第九十九話 お手上げらしい
「今回ここに来た要件なんですが……実は俺、武器を新調しようと思ってまして」
そう言って、俺は本題へと切り出した。
「素材は自分で用意してきてるんで、持ち込みでオーダーメイドの武器を作ってくださるとありがたいです。……どこか広いスペースはありませんか?」
「うーん、持ち込みか……。できることならもちろん協力してやりたいんだが、幻蝶の話を聞いてる感じだと、儂に扱いきれる素材かどうかが心配だな……」
鍛冶師はそう言いながら、頭をポリポリと掻く。
「広い場所ってことなら、裏庭がそこそこ広いからそこで見してくれ」
とりあえず、俺は鍛冶師に連れられ裏庭に移動することになった。
……うん。見た感じ、確かにここなら十分なスペースがあるな。
「《ストレージ》」
俺は持ち込もうとしている素材を取り出した。
身長の3倍以上はある巨大なソレを見て、鍛冶師は目を丸くする。
「な……ななな何なんだこのでっかい代物は!?」
「カランビットナイフです」
鍛冶師の問いに、俺はそう応えた。
カランビットナイフとは、主に近接格闘術の達人に愛用される、弓なりの形状をしたナイフだ。
とはいっても……もちろん、これは人間用のではない。
これは「ゲリラステージ」の7桁級魔物である、マーシャルヨトゥンが持っていたものだ。
「こ、これがカランビットナイフって……マジかよ。まるで巨人用じゃねえか……」
まるでというか、まさにその巨人の魔物と戦って得た戦利品なんだがな。
「これを加工して、このくらいのサイズの剣にしていただけませんか?」
参考までにディバインアローの剣を見せつつ、俺はそう聞いてみる。
「おう、ちょっと待てよ……」
そう言うと、鍛冶師は裏庭の隅にある物置に向かっていった。
そしていくつかの魔道具を取り出すと、マーシャルヨトゥンのカランビットナイフを測定しだした。
いくつかの計器による測定が終わると……鍛冶師は肩を落としてこちらに歩いてきた。
「すまん。これは無理だ。儂にはこれを加工できる技術がねえ」
マジか。ダメなのか……。
「というかよお、初めて見たぞ? 何だ、この『融点がオリハルコンの3倍』とかいうふざけた素材は。こんなもん、どんな炉を使っても溶かすことさえままならねえじゃねえか……」
……ん?
一瞬がっかりしたが、続けて鍛冶師が放った言葉に、俺は疑問を感じた。
「あの……溶かすのだけが難点でしたら、その必要はありません。素材自体が刃物なので、刃の部分を含むよう人間用サイズに切り出せば剣にできるはずです」
わざわざ溶かす必要はないのでは、と思ったので、俺はそう提案してみた。
ちなみに元が弓なりのナイフではあるが、その点については問題ないと思っている。
なぜなら超巨大なナイフなので、曲率でいえば日本刀と大差ないからだ。
「確かに、言わんとすることは分かる。『直線は半径無限の円』なんて言われたりすることもあるが……このサイズのカランビットナイフなら、人間サイズに切り出した時にゃほぼ直線になるからな」
鍛冶師も納得してくれたようだ。
これなら、いけるか。
「……けどそれにしても、やっぱりこれで剣を作るのは無理だな。融点もさる事ながら……この素材、ダイヤモンドの百倍くらい硬え。切り出すことすら不可能だ」
と思ったが、今度は別の理由で却下されてしまった。
うーん、そう来たか。流石に「切り出すのも無理」と言われては、別の方法を提案ってわけにもいかないな……。
「他になんか、加工できそうな範疇ですげえ素材とか持ってねえか?」
悩んでいると、鍛冶師の方からそんな質問をされた。
「それは……ちょっと……」
確かに、「ゲリラステージ」の戦利品の中には、他にも剣の素材にできそうなものがたくさんある。
しかし、そんな数多の素材の中からマーシャルヨトゥンのカランビットナイフを選んだことにはちゃんと理由があるのだ。
「この素材で作った剣だと、これと同じく《三日月刃》に威力増強効果が乗るんですよね。ですから、他の素材で剣を新調することはあまり考えてなくて……」
再びディバインアローの剣を見せつつ、俺は理由を説明した。
いくら武器を変えるからって、《三日月刃》を主軸にした戦闘スタイルまでも今更変えるのは嫌だからな。
できれば、この素材をどうにかして武器にしたい。
鍛冶師は理由を聞くと、「うーん……」と唸って考え込みだしてしまった。
しばらくして、彼はこう結論を出す。
「本当に申し訳ねえが、やっぱり俺には、これをどうにかする方法が思いつかねえ。……とはいえ、鍛冶師は人によってちょっとずつ得意分野が違うからよ。いろいろ当たれば、もしかすれば誰か一人くらい、引き受けてくれる人が出るかもな」
……そうなるか。あんまり初見の鍛冶師のところに行くのは気が進まないけどな……。
あ、でもよくよく考えたら、ナーシャがやってたみたいにパニッシャーコインを見せれば初対面の印象で見くびられることはないか。
「無理を言ってすみません。話を聞いてくださってありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ力になれんくてすまん」
挨拶をしてから、カランビットナイフを《ストレージ》に戻す。
そして、この鍛冶屋を後にした。
◇
それから何軒か、俺は王都の鍛冶屋を順繰りに巡ってみた。
しかし……どこへ行っても、芳しい反応は帰ってこなかった。
結局どこへ行っても、「剣にできたら理想なのは分かるが、硬すぎて扱えない」とかそんな反応ばかり。
鍛冶屋で加工してもらうのは、諦めざるを得ないようだった。
失意の中……最終的に俺は、一個の結論にたどり着いた。
まあまあ馬鹿にならないスキルポイントを浪費することになるので、本当はやりたくなかったんだが。
鍛冶系統のスキルとカスタマイズワンド+値を振りまくって、自分でやってみるしかないな。