第十話 クロノス
やっとの思いで探し出した愛しの孫を崖に落とした。その崖は底まで真っ暗で何も見えない。
昔、自分が落ちた時よりも闇が深まっている気がする。
果たしてラストをこんな場所に落としていいのだろうか。
そんな疑問も頭によぎるが、英雄になるためにはここは通過点に過ぎない。
「まっ、獅子は自分の子を千尋の谷に落とすと言うしのう!」
『本物の獅子は我が子を谷に落としたりはせんぞ』
「え、マジ?」
『当たり前であろう。そんな事をすれば死んでしまうぞ』
「ワシ、ちょっと行ってくる」
孫よ、待っておれ! ワシが今行くぞーー!!
『はあ。大馬鹿者め』
ドクン、と身体の時間が停止した。
ワシの中にいる時の女神のせいだ。
『クロノスよ、お前が孫を信じないで誰が信じるのだ』
「むっ」
確かにそうだ。
崖に飛び込むのを止める。
それが分かったのか、時の女神も時間停止をやめた。
『……そんなに心配するのなら落とさなければ良かったであろう』
自分で落としておいて助けに行こうとするクロノスに時の女神も流石に呆れた。
「英雄になるには、いや英雄の頂点に立つには神の力が必要であろう」
『ふん。流石に英雄ランキング一位が言うことは違うな』
「実際、英雄ランキングの上位者は神と契約してるじゃろ」
英雄ランキング。それは現存する英雄と呼ばれる者達が功績や人気によって順位付けられている。現在は十八名の英雄がおり、クロノスはその中でも第一位の座に座っている。
この英雄ランキングに乗ってこそ、真の英雄になれるのだ。
「英雄とはなろうとしてなれるものではない。いつの間にかなっているものなのだ。だが、なろうとしなければ英雄にはなれない」
ワシの時の女神しかり、真の英雄には神が憑いている。神に認められるのは英雄への第一歩だ。
『と言っても、あの破壊神と契約するのはかなり難しいですよ。何せバカですから』
「わははっ。まっ、契約も英雄になるのに必要な事じゃし、その程度も出来んのならば英雄になる資格もないわ」
これから待ち侘びるであろう、数々の壁はこの程度ではないのだ。
『…………どうやら、お前の弟子は英雄になる資格はあるようですね』
「む?」
次の瞬間、崖の底から天まで届く暗黒の塔が現れた。
「『暗黒ッ!!』」
掛け声と共に暗黒の弾丸が飛んで来た。
クロノスは暗黒の弾丸の時間を加速させて消し去った。
あの漆黒の塔は一体なんだ?
いや、クロノスにはその答えは分かっていた。
「あーっ! 避けられたじゃんか!」
『馬鹿野郎! テメェが下手なんだよ! 俺のせいにすんな!』
「はあ!? お前の闇魔法がほんとはショボいんじゃねえのか!?」
『馬鹿言え! 俺様の闇魔法は世界最強だ! テメェの身体が引き出せてねえだけなんだよ!』
漆黒の塔から姿を表したのはラストだった。しかし、その身体に纏う暗黒にはラストだけでなく、別の者の気配を感じた。
『……驚きましたね。まさかシヴァと契約を結ぶなんて』
時の女神も驚いているが、ワシは驚かない。
これこそがワシの弟子なのだ。
「わはははっ! さあ、ラストよ! 覚悟は出来ているか!?」
「もちろん! 俺は、英雄になる!」
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