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第二十話 同じ部屋のコウシロウ


 俺は今、窮地に立たされている。

 今日から泊まるはずの寮の前にいるのだが、自分の部屋がわからない。

 

 その時だ。俺を呼ぶ天使の声が聞こえた。


「ラスト君、だよね? もしかして困ってたりする?」


 声の方を振り返ると

 ほっそりとした身体と女に間違えられてもおかしくない容姿、彼はイケメンって言うよりも美男子って感じだ。

 黒髪の彼女は東の島国、八百万の神を信仰する和の国の出身だ。その腰に差している武器は《刀》と呼ばれ、和の国ではメインの装備になっているそうだ。


「確かコウシロウ、だったよな?」

「うん、そうそう。覚えてくれたんだね」


 名前を呼んだだけなのに嬉しそうにコウシロウは笑うが、男だと知らないとうっかり惚れてしまいそうな笑顔だった。


「それで困ってるみたいだったけど、どうしたの?」

「それが俺の部屋がどこか分からなくてさ、同居人の名前も分からなくて、もうどうしようもなくて……」

「えっと、それなら僕、分かるけど」

「まじで!?」


 タイミング良すぎるぜ!


 結局、コウシロウに助けて貰う事になった。嫌な顔一つせずに案内してくれるコウシロウはマジで天使かと思った。


「いやー、助かったよ」

「ふふっ。まあ、


 そこで、寮の一室の前に立ち止まった。


「はい! ここがラスト君の部屋だよ!」

「おおー! ……あれ、望月? それって」

「あはは、そう、僕が君の同居人だったり」


 すっごい偶然だな!


 確かに扉の前に望月とタキオスと二人の家名が書かれている。


 部屋にはそれぞれの自室の他にはリビングがあり、基本的にはそこで食事をする様だ。キッチンや風呂場も完備され、家具類は備え付きなので既に揃っていた。


「荷物は自室に運ばれてるみたいだから、とりあえず荷解きしようか!」

「そうだな」


 それぞれ自室で荷解きをする事にした。まあ、俺は荷物といっても服や本くらいしか無く、すぐに終わった。


 特にやる事もないので、自室から出てソファで新聞を読んで時間を潰した。

 どうやら犯罪組織が活発化しているらしい。

 村が襲撃されて騎士団が出撃するハメになった様だ。

 クレア姉さんは大丈夫かな……。


「あれ、ラスト君、もう終わったの?」


 しばらくして、コウシロウが自室から出て来た。


「遅くなっちゃったね、ご飯でも作ろうか」

「え、コウシロウって料理できるのか?」

「うん、まあね。と言っても母国の料理だけだけどね」

「助かるよ、俺は料理だけは苦手で……暗黒物質ダークマターみたいになっちゃうんだよ」

「ぷふっ、暗黒物質ダークマターって」

「これも闇属性の魔法だな、闇魔法 暗黒物質ダークマター! 食べた者はお腹を下す!」

「あはははっ! 食いしん坊さんには有効な魔法かもね!」


 お、おう……。コウシロウの笑顔、威力がやばい。

 思わず惚れそうになるところだったぜ。


 それからコウシロウは慣れた手際でキッチンで料理を作ってくれた。


「はいっ! 味は保証しないけど……」

「おお! めっちゃ旨そう!」


 和の国の料理で白米と味噌汁、漬物、サバの味噌、おひたしが並べられた。

 食べた事が無い料理ばかりだが、旨そうなものばかりだ。


「「いただきます!」」

「あむ。…………うまっ!」

「ほ、本当? よかった〜」


 最初にコウシロウが味噌汁を啜ったので、俺目それに習って味噌汁から手をつける。

 具材は一般的な豆腐と揚げだけらしいが、今まで食べて来たスープとは段違いで旨い。


 他の料理も同じで、あまりの旨さにすぐに完食してしまった。これはハマりそうだ……。


「ごちそうさま」

「お粗末様でした」

「いや〜、旨かった。特にこの味噌汁が良かったね、毎日食べたいよ」

「っ、ま、毎日!?」


 コウシロウが動揺した様に狼狽えた。

 ふむ。こんなに美味しい味噌汁を毎日食べたいと思うのは可笑しいだろうか?

 ……まあ、いいか。

 俺は食べ終わった皿を重ねて行く。


「あ、僕やるよ」

「いいよ、皿洗いくらいは俺も出来るし、作って貰ったんだからさ」

「……それじゃあ、お願いしようかな?」

「おう。任せとけ!」


 皿洗いなら俺にだってできる。泡立つシンクの中で汚れを落として皿から水分を拭い、食器棚に仕舞った。


 それから適当に紅茶を入れて、まだ食卓にいたコウシロウのところに持って行った。


「紅茶で大丈夫だったか?」

「わっ、ありがとう。うん、大丈夫だよ」

「和の国は紅茶じゃないんだっけ?」

「そうそう。お茶って言ってね、緑色なんだけどーーーー」


 元々性格が合うのか、話し出したら止まらなくなった。

 話の流れで属性に関する話題になった。


「僕は風属性なんだ。家が道場で刀を使うんだけど、刃に風を纏わせて切るんだよね」

「へえ、それはかなりの威力になりそうだな」

「そうなんだよ! この前なんか、でっかい岩も簡単に真っ二つに出来てさー!」


 自慢げに言う。

 風属性は元々、エアカッターなどの魔法があるほど斬撃に適正がある。腕があれば、風と合わせても岩の切断なんて簡単だろう。

 かつては炎を剣に纏った【炎の侍】と呼ばれる英雄が居たくらいだから、コウシロウだっていつかは山くらい両断できる様になるはずだ。


 チラッ、と時計を見るともう十一時になっていた。話し始めたのが八時だったから、三時間は話していた事になる。

 その視線に気付いたのか、コウシロウは申し訳なさそうに謝った。


「あれ、話し過ぎちゃったかな……? ごめんね、疲れてるだろうに」

「いいや、俺も楽しかったよ。ありがとう」

「そうかな?」


 さて、と俺は空いた紅茶をシンクで洗って部屋に戻ろうとした。

 その時だ、コウシロウが俺の裾を掴んで引き止めた。

 何か言いたそうだが、中々口が開かない。


「…ぁ…………」

「…………えっと」


 少しの間待つとようやくコウシロウが口を開いた。


「ラストはさ、僕と同じ部屋で嫌じゃ無かった?」

「え?」

「ほら、僕って女の子みたいな見た目じゃない? だからさ、よく言われたんだよね、女みたいで気持ち悪い、とかってさ、だからーーーー」

「いや、俺はコウシロウと同じ部屋になれて滅茶苦茶嬉しいよ」

「っ、そ、そうなんだ、へー」


 素直な気持ちを言うとコウシロウは照れた様に笑った。


「料理も美味しかったし、迎えに来てくれた時は本気で助かったよ。それに話も面白かったしな」

「そ、そっか」

「よければさ、友達にならないか?」

「友達……? いいの!?」

「もちろん!」

「じゃあ、是非!」


 満面の笑みのコウシロウ。可愛い。


 さて、流石にもう睡魔に抗うのも限界だ。


「じゃ、また明日。おやすみ」

「うん、おやすみ。ラスト君」


 コウシロウに今日最後の挨拶を済ませ、部屋に入った。

 ベッドで横になるとすぐに眠りに落ちた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

作者のモチベーションアップにも繋がりますので、ブックマークや高評価、感想など是非よろしくお願いします。

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