛ばされそうになり、何とか踏ん張るがそれが限界だった。


「今だ! アベル!」

「オウ!」


 爆弾男(アベル)がアクアを抱えて、幹部達が出て行ってしまった。


「くっ、すぐに追うぞ!」


 俺達もその後を追う。


「敵襲、敵襲だ!」


 アジト中にカインの声が響き渡る。

 

 すでにアジトの入り口付近まで来たが、これはマズイ。

 こいつらがアジトの外に逃げれば、周囲の住民にまで被害が及ぶ可能性がある。


 「仕方ないか」と小さく呟いて、コウシロウが足を止めた。

 つられて俺達も足を止めるとコウシロウはアジトの入り口の前に立っていた。


「僕が殿を務めるよ」

「なっ、そんなの……!」


 敵の数は多い。いくら雑兵、幹部級では無いと言っても全員が戦闘を経験している者達だ。


「放っておくと民間人を襲うかもしれないからね、誰かがこういう仕事をしないといけないよ」

「なら他に誰か……」

「ここに他に人員を裂くわけにはいかないでしょ。大丈夫。僕、強いから」


 にこり、と笑いながら最後から迫って来た男の首を刎ねた。


 抜刀の瞬間すら見せない早業。俺も剣を使うが、俺なんかとは比べ物にならない達人の技だ。


「ほら、早く!」


 コウシロウの覚悟の叫びに、俺達は先に進むことを選択した。


 その間からも後ろから怒号とコウシロウが敵を斬る音が聞こえてて来たが、俺達は誰も振り返らなかった。


 コウシロウを信じていたから。







 幹部達を追って、下水道から表に出た。そこは裏路地の広場の様で異様に静けさが漂っていた。


「やっと来たか……」


 リーダーの男の声が聞こえる。


 ただ――――。


「どういう事だ……?」


 アクアが入っていると思われた麻袋。それを五人全員が背負っていたのだ。


 あ


「さあ、どうするぅ?」


 面白そうに聞くのはサキュバスの女だ。

 

 この後の展開は分かっている。


 だから、俺はあえて細かい事は言わなかった。


「じゃあ、また後で」

「オウ!」

「ウス!」

「は、はいっ!

「ん」


 みんなもその意図を読み取って、短く別れを告げた。


「こちらもだ」

「ええ。後ほど」

「バハハッ!」

「後に~っ」

「また、後、で」


 向こう側も同じようにそれぞれで別れを告げた。


 奴らは嫌いだが、きっと強い絆で結ばれているんだろう。


「散開せよ!」

「追え!」


 リーダーの男の掛け声で、麻袋を背負った幹部達が五方向に散開した。

 こちらも散開して、それぞれで敵の後を追跡する。




((再び生きて、また会おう))




 これで敵の追跡とアクアを取り戻すための死闘が開始された。

ここまで読んでいただきありがとうございます。ブックマークや高評価、感想など是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 嘘だろーアクアしつかりしろー [気になる点] 騙す作戦か、大したものだ [一言] 兄貴ー更新頑張ってくださいー
2021/08/14 07:59 中二病でも恋がしたい
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