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第九十七話 国士無双Ⅱ

 ……は?

 選ばれし者? デバッグモード?


 困惑しているうちにも、事態は更に変化した。

 目の前に、ステータスウィンドウのような半透明の画面が出現したのだ。


 そのウィンドウには、16進数が羅列してある、16列の縦にズラーッと続く表が表示されている。


 前世でのゲーム中にも聞いたことのないアナウンスに一瞬ビックリしてしまったが……ウィンドウを見て、俺は思い出した。


 そうだ。確かにこれは、デバッグモードだ。


 デバッグモードというのは、開発時のエラーなどの詳細情報を表示させたり、開発効率を上げるツールがあったりする、開発者向けの機能のこと。

 NSOでも、ベータ版の頃などは、特定の動作を行うことで誰でもこのデバッグモードに入れちゃう仕様になっていた。


 だが正式リリースの時から、NSOの運営は、デバッグモードに入れるアカウントを運営アカウントのみに制限した。

 それ以降は、プレイヤーがデバッグモードでNSOをプレイする手段は皆無となっていた。


 そんなわけで、プレイヤーからするとすっかり馴染みがない存在となってしまったデバッグモードだが……実は一回だけ、これに関して、運営がファン向けに裏設定を公開した事があった。

 それは運営動画配信サイトに投稿した「アップデートのメイキング映像」だったのだが……そこで運営がデバッグモードに入ろうとした時、確かに「<選ばれし者が「開發の書」を閲読しました。デバッグモードを開始します>」というシステム音が流れていたのだ。


 つまるところ「選ばれし者」というのは、運営アカウントのことだ。

 かなりマニアックな情報な上に、まさか自分の身に起こるなど露ほども思っていなかったから、知ってたにも拘らず一瞬面食らっちゃったな。


 なぜ俺が「運営アカウント」扱いなのかはさっぱり分からないが……もしかして、俺が転生者だからだろうか。

 転生者だから運営アカウント扱いというのも、全然理屈が繋がっていないが。

 ……うん。そこは考えるだけ無駄な気がするから、一旦置いておこう。


 肝心のデバッグモードの内容だが……NSOの場合は、デバッグモードに入るとプロセスメモリを自由にいじることができるようになる。

 どういうことかというと、例えば「ドラゴンのHPに関する情報を格納しているアドレスの値を1に変更して、ドラゴンをスライム以下の紙耐久にする」みたいなことができるというわけだ。

 あるいは、スキルの+値に関する情報を格納しているアドレスの値を変更すれば、任意のスキルの+値を255……いやゲームの通常プレイの最高値を越えて999とかに設定することだって可能だ。


 こう聞くと夢のようなモードに思えるが、実は致命的な問題が一つ存在する。

 それは、本来プレイヤーが触れる機能でないため、どうすれば目当ての数値変更ができるのかが分からないということだ。

 スキルの+値をいじろうと思っても、肝心のスキルの+値を表す数値が表のどこにあるのか分からなければ、その値を変更はできない。

 かといって、片っ端から数値をいじって試そうなどとしたら、99・99%、目当ての数値のアドレスを探し当てる前にいじっちゃいけない数値をいじってしまって、最悪深刻なエラーが発生してしまうだろう。


 まかり間違えれば、スキルの+値をいじろうと試行錯誤している間に自分が死んでしまったり、最悪世界そのものが消えてしまったりするリスクがあるわけだ。

 というわけで、デバッグモード、めちゃくちゃ有用な機能に見えて、そのほとんどを活かすことができないというのが実際のところだ。


 じゃあ、この「開發の書」なる本を開いたことに意味はなかったのか。


 と聞かれると……実はそうでもない。


 というのも……俺、実は一個だけ、図らずもいじるべきアドレスとそのいじり方を知ってしまっているのだ。


 このデバッグモード、プレイヤー側もある手段を用いれば、ほとんど似たようなことをすることができる。

 NSOのプログラムが分かるソフトウェア――平たく言えば、チートツールだ。


 もちろんその類のソフトは公式から禁止されているし、俺だってその一線を超える気はさらさら無かったので、自分でチートツールを使ったことは無いのだが。

 過去に一度、俺は前世の知人にチートツールを使うところを見せられてしまった。


 ソイツは「見て見てこれ。面白いだろ?」と何の悪気もなしに言っていたが、俺はその日、身近な人間が大好きなゲームで不正をしていたという事実にショックを受けて寝込んでしまった。

 が……そういう苦い記憶こそ、得てして焼き付いて離れないというものだ。


 それゆえ、俺は当時その知人がやってたプロセスメモリの改竄方法を、不本意ながら完璧に記憶してしまっている。


 前世でなら神に誓ってやらなかった行為だが、今の俺にとって、ここはゲームではなく現実。

「永久不滅の高収入」との戦いだって、もはやスポーツではなく戦争だ。

 守らなければいけない大切な人だっているし、「eスポーツマンシップに則ってこの機能は使わない」などと悠長なことは言っていられない。


 というわけで、その唯一やり方の分かるメモリ改変だけやらせてもらうとしよう。


「えっと……00DF00E1の+Dの値を、5FからBBに変更して……」


 記憶の通り、画面上の数値を変更する。

 するとその直後、俺は自分の力が急激に膨れ上がるのを体感した。


 この変更によって起こる変化は――「《国士無双》と《絶・国士無双》の戦闘能力上昇率10倍、及び他の《国士無双》使用者の無敵状態貫通」だ。


 要は、今まで俺は《国士無双》を発動することで身体能力や魔力が50倍に増えていたが、この変更を施してからはその上昇率が500倍となる。

 そして後者の「他の《国士無双》使用者の無敵状態貫通」というのは、例えば自分以外にノービスがいて、そいつも《国士無双》を発動できたとしても、お互い発動中なら一方的に相手にダメージを与えられるというものだ。


 後者に関しては、件の知人がチートでNPCをむりやり《国士無双》発動状態にして検証していた。

 NSOには、少なくとも俺が生前プレイしていたバージョンまでにおいては、プレイヤー以外にノービスはいなかったからな。


 前者の効果はともかく、後者がこの先役に立つ時が来るのかはさっぱり分からない。

 だがもしかしたら、ゲームで会ったことのないクラスの「永久不滅の高収入」の構成員の中に俺と同じようなノービスがいるかもしれないので、完全に無駄とも言い切れないだろう。


 これ以上、デバッグモードでできることがあるわけでもないので、デバッグモードを終了するとしよう。

 と言っても、終了の仕方を知っているわけではないのだが。


 とりあえず……「開發の書」を棚に戻してみるか。


<デバッグモードを解除しました。選ばれし者の場合、再度「開發の書」を開くことでまたデバッグモードに入れます>


 試しにやってみたら、合っていたようだ。


 もうこの時点で、収穫は大アリだったわけだが、この棚の残りの本も一応全部チェックしてみるか。

 俺はまた一冊ずつ《鑑定》していく作業を再開した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 思ったほど世界壊れなかった
[一言] > 「えっと……00DF00E1の+Dの値を、5FからBBに変更して……」 <この世界は32bitで管理/運営しております>w
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