第二十五話 風紀委員長の雷華
風紀委員会。それは学園の生徒で絶大な権力と力を保有し、独立的に生徒を裁く事ができる唯一の委員である。
『一年A組のラスト・タキオス、至急風紀委員会へ来なさい』
ある日、校内放送でそう告げられた。
一年A組の場所で「おっ、誰だ?」と余裕を持って笑ってたが、名前を呼ばれてさらに驚いた。
そして最後に風紀委員会へ来い、と。
一緒にいた三人が心配してくれた。
「ラストさん、何をしたんですか!?」
「何やらかしたんだよ!?」
「あの風紀委員を敵に回すなんて流石はアニキっス!」
「いや何もやってねえよ!?」
何で君達は俺が何かやらかした前提で話をしてるんだ。ちょっと傷付いたぞ。
前言撤回。絶対この人達は心配してない。
「あははー、僕も着いて行こうか?」
「いや大丈夫だ。行ってくる」
コウシロウだけだ、俺を心配してくれるのは。
教室を出て風紀委員会の拠点に向かう。
風紀委員会は最上階のフロア、その最奥に存在する。
生徒会よりも良い部屋を与えられているのは、実質的に風紀委員会の方が原料を持っているからだ。
扉を三回ノックする。
「失礼します」
「うむ」
返事が返って来たので入室すると部屋の奥にある大きな窓の前に一人の女性が立っていた。顔は見えないが黒髪を後ろで束ね、腰には刀を帯刀している。東洋の島国、和の国の出身だろう。
「その、どうして俺をーーー!」
「“突”」
「っ!!」
読んだんですか? と聞こうとした、次の瞬間には彼女は俺の眼球目掛けて刀を突いていた。
殺気が籠った本気の目だ。このままだと殺される。
瞬時に判断して闇魔法 黒腕を発動し、手の平で受け止めた。
圧縮・凝縮された闇は刀の刺突でさえ簡単に耐えた。とは言えなかった。
薄皮一枚程度だが、僅かに傷が入った。
何者だ? 本気の殺気だったが、全力では無かった。全力なら俺は死んでいた。
「やはり素晴らしいな」
刀を刺した女性は口角を上げて喜ぶ様に笑う。
「すまなかったな、許して欲しい。決闘の場では君の実力を試したくてね」
迸る雷の様な刃紋が輝く刀を鞘に納めた。
「私は風紀委員長の天竜院 雷華だ。まずは突然の非礼、侘びさせて欲しい」
雷華はそう言うと深々と頭を下げた。
頭を下げるだけだったが、それだけでも綺麗な所作で思わず見惚れてしまった。
それから、とりあえず俺はライカ先輩を許し(最初から怒ってもいなかったが)、応接用のソファに座らされておもてなしを受けていた。
「粗茶ですが」
「ありがとうございます」
出て来たのは茶器に入れられたお茶だった。
名前と言い、刀と言い、お茶と言い、やはりライカ先輩は和の国の出身なのか。
「ライカ先輩は和の国出身なんですね」
「そうなんだよ、もしかしてコウシロウから聞いたのかな?」
「え、コウシロウ……?」
何故ここでコウシロウの名前が出てくるんだ?
「おっと、忘れてくれ」
少し慌ててライカ先輩が自分の口を塞いだ。
何か関係性があるのか。まあ、後からコウシロウに直接聞けば良いか。
「それでは本題に移ろうか」
スッ、とライカ先輩が目を細めた。
ほのぼのとした雰囲気が変わり、一気に真剣な空気になった。
「ラスト君。風紀委員会に入らないか?」
「え?」
「驚いている様だね。まあ、無理も無い。生徒会や風紀委員会は原則として二年生になってからだからね。でもね、ラスト君。私は君を買っているんだ、そんなルールを無視してもいいぐらいにね」
ルール無視。それは風紀委員会であるはずの彼女が自分から風紀を乱すと発言している様な物だ。
そう言わせているのが俺なのだから少しむず痒く感じて、照れ隠しに頬をぽりぽりと掻いた。
「ですが、どうして俺なんですか?」
「良い質問だ。当然、それが気になるだろうな」
そりゃそうだ。俺と雷華さんとは何の接点も無い。百歩譲って、俺が風紀委員会にスカウトされるのは良い。
だが何がきっかけで、どうして俺を入れようと思ったのかが知りたかった。
「最初に見たのは入学試験のナックル・バーンとの戦いだったかな、アレは見事な戦闘だったよ」
懐かしいな、ナックルとの殴り合いは楽しかった。
雷華さんは会場の手伝いで来ていたのかな?
「そして次がウルフ・サンダースキーとの決闘。彼は巷では【凶戦士】と呼ばれる程に凶悪で凶暴な戦士だったはずだ。そんな彼を一撃で葬った」
いや別に殺して無いです。
「君の実力は圧倒的な物を感じる。おそらくだが、どちらの戦いも全力を出していないだろう」
「っ」
「やはり、な。その余裕は圧倒的な強者ゆえのものなのか、それとも何らかの制約のせいなのか。どちらにしても君の実力は私にも届くだろう」
余裕、か。そう見えるなら俺もまだまだだな。
何かあっても、最終的にはアレがあると思っているから、本気で戦えていないんだ。
アレは奥の手中の奥の手だ。いつでも使えると思ってはいけないモノだ。
少なくとも、自分の実力だけで戦える相手には使ってはいけない。
「それに君は美女達と共にいて、手を出さない誠実さも兼ね備えているからな」
ボソッ、と雷華さんが呟いたが上手く聞き取れなかった。
「君の実力が必要だ。学園の風紀を取り締まるためにも君の力を貸してくれないか?」
微笑みながら雷華は俺に握手を求めて手を差し出す。
だが俺は握手を握り返さずに聞いた。
「でも俺は闇属性ですよ?」
「だからなんだ?」
「だからっ、それはーーーー」
「もしもそれが“闇属性だから批判を受けるのでは?”などと言う事なら、私も見誤られたものだ」
はあ、と落胆のため息を吐いた。
「君は私が見つけ、私が認め、私がスカウトした者だ。もしも文句を言う輩がいても問題ない。私と、私の風紀委員会が君の味方だと誓おう。大切な仲間なのだから」
その言葉に涙を流しそうになる。
如何に家族に甘やかされ、仲間ができた俺でも、人に褒められ肯定される事には慣れていなかった。
嬉しかった。
真っ直ぐに目を見て話してくれる。
闇属性でも問題ないと言ってくれる。
答えは決まってる。
「お断りさせて下さい」
俺はほぼ即決で断った。
雷華さんはぱちくりと瞬きをして、少し驚いた様子だ。
「ふむ。理由を聞いても?」
「俺に風紀委員は荷が重すぎます。今は友達と夢を背負うだけでいっぱいいっぱいなんですよ」
指を二つ立てて俺は薄く笑った。
とてもじゃないが、風紀委員なんて俺には無理だ。雷華さんの姿を見ているとその難しさが目に見えてくる。
「…………そうか、君の覚悟はよくわかったよ」
納得してくれたのか、雷華さんが僅かに口角を上げて一度だけ深く頷いた。
「だけど私は諦めないぞ。必ず君を振り向かせて見せるからな!」
ちょん、と鼻に指を当てられた。
真っ向からそう発言して、歯を見せて笑う雷華さんに不覚にもドキッとした。
三章完結です。
明日から四章の開幕です!
この三章では今後メインになると思われるキャラクターを登場させました。
キャラの掘り下げもストーリーが進むにつれてしていく予定ですので楽しみにしていて下さい
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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