第三話
許す勇気とは、時に殺す勇気よりも難しい時がある。
【無敵】クロノス・タキオス
しばらくの間、ずっとクレアさんに抱かれて泣いていた。
一時間くらいしてからようやく泣き止んだ。
「もう大丈夫ですか、ラスト?」
「は、はい、すみません……」
泣き止むと今度は羞恥心が襲って来た。
今日会ったばかりのクレアさんの胸元で泣くなんて……。
「お姉ちゃんとしてはもう少しこのままでも良かったんだけど」
クレアさんは残念そうな顔をしたけど、抱く力を緩めて俺を解放してくれた。
にっこりを微笑みかけてもらえて、少しドキリとした。
「冷めてしまいましたね。新しいのを入れてきます」
冷めてしまった紅茶を新しく入れ直すためにクレアさんは一時的にそばから離れた。
ほんの少しだけ隣にいてくれただけなのに、隣がぽっかりと寂しく感じた。
「さて、ラストよ」
「っ、はい」
「さっき言った通り、お前はワシの孫じゃ。クレアにとっては従姉弟に当たる」
そこからクロノスさんはゆっくりと話してくれた。
俺はクロノスさんの娘のグウェンさんと、その婿のフレッドさんの間に産まれた。つまり本当の両親だ。
その時にはクレアさんはすでに四歳で俺の事を抱っこしたりと凄く可愛がってくれたらしい。他の叔父や叔母も、家族みんなに愛されていた。
けれども、それは突然訪れた。
父と母は仕事で別の街に移動する時の事だった。
その前日に大雨が降っていたせいもあり、山道が崩壊して両親が乗っていた馬車は崖の下に転落した。
そこで俺は今の両親、ダニエルとパトリシアに攫われた。
死にかけている両親を見捨てて。
だけどそこで疑問が残る。
「でも、どうして俺を攫ったんですか? 身代金が目的ならとっくに行動しているはずじゃ?」
「当時、あの二人には子供が中々出来なくてな。相当苦しんでいたそうだ。そこで、たまたま崖の下で死にかけの二人と無事な赤子を見つけ、攫って自分の子供にしてしまおうと考えたんじゃろうな」
「酷い話です……」
紅茶を入れ直してくれたクレアさんがいつの間にか隣に来てくれた。
自分の事の様に苦い顔をして、俺の手にそっと自分の手を重ねてくれた。
そうしてくれるだけで、俺はかなり落ち着けている。
「タキオス家は名門じゃ。その子供ならば優れた属性なのだろうと思って蓋を開けてみるとびっくり仰天、まさかの闇属性で二年後に産まれた子供が光属性じゃ。二人のラストに対する扱いもひどくなるじゃろうな」
「そこまで、調査してくれたんですね」
「実を言うと三カ月前から、ラストがあの家にいることは知っていたんです。ですが、証拠を集めるのに時間がかかってしまって…………ごめんなさい」
クレアさんの手に力が入った。
でも、どうして謝るのかがわからない。
「大丈夫ですよ、俺を見つけてくれてありがとうございます」
「ラスト……っ」
感極まったクレアさんにギュッと抱きしめられる。
「おうっほんっ! クレアよ、そろそろ羨ましいからやめるんじゃ」
あ
「さて、ラストよ。これからお前はどうしたい?」
「どう、したい……?」
「なんなら、これからワシとクレアの二人で奴らを一族郎党、血祭に上げることだって可能じゃ」
「その他にも法的に殺す事もできますし、社会的にも殺すことができます。ゆするネタも沢山ありますから、地獄のような苦しみを与えてやれますよ」
二人とも目が本気だ。
多分、この二人なら本当にそれができるんだろう。
けど――――。
「俺を、二人の家族にして下さい」
二人の家族になりたい。
温もりを知った。愛情を知った。抱きしめられる感触を知ってしまった。
もう、俺はあそこには戻れない。
それに対する二人の返事は――――。
「「もちろんじゃ(です)っっ!!!」」
それからしばらくの間、二人に左右から抱きしめられた。
少し暑かったけど、凄く嬉しかった。