第九十六話 古代遺跡の中で
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おそるおそるドアを開けてみたものの……特段攻撃とかは飛んでこなかった。
入口付近を見回しながら、何度か《鑑定》を発動してみるも、特に俺を狙う防衛システムは存在しないようだ。
セキュリティ用の魔道具自体は存在するし、経年劣化で壊れているとかいうわけでもない。
その証拠に、ドアを開けていても、対物理結界が即時展開されて海水が一切入ってこないようになっている。
ただ、特段俺が排除対象と見なされていないようだ。
理由は分からないが、まあラッキーと思っておこう。
肝心の、中を見た感じは――。
「……図書館だな」
列を成して並ぶ棚に、本がギッシリと詰まっていた。
とりあえず、室内が毒や瘴気で満たされていたり、触れるとまずい危険な魔道具が置かれているような事態は懸念しなくていいみたいだな。
さて、じゃあ何から見ていこう。
「……まずは禁書コーナーから行くか」
建物に入る際に《絶・国士無双》を発動してしまった以上、無敵状態を活かしてやれる事から先にやっておきたい。
そんな思いから、まず俺はこの図書館の禁書の区画を探すことにした。
風で本が舞わない程度にスピードを抑えながらも、急ぎ足で棚と棚の間を駆け抜けていく。
一番奥まで来たところで、俺は目当てのコーナーにたどり着いた。
「キエェェェェッ!」
この図書館にある、唯一の黒塗りの棚の目の前に来た時……その棚にある一冊の本がコウモリに化け、首筋に噛み付いてきたのだ。
こんな本、禁書以外の何物でもない。
《絶・国士無双》の無敵状態のため特段何も起きなかったが、通常状態で噛まれていたら、ロクなことにならなかっただろう。
一応、どんな本か調べておこう。
「《鑑定》」
首筋のコウモリをひっぺがし、鑑定してみると……こんな文が表示された。
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●不死王の媒介者
古代の秘密結社『パラ・ソウル』が開発した、人をノーライフキングにするウイルスを媒介するコウモリ。
噛まれた人間はノーライフキングになり、人間に憎悪を抱き、破壊と殺人の限りを尽くすようになる。
普段は本に擬態していて、一定以上の力を持つ者や完全に気配を消した人形の物体を感知しない限りは本来のコウモリの姿を見せない
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やはり、ろくでもない代物だった。
というか「本に擬態していて」ってことは、禁書どころか本ですらないので、本来はここに存在しちゃいけないものだ。
《絶・国士無双》発動中にもかかわらず噛みつかれたってことは、おそらく俺は「完全に気配を消した人形の物体」として擬態解除の条件を満たしてしまったのだろう。
「どうするかな、これ……」
一応、総+値底上げのために取得した多数のスキルの中には解呪系統のものもあるのだが、そもそも「不死王の媒介者」は呪いではないので、その系統のスキルでは対処できないだろう。
ウイルス持ちのコウモリである以上は、燃やしてウイルスごと死滅させたいところだが、図書館の中で炎系のスキルなど用いた暁には、さっきまで黙っていた防衛システムが全力で俺を排除しに来てしまうだろう。
何か良い方法はないか。
……あ。
「《ストレージ》」
俺は《ストレージ》から真っ二つになったホルスの死体の上半身を引っ張り出した。
そして、胃だけを切除して取り出し、残りは元に戻す。
俺は胃の中にコウモリを突っ込んだ。
「グエェェェェ……」
一瞬だけ苦しそうな声を上げて、コウモリは絶命した。
やはり、並行世界の7桁級の魔物の消化器官には敵いっこないようだ。
《絶・国士無双》の残り時間も少ないので、とりあえず安全性確認のために暴挙に出てみることに。
「《国士無双切替》」
俺は《国士無双》を通常版に切り替えてから、黒い棚にある本の背表紙を片っ端から撫でていった。
ここまでやって何も反応がないなら、少なくとも「こちらが何もしなくても本側から攻撃してくる危険物」はさっきので終わりということだろう。
あとは、《国士無双》効果時間が終了してから一冊ずつ鑑定していっても、安全性の問題は無い。
ここの図書館の棚は随分と頑丈なようで、《国士無双》の切り替えによって多少余波が出ても、特に本が散らばったりはしないで済んでくれた。
禁書を一冊ずつ棚に戻していくのはあまりやりたくないので、正直ありがたい。
などと考えている内にも、《国士無双》の効果時間が終了した。
じゃ、ここからはひたすら《鑑定》でもしていくか。
「《鑑定》……《鑑定》」
一冊ずつ、端の本から順に調べていく。
流石は禁書のコーナーというだけあって、そのほとんど……というか調べた本は片っ端から、開くだけで呪いがかかる類のものばかりだった。
このコーナーには、開いてみる価値のある本は無さそうか。
――と、思ったのだが。
だいぶ「どうせ全部呪いの本なんだろうなー」という気持ちになりかけていた時のこと。
棚の真ん中あたりで、とうとう呪いギミックが無い本に遭遇した。
いや、正確には、触るだけでかかる呪いはあるにはあるのだが。
その呪いの発動条件が特殊で、「成人済みのノービス以外の者が本書を開いた場合のみ呪いが発動する」となっているのだ。
つまり俺は、例外ということになる。
「むしろ呪いがかかってないより余計気になるな……」
こんな呪いが付与されているということは、裏を返せば「成人済みのノービスだけにこの本を手にとってほしい」という制作者の意図がある可能性が大いにある。
その意味において、この本が俺にとって有用である確率は、他の禁書に比べて遥かに高いのだ。
「……開いてみるか。《絶・国士無双》」
俺はその本を手にとってみることにした。
とはいえ、実はこの呪いの発動条件は制作者の意地悪で、実は「成人済みのノービスが開いた場合、呪い以外の悪いことが起きる」みたいな恐れもなくはないので、念の為二回目の無敵状態には入っておく。
本を開いてみると……中はどのページも完全に白紙だった。
炙り出しとか、何か文字が出てくる特殊条件でもあるのだろうか?
――などと考えた矢先のこと。
<選ばれし者が「開發の書」を閲読しました。デバッグモードを開始します>
俺の脳内に、思ってもみなかった脳内アナウンスが流れた。