第九十五話 謎の古代遺跡
ジーナが捌いてくれた刺身は非常に美味く、俺は浮遊移動魔道具が屋敷に着陸するまでずっと食べ続けていた。
それでもテトロードは巨大な魚のため、まだ身が残ったので、それらについては《ストレージ》に収納しておいた。
こっちの世界では、もう刺身を食べる機会なんてないと思っていたんだがな。
こんな身近に似通った文化を持つ人がいるなんて、実に最高だ。
満足して、その日はぐっすり寝た。
そして、次の日。
俺はまた海に向かうために、浮遊移動魔道具魔道具に乗った。
昨日で一旦見学は満足したらしく、今日は俺一人で行くことに。
「いってらっしゃい、ジェイドさん!」
「はい」
ジーナに見送られる中、魔道具のハッチを閉める。
さて、これからやろうと思っていることだが……実は今日は、「ゲリラステージ」狩りとはちょっと別のことをしようと思っている。
というのも、昨日最初の「ゲリラステージ」戦を終え、キングリヴァイアサンの魔石を回収した時のこと。
俺は少し、不思議な光景を目にした。
おぼろげではあったのだが、海底に建物があった――そんな風に見えたのだ。
といっても、遠くの景色として一瞬それっぽいのが見えた気がしただけで、その後すぐにキングリヴァイアサンの魔石が見つかって海から上がったので、見間違いの可能性も大いにあるのだが。
気になるのは気になるので、一度真相を確かめておきたいのだ。
そんなわけで、向かう先は、昨日リヴァイアサン系三体の魔物と交戦した地点だ。
この浮遊移動魔道具は、航行の履歴が保存されるようになっていて……履歴の地点を選択すると、自動でその場に向かってくれる機能が付いている。
「えっと……この一個前の座標がリアースのギルド近くの空き地っぽいから、これだな」
履歴を選択すると、浮遊移動魔道具が離陸しだした。
あとは浮遊移動魔道具が再び静止するまで待つだけだ。
◇
「《結界》」
浮遊移動魔道具が静止すると、俺は足場を作って外に出た。
「《ストレージ》」
海中探索の時には必要ないので、一旦浮遊移動魔道具を収納する。
「《飛行》」
それから俺は、海中移動のためにスキルを発動し、潜水を開始した。
しばらくゆるゆると泳ぎ続けながら、360度ぐるぐる見渡す。
が――。
「ぷはあっ!」
目当ての物が見つかるより前に息が切れてしまったので、一旦俺は水面に上がった。
うーん。この探索、長時間潜水することになりそうだし……今のままだとちょっと面倒だな。
「スキルコード1972 《エラ呼吸》取得」
俺は海中でも呼吸できるようになるためのスキルを取得することにした。
このスキルは文字通り、水中に入るとエラが出現し、呼吸ができるようになるものだ。
これで少しは探索の効率がマシになるだろう。
再び海に潜ると、頬のあたりが少しザワザワする感触がした。
1秒ほどでそれは収まり、途端に息が楽になるのを感じる。
こりゃいいや。
スキルの使い勝手に満足しつつ、俺は探索を再開した。
兆しを見つけたのは、それから7分くらい経った時だった。
海底から1メートルくらいの高さを保ちながら泳ぎ続けていると……一瞬、城のようなシルエットが見えたのだ。
かなり距離があるのか、親指の爪くらいのサイズに見えたし、海水も多少濁っているためすぐにぼやけてしまったが……確かに何か見えた気がした。
方角は分かったので、近づいてみよう。
すると……その判断は正解で、だんだんと城のシルエットがはっきりしてきた。
十分ほど泳ぐと、俺はその建物のすぐそばに到着した。
見た感じはまさに、廃墟といった感じだ。
おそらく、数千年前とかに建てられた城が、地盤沈下か海面上昇などの何らかの自然現象で、こんな場所に至ったのだろう。
要は、古代遺跡ってわけだ。
早速入ってみたいところだが、正体不明の城なんてどんな危険があるか分からない。
侵入者に呪いをかけるギミックがあったり、番人用魔道具がまだ稼働中だったりする可能性も考えられるわけだ。
というわけで、入る前にアレをやっておくのが吉だろう。
「スキルコード1234 《鑑定》強化×245」
まず俺は、この城を鑑定する前に、《鑑定》スキルをフル強化した。
《鑑定》は基本、+10もあれば十分実用的なのだが……古代の魔法の中には《鑑定》を欺く強力な魔法があり、フル強化でないと嘘の文を表示させられる恐れがあるからだ。
スキルポイントは2331200も消費するが、下手すればたった一回の「ゲリラステージ」で稼げるポイント、命のためなら全く惜しくもない。
ちなみに《エラ呼吸》のスキルには、水中でも喋れるようになるという副次的な効果もあるため、こうしたスキルコードの詠唱などは問題なくできる。
「《鑑定》」
強化したてのスキルを使ってみると……こんな文章が表示された。
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●古代の叡智の集積場
研究所、図書館、博物館等が併設された古代の施設。
有用度:高
危険度:高
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簡素だが、十分な情報は得ることができた。
とりあえず、「扉に触れるだけで呪詛が発動する」的な理不尽ギミックではない、と。
しかし、危険もそれなりにある感じか。
まあ、それはそうだろう。
重要な施設なら、セキュリティはしっかりしてるだろうしな。
研究所には、機械が一つでも壊れていれば、毒や瘴気が充満していてもおかしくはない。
博物館には、危険な魔道具が展示されている可能性もある。
図書館だって、開くだけで呪いにかかる禁書なんて当たり前のようにあるので、本だからと安心してはいけない。
だが大事なのは、闇雲に危険なだけではなく、リスクに応じたプレミアムがありそうだということだ。
見た感じ、ドアが何箇所かあるタイプの建物なので、「どれかが研究所に繋がってて、他のどれかが図書館に……」的な作りになっているのだろう。
とりあえず、目の前のドアから開けてみるか。
「《絶・国士無双》」
開けた瞬間防衛システムに攻撃されでもしたら嫌なので、一応無敵状態に入っておく。
それから俺は、ドアを開けて中に入った。