第二十八話 再会
本屋から出ると服屋に向かった。
女性服専門店の様で女性ばかりが出入りしている店だった。
「服、選んでください」
「えー……」
「もう! そこは「分かったよ」って言うところでしょ!」
腰に手を当てて頬を膨らませるアクア。
母さんや姉さんもそうだったが、何故か男の俺に意見を求めるのだ。リリやララの服なら選びやすいのだが……。
結局、店の中に連れて行かれてしまった。
「じゃあ、これとこれならどっちが良いですか?」
そう言って右手に水色のワンピース、左手は僅かに青いワンピースを持った。
どちらも一緒に見えるのだが、女の子からすれば違うのだろう。
「えっと……じゃあ、右で」
「えー! 絶対こっちの方がいいですよ! こっちを買いますね!」
結局そっちを選ぶのかよ……。
まあ、母さん達で慣れてるけど。
どうやら買う服は決まった様なのでカウンターに向かった。
結局、その後も服だけでは無く、靴や小物類も大量に買い込んだ。
こう言う時のための影収納だ。おかげで軽々と買い物に行ける。
「ふう、そろそろお腹が減ったな」
「あ、そう言えば……」
すでに六時を過ぎ、普段ならば夕食を取る時間帯だ。
「どこかの店に入りましょう。私が奢りますよ」
「そうか? それじゃあ、お言葉に甘えて奢られようかな」
「はい、奢られちゃって下さいっ!」
何が嬉しいのか、アクアは軽やかにステップを踏んだ。尻尾があればぶんぶんと振ってそうだ。
その時だ、夕食の時間帯のせいで人が溢れている大通りで人混みが避け始めた。
その中心にいたのはーーーー。
「あれ、キーランさん?」
「ラスト君じゃかいか!」
そこにいたのは姉であるクレアが隊長を務める、王国第三騎士団の副団長キーランだった。
キーランは長い灰色の髪を後ろで結び、やけに縁が太い眼鏡を掛けている。剣術の腕は確かで、さらに土属性を組み合わせて戦う戦闘スタイルはクレアと似た部分があった。
俺も何度も模擬戦をして貰ったが、その強さはかなりの物だ。流石は姉さんの右腕と言える。
「お久しぶりです」
「そうだね、もう半年は経つかな?」
「修行が終わってからは中々会う機会もありませんでしたからね。でも、キーランさんも大規模遠征に行ったのでは無いんですか?」
そう、本来ならキーランは大規模遠征に付いて行って、王都にはいないはずだ。
キーランの後ろには四、五人の騎士もいたが、所属は第三騎士団では無く第一や第二の人間の様だ。
「大規模遠征といっても、流石に全員が王都を離れるわけにはいかないからね。私を含めて各騎士団から数名の騎士が残っているんだよ」
そりゃあそうか。全員がいなくなったら王宮の警護はどうするんだ?と言う話だ。
あれ? それならアクアの護衛も必要要員なんじゃ……。
「リーダー、そろそろ」
「おっと。時間が迫っているから、ここで失礼するよ」
やはり忙しいのか、お別れの言葉をかける間も無くキーランは騎士を引き連れて行ってしまった。
そして残された俺とアクアの間に沈黙が流れる。
「……なあ、アクア?」
「ラストさん、お腹が空きました」
「アクア?」
「お腹が空・き・ま・し・た」
「ご飯、食べようか」
結局、アクアの圧に負けて追及できなかった。
それにしてもキーランさんはアクアに挨拶もして無かったけど良かったのだろうか?
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