第二十一話 狂犬ウルフ
朝、目が覚めて共同スペースに出ると美少女がいた。
「おはよう、ラスト君」
あ、違った。コウシロウだった。
彼は望月コウシロウ。俺のルームメイトだ。
だけどマジでエプロン付けてると女の子に見えるな。
食卓には朝食が並んでいた。
「朝ごはんまで作ってくれたのか?」
「まあ、僕に出来るのってそれくらいしかないからね」
「ありがとう、正直助かるよ」
「これからも僕が料理を作ってあげるね〜っ!」
朝に飲む味噌汁も旨かった。
これから、この部屋の料理担当はコウシロウになった。毎日この料理が食べれるなんて、幸せだ。
二人で制服を着て、部屋を出た。
母さんの号令で授業が始まった。
「みんな〜、おっはよ〜う! 今日も一日、頑張ろうね!」
少し心配もあったが、母さんの授業はとても分かりやすかった。よく考えると修行の時にも教え方が上手だった気がする。
「ラストさん、一緒に食べましょう」
「ラスト君、僕もご一緒してもいいかな?」
「ラスト! 一緒に食おうぜ!」
昼食もアクアとコウシロウ、ナックルと四人で食べた。学食で中々旨かったが、コウシロウの腕には敵わないな。
平和で普通な、とても充実した学園生活だった。
「決闘しやがれ! ラスト・タキオス!」
そう、今までは。
その日の放課後にそれは起こった。
同級生の獣人、ウルフ・サンダースキーに校舎裏に呼び出されたのだ。
何事かと思って行ってみると、そんな事を言い渡された。
「え、は? どういうことだ?」
「聞こえなかったのか、低脳野郎、決闘だ!」
低脳野郎って、流石に酷くないか?
「テメェが気に入らねえんだよ、オレはよぉ!」
「そうなのか……?」
「受け取れ」
「えっ、は?」
突然、俺に向かって投げられた手袋。
それを俺は思わず受け取ってしまった。
ウルフが口角を上げた。
「はっはぁ! それでテメェは決闘を受ける事になったぜ!」
「っ、しまった!」
決闘の儀と呼ばれ、相手から投げられた手袋を受け取ると決闘が成立するのだ。もしも決闘を受けなければ、家の名前に泥を塗る行為であり、伝統を汚したとして周囲の人間からも軽蔑される事になる。
つまり、俺は決闘から逃げられなくなった。
「はあ、いいよ、やるよ」
「そうこなくっちゃなぁ!」
それから闘技場・東に向かった。
元々、使用許可は取っていた様ですんなりと入ることが出来た。
この手際の良さは、おそらく計画的だ。
昨日の内に準備したんだろう。
観客席を見るとアクアやコウシロウ、ナックルの姿も見えた。他にもA組のメンバーや他クラス、さらには上級生の姿まで見える。
ウルフは薄ら笑いを浮かべて愉快そうにこちらを見ていた。
これもウルフの計画の内、か。
「俺はお前が気に入らねえんだよ! 母親が担任としてやって来て、しかもタキオス家のボンボンじゃねえか! テメェが同じ試験で合格したなんて信じられるわけねえ! 闇属性のテメェがよお! 俺がテメェを倒して、その化けの皮を剥いでやるよ!」
なるほどな、それが動機か。
まあ正直、こういう輩がいつか現れるのは覚悟していた。
ただでさえ闇属性ってだけで反感を買うのに、その上、影響力の強いタキオス家の出身でさらに母親が担任として赴任して来た。
汚い手を使っていると思うのも仕方がない事だ。
だが、な。
審判は俺が入学試験を受けた時と同じ人だった。
「試合開始!」
「風魔法 嵐爪牙!」
試合開始の合図と同時にウルフは走り出していた。
嵐爪牙。風がウルフの爪に凝縮され、鋭く尖った。四足歩行のウルフが触れた石畳には深々と傷が入り、その爪の威力を物語っている。
そして速い。とにかく速い。
周囲を縦横無尽に駆け巡り、空中すらも足蹴にして走る。
わざと俺には直接接触せずに、その周囲だけを囲う様に走った。まるで鳥籠だ。逃げ場がない。周囲のどこからでも襲って来られる。
見事な物だ。
「ーーーーだけど、悪いな」
闇魔法 黒腕。
「ヒャッハァアアアア!!」
「ソレはもう、知ってる」
「ぐべらぁ!!?」
側方から襲って来たウルフの顔面に黒腕をお見舞いした。何度かバウンドしながら吹き飛んで行き、ウルフは場外の壁に衝突した。
「しょ、勝者、ラスト……」
審判が俺の勝利宣言をするが、観客の反応は無い。一部、騒がしい場所もあるがおそらくアクア達だろう。
だが、そんなのは無視して俺はゆっくりとウルフの元に歩いた。
「な、何故だ……、何故お前はオレの動きを!」
ウルフは右頬を大きく張らしながらも上体を起こしていた。結構強く殴ったんだが、気絶まではしなかったか。頑丈な奴だ。
さて、ウルフの質問には答えてやろう。
「お前のその戦闘は俺の兄貴の劣化版だ」
「な、何……!?」
「お前よりも速く、鋭く、凶暴で凶悪、何よりも強靭な心身を持ち合わせている。それが俺の兄、ライオスだ。俺はその兄さんと四年間、修行をして来た。だからお前の戦闘にもすぐに対応出来たんだ」
ライオス兄さんとは何百何千と試合をした。その戦闘は正しく、野獣。獰猛で凶悪で速く鋭く強く。それが俺の兄、ライオスだった。
あの人の下位互換であるウルフに俺が負ける筋合いは一切無いのだ。
「覚えとけ。俺を侮辱するのは構わない。だが、俺の家族を侮辱するのなら俺はお前を許さない」
その一言を聞くとウルフはガクッと力が抜け、気絶した。
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