第三十二話 はみ出し者の拠り所
窓が一つもない部屋の机の中央に置かれた蝋燭の火だけが辺りを照らしていた。
その机で円を描くように五人の幹部たちは座っていた。
「みんな、よくやってくれた」
リーダーのカインが幹部達にねぎらいの言葉を送った。
カインは髪色こそ赤だが、その瞳は暗い緑色だ。左目に歴戦の証として古い傷跡がある。
だが幹部の仲間達を見る目は優しく、家族の様に見た。
「もう十年は経ちましたか。長かったですね。この依頼も達成したも同然、これで私達は大金持ちです」
眼鏡を掛けた細剣使い、ファンブルが昔を振り返る様に言った。
「もう十年か……」
「早かったような、長かったような」
十年と言う具体的な数字を言われて、カインも改めて昔を振り返る。
この傭兵団【はみ出し者の拠り所】を結成してから、色々な事があった。
最初はカインとファンブルだけだったが、それから仲間達を集めて今では三十人規模になった。
ただ、それでも長い間、一緒に苦労して来た幹部以上のこのメンバーは大切な仲間、いや、家族以上の存在だ。
「バハハッ! 依頼金でワシは女を買うぞ!」
筋肉質な男だが、上裸だから余計にわかるが胸毛がボーボーの男、アベルだ。
空気を読まないのはアベルの長所でもあるが、短所でもある。
「あのですね、せっかくいい雰囲気だったのにどうして貴方は……」
「む? よくわからんが、すまん!」
「意味も分からないのに謝らないでください」
ハハハッと幹部の間で笑いの渦が漏れた。
いつもと同じだ。
「もちろん、金の使い方はみんなに任せるよ」
「私は本が大量に読みたいですね。田舎に小さな家でも建てて」
「ワシは女だな! それと女! 最後に女だ!」
「女って、貴方はまた……」
「ははは! まあ、いいじゃないか! 金の使いどころなんて人それぞれさ!」
苦笑いをするファンブルを宥めながら、カインは笑ってみせた。
二人ともらしい答えだ。
「二人はどうするんだい?」
「私はリーダーについていきますよ~っ?」
「ん」
残ったサキュバスのラースと空間魔法使いのホロムが言った。
二人がカインに惚れているのは周知の事実で、本人でさえ知っていたので驚きは無かった。
「もちろんいいさ。…………みんな、改めて言うよ」
もう一度、カインは笑いながらみんなを見渡して言った。
「この依頼を最後に傭兵団【はみ出し者の拠り所】は解散と――――」
「アクアを返せぇえええええええ!」
「なッ!?」
カインが驚いたのは、先ほど完膚なきまでに打ち倒したハズのラストが現れたせいではない。
この絶対にバレないはずのアジトがバレたからだ。
「一体何をしたんだ、貴様らァ!!」
柄にもなく、カインが鬼の形相で叫んだ。
放すは少し前に遡る。
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