第一話 闇属性のお前が英雄になれるわけないだろ
新連載始まりました。
末長くよろしくお願いします。
英雄になりたい。
小さい頃に一度だけ貰った“英雄記”をプレゼントされて、何度も読んだ。そして憧れた。
本の中で英雄たちはカッコよかった。
魔物と戦って、人を救って、可愛い女の子と結婚して。
そんな英雄になりたいと思った。
けれど……。
「闇属性のお前が英雄になれるわけないだろ!!」
現実は、甘くなかった。
俺、ラスト・フォシオルの属性は【闇】だったのだ。
属性とは、人に与えられる魔法の適正の事だ。
魔法が生活の一部であるこの世界では、その適正によって人生が決まると言っても過言ではない。
そして俺が手に入れた属性は【闇】だった。
世界中探しても百人いるかいないかのレア度だ。
だが、だからと言っても褒められたものではない。
闇属性は嫌われ者だからな。
数百年以上前の最初の魔王が闇属性だったとされる。
それ以来、闇属性は魔族の象徴とされたり、忌み子と呼ばれるようになった。
俺も闇属性だからと夢を否定され、両親にはいない存在と言われている。
「なあ、聞いてるのか!?」
「ウッ……!」
弟、アダム・フォシオルに胸ぐらを掴みあげられる。
喉が締め付けられて、息が出来なくなった。
「チッ」
「ハアハア……」
「こんなのが兄なんて恥ずかしくて死にそうだぜ」
俺を放り投げて嫌な事を言う。
弟は俺を嫌っている。
それは一重に俺達の属性が関係していると思う。
弟は光属性で俺は闇属性なのだ。
光属性は闇属性とは違い、英雄にもなれる属性だ。
歴代の魔王を倒した者には光属性が多く、初代国王も光属性だったと言われている。
そのため、光属性を持って生まれた者は将来の英雄候補と呼ばれている。もちろんアダムもだ。
実際、アダムは凄い奴だ。
光属性の魔法を覚え、屋敷の騎士を相手に戦闘訓練をしても全く引けを取らない。十一歳とは思えないほどだ。
「まあ、サンドバッグにはちょうどいいけど――――」
その時だ。
「おお、今帰ったぞ」
「ただいま」
出張中だった両親が帰って来たのだ。
「父上! 母上! おかえりなさい!」
アダムは嬉しそうに二人を出迎えた。
さっきとは打って変わって、子供の様な表情だ。
「新しく光剣の魔法が使えるようになったのです!」
「おお! それは凄いな!」
「流石は私達の子供ですね!」
アダムが新しくできた魔法を自慢する。
両親は喜びでアダムの頭を撫でて褒めている。
三人の世界だ。
まるで、俺はいないような扱いだ。
「お、おかえりなさい、父さん、母さん」
だけど震えた声で言う。
ここで声をかけないと「挨拶も無いのか」と怒られてしまう。
「……何だ、いたのか。さっさと家畜小屋に消えろ」
「私達のアダムちゃんが穢れてしまいます」
だが、両親は虫を掃うように手を振った。
お前など知るか、お前のことなど目に入れたくもない。とでも言いたげに。
「っ、失礼します。おやすみなさい」
唇を嚙みながらこの場所を後にする。
背中では両親とアダムの笑い声を聞きながら、自分の部屋に戻った。
俺の部屋は古い家畜小屋だ。冬は隙間風が吹いて凍えるほど寒い。それに臭い。
だが、こうして部屋を与えられるだけでもマシだ。と、自分を言い聞かせてこの家畜小屋を使っている。
藁を積んで作った寝床で横になる。
「本当に俺達って、家族なのかな……」
ずっと疑問に思っていた。
両親は俺に当たりが強い。俺が闇属性だからという理由かもしれないが、それでも酷過ぎる。
父のダニエルは武官だからか戦闘訓練では厳しい。いや、俺には特に厳しい。訓練の後は身体中がアザだらけになったり、酷い時では骨を折った時もあった。
母のパトリシアからは一度も抱擁されたことが無い。それどころか、撫でてもらったことも、褒めてもらった事もない。
両親とアダムは金髪なのに、俺は赤髪だ。
本当に血が繋がっているのか確信できないくらいには疑っている。
愛もなく育てられた子供はこうなってしまうんだろう、と幼いながらで思った。
少し涙が溜まって来た。
ダメだ。こんな事を考えていたら、もう動けなくなる。
涙を拭って、藁の下に大事に保存しておいた一冊の本を取り出した。
英雄記という題名の本はボロボロで、何度も読み返した跡がある。
「英雄に、なりたいよ……」
……結局、その日は頬に一筋の雫を流しながら眠った。
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