第三十一話 俺に力を貸してくれ
ナックルのおかげで俺は立ち上がれた。
これからアクアを探しに行こうとした時――――
「アァァニィィキィィイイイイ!!!」
――――煩いのが来た。
「グハ……ッ!」
無駄に足が速いウルフが高速でタックルされ、あまりの勢いに吹き飛ばされる。
身体中ボロボロなので、滅茶苦茶痛い。
やばい、意識が――――
「アニキ……? 一体誰がこんな事を……! アニキィイイイイ!」
いや、お前のせいだよ。お前のタックルが原因だよ。
あ、やばい。まじで死にそう……。
「ちょ、どうしたの!?」
その時、救いの女神の声が聞こえた。
「ラスト君は怪我人なんだよ!? 何考えてるのさ!」
「え、あ、すみません……」
コウシロウだった。
ウルフから俺を引き剥がしてくれた。
ていうかこの人なんで男なのにこんなに良い匂いするの?
そのまま膝枕される。超快適。
「コウシロウ……」
「うん。爆発が見えたから、急いで来たんだ。リリスちゃんもいるよ?」
指を指された方をみると確かにリリスが立っていた。
真っ青な顔で目元に涙を浮かべて心配そうにしている。
「ララララストさん!? だだだ大丈夫ですか!?」
「大丈夫だから、そんなに慌てるなって」
まあ、本当は死にそうなぐらい痛いんだけど。
この傷でどこまで戦えるか。アレに耐えられるか?
「ちちんぷいぷい痛いの痛いの飛んでけ~」
その時だ。上から気の抜けた声が聞こえて来た。
「傷が……」
一瞬で痛みが引いた。
見て見るとか身体から傷の一切が消えていて、むしろ元気だった頃よりもさらに元気になった気がする。
こんな事が出来る奴を俺は二人しか知らない。
「おは」
「メユリか。ありがとう」
「ん。それより殺るんでしょ? 早く、行こう」
何故かメユリがキレている。背後にどす黒いオーラまで見えるくらいだ。
まあ、おかげで助かった。
コウシロウの膝枕も名残惜しいが、立ち上がってみんなを見渡す。
「ここで何があったんスか? どうしてアニキはそんなにボロボロに……」
ウルフがそう聞いてきた。ナックル以外は事情を知らないだろう。
俺はここであった事の全部を事細かに話した。
話を終わる頃には全員の顔に驚愕と怒りが浮かんでいた。
「そんな、それじゃあアクアさんは……」
「不味い状況、なんだよね……」
リリスとコウシロウは不安そうな顔で言った。
「正直、かなり不味い」
俺も隠すことなく言った。
いつアクアが依頼主の元に届けられてもおかしくない状況だ。
これは一刻を争う戦いに変わってきている。
「俺はこれからアクアを取り戻しに行こうと思う。敵のアジトにな」
「えっ、でも……」
それを聞くとリリスが不安そうに驚愕の声を上げたが、かまわずに話を進めた。
「正直、アイツらは強い。俺一人じゃ勝てないかもしれない」
ズキッと治ったはずの拳を足に痛みが奔った。
まるで行くなと身体が警告しているように。
大丈夫だ、と落ち着かせる。
何故なら、俺にはもう――――
「だからみんな、俺に力を貸してくれ!」
――――仲間がいるのだから。
俺の言葉を聞いて、みんなの返答は一瞬だった。
「ったりめぇだ!」
「もちろんっス!」
「当然!」
「は、はいぃ、私なんかでよければ……!」
「私の眠りを妨げた奴ら、殺す」
全員が了承。やる気満々だ。
というかメユリはだからそんなに怒ってたのね?
「じゃあ、行くぞ!」
「「「「「応ッ!」」」」」
俺の号令にみんなが合わせて、歩き出した。
そして俺は最後尾でナックルと一緒に歩く。
「ありがとうな、親友」
「おう」
顔を合わせてお礼を言うのは照れ臭いから、お互いに拳を合わせた。
ただそれでも、隣に立っていてもお互いに口角を微かに上げているのが分かった。
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