第十五話 友達
あの後、俺はすぐに帰ろうと思ったんだが、ボロボロ過ぎて心配だと止められた。
そのまま医務室に運ばれて、今はベッドの上だ。
「あー、痛え……」
絶対これは怒られるな、リリとララに。
正直、無理に殴り合いを受ける必要は無かった。距離を取って、遠距離で攻撃できる魔法を使えば怪我をせずに勝てた。
だけど、ナックルと殴り合って見たかった。
ナックルの近接戦の、特に捨て身になった時の土壇場の強さはライオス兄さんを超えるかもしれない。
合格出来たら、友達になりたいものだ。
その時だ。医務室の扉がコンコンと叩かれた。
誰だろうか、俺を訪ねて来るなんてライオス兄さんか? いや、それはないな。
とりあえず「どうぞ」と返事をすると控えめに扉が開かれて、彼女が頭を覗かせた。
「あの、ラストさん……?」
アクアだった。不安そうな顔をして、おずおずの部屋に入って来た。
「怪我は大丈夫ですか?」
「まあ、見た目ほどはな。俺は頑丈だからさ」
ほんと、この四年間で何度死に掛けた事か。このくらいならすぐに体力も回復する。
「それは良かったです」
「それでアクアは何でここに?」
特に俺に用事なんて無いと思ってたけど。
そう思っているとアクアは勢い良く頭を下ろした。
「ラストさん、ごめんなさい!」
何が起こったのか、一瞬理解が追い付かなかった。
王族であるはずのアクアが俺に頭を下ろしたのだ。
何で?どうして?そう思うよりも先に止めに入った。
「っ、ちょ、アクア!?」
「私、酷い事を……っ!」
顔を少し上げたアクアの涙袋には、今にも溢れ出しそうな涙が溜まっていた。
「ラストさんは、ラストさんなのに、タキオス家の闇属性などと呼んでしまいました……っ!」
ついにアクアの頬に涙が溢れた。
「私、嬉しかったんです、ラストさんに応援されて……! なのに私は一瞬でも、闇属性と考えてしまった! それが私は許せない! 自分が許せないんです!」
アクアはせっかく上げた頭をまた下げた。溢れる涙がポロポロと床に落ちて跡となっていく。
「ラストさんがどうしてあの時、名前を教えてくれなかったのか、分かりました……っ!」
あの時とはアクアが名前を教えてくれた時だったか。確かに俺はアクアが俺の事を「タキオス家の闇属性」だと分かって、態度を変える事を恐れていた。
「ごめん、ごめんなさいっ!」
さらに深々とアクアは頭を下げた。
俺は闘技場に降りる時、アクアに呼びかけられても無視した。だからアクアは罪悪感が増して、こうして頭を下げているのだ。
だが、俺の中では既にその事は些事と化していた。
それよりも大事な事が思い浮かんだ。
「頭を上げてくれ、アクア」
ベットから立ち上がって、アクアの頭を優しく上げさせた。お互いに目線が合う。
「その話はもう終わりだよ、アクアの気持ちも分かったから」
優しくて微笑み掛ける。
純粋にそう思ったから、俺はそれを口にした。
「なあ、アクア。友達になろう」
アクアと友達になりたい。
「へ?」
まさかそんな事を言われると思っていなかったのか、アクアは呆けた顔をした。
「俺はさ、実は同年代の友達って一人もいないんだよ。だから、アクアと友達になりたい。ダメか?」
アクアは呆けていたがハッ、として頭をブンブンと振る。
「じゃあ、今日から友達だ」
「っ、はい!」
これで二章完結です。続けて三章に入ります。
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