第九十三話 クラゲの大群
「《ストレージ》《飛行》」
俺はドラゴニックメデューサの死体を収納すると、《飛行》スキルを用いて少し場所を離れた。
今回は、ヒュドラの死体は回収しない。
なぜなら、ヒュドラの死体は既に全身が毒に侵され、グチャグチャになりかけていたからだ。
素材としては使えないと思い、放置することにした。
ヒュドラの毒は強力だが、海水に触れている状態だと、1時間ほどで無毒な物質に分解される。
そのため、海洋汚染などは特に懸念しなくて大丈夫だ。
そして移動するのは、より多くの魔物がいる場所に移るためだ。
並行世界の魔物は基本的に持ち場を離れないタイプが多いので、さっきの場所で再度「ゲリラステージ」を起動しても、ホルスしかいない可能性が高い。
7桁級とはいえ、1体しか魔物がいないと分かっているところで《国士無双》を発動するのはもったいないので、場所を変えた方がマシだろうという判断になったわけだ。
さっきは勝てなかったとはいえ、「崩壊粒子砲」を使ってれば余裕で倒せる相手ではあったので、そこまでやり返したいわけじゃないしな。
リベンジは、もしまた万が一再会したら、くらいに考えておいていいだろう。
「《国士無双》」
そんなことを考えつつ、無双結晶に溜まったゲージを消費して《国士無双》を発動し、「ゲリラステージ」も起動する。
すると……移動したのが大正解だったことが判明した。
「おお……数すげえ……」
眼下に出現したのは、象くらいのサイズの大型クラゲの群れ。
「ノビチョクゼリー」という、並行世界にしか存在しない毒クラゲの大群だ。
「ノビチョクゼリー」は、音速で触手を動かせる上に、触手からノビチョクという強力な神経毒を注入してくる超害悪な魔物。
しかし同時に、防御力はスレイプニールにも劣るくらいの、ステータスを攻撃に極振りしたような魔物でもある。
つまり、俺にとっては好都合な相手だ。
《国士無双》発動中は無敵なので、俺はただ紙耐久な敵を無リスクで倒せばいいだけだからな。
一体あたりのスキルポイントは20万と、「ゲリラステージ」の魔物にしては低めだが、こうも群れてると手に入るスキルポイントはウハウハだ。
ノビチョクは経皮吸収の性質を持つため、身体に付着してるだけで死に至る厄介な毒だが、《国士無双》の効果時間中に《クリーン》で消し去っておけばどうということはない。
一応、「属性変化領域」は発動し、属性有利も取っておく。
それから俺は、敵の数だけ《断聖の刃》を放ち、全滅させた。
一匹一発、二十回斬撃を放ったので、倒したノビチョクゼリーの数は二十匹。
「ステータスオープン」
確認すると、確かにスキルポイントは4000000増えていた。
素晴らしい豊作だ。
「《クリーン》」
浄化魔法を自分にかけ、「ゲリラステージ」をオフにしてから十秒ほど経ったところで、《国士無双》の効果時間が終了した。
ノビチョクゼリーもテトロードと同じく、死んだら毒性を失う魔物なので、今から海に入っても問題ない。
傘が真っ二つに切られて、中の魔石が出てきて海中を漂っていたので、俺は《飛行》スキルでそれらを回収した。
それじゃ、次の「ゲリラステージ」戦を……といきたいどころだが、2回分とも無双ゲージを使い切ってしまったので、まずはゲージを貯め直さないとな。
「何か手頃な魔物いないかな……」
さっきのテトロードのとこまで帰るのも面倒だし、ここらでゲージ貯め直しに手頃な魔物がいないかと思い、しばらく海の中を散策する。
すると、ちょうどいい魔物が見つかった。
レディオアクティブアングラーという、高出力の放射線を放ってくるアンコウの魔物だ。
ちょうど俺はシャイニング・グリムリーパー対策で耐放射線結界を取得しているため、その結界を張っておけば、俺は自動的にゲージを満タンまで貯めることができる。
挑発系のスキルで威嚇して追いかけさせ、海の上まで来ると、俺は足場兼放射線カットのため《結界》を張った。
服が濡れてしまったので、再び《クリーン》を発動し、乾かす。
アンコウの方は怒りに任せて放射線を放ちまくってきているので、あとは時間とともに自動でゲージが満タンになるだろう。
……さて、と。
問題は、その待ち時間が暇なことだ。
何して待とうか。
「そうだなあ……んじゃ、アレやっとくか」
俺はこの時間を使って、スキルポイントで自分を強化することに決めた。
せっかくカスタマイズワンドを手に入れた以上はそれも活かしてみたいし、場合によっては7桁級の魔物を「崩壊粒子砲」ナシで瞬殺できるようにもなるかもしれないからな。
「ゲリラステージ」の魔物を狩るためにスキルポイントを消費するんじゃ本末転倒な気もしなくはないが、まあ半日で貯めたスキルポイントくらいいくらでも貯め直せるので、ちょっとくらいいいだろう。
現在のスキルポイントは、7134860。
まずは……普通にスキルを+値強化する方からやるとしよう。
「スキルコード2536 《三日月刃》強化×235」
手始めに、俺は《断聖の刃》のベースである《三日月刃》をフル強化した。
最大+値はスキルの種類にもよるのだが、《三日月刃》の場合、+値は最大で255だ。
《断聖の刃》取得のための強化と、古来人参の影響で既に+値が20あったので、残りの235を上げた。
消費スキルポイントは、1504000。
還元分を合わせて、残りスキルポイントは6382860だ。
……一つスキルをフル強化したというのに、そこまでポイントが減った感じがしないな。
恐るべし、「ゲリラステージ」の収穫量。
この分なら、カスタマイズワンドの方にも遠慮なくスキルポイントをぶっ込めるな。
「《ストレージ》」
俺は収納魔法でカスタマイズワンドを取り出した。
じゃ、早速強化だ。
「《三日月刃》――威力強化、S」
杖に向かい、俺はそう口にする。
すると……一瞬、杖が七色に光った。
杖の発光こそが、スキル強化に成功した証拠。
強化の内容は、次のような感じだ。
まず、「威力強化」というのは、その名の通り技の威力を強化するということ。
《三日月刃》の強化項目には他に「消費MP減少」や「速度強化」などもあるのだが、戦闘中にMPが気になることなんてほぼ無いし、どうせ《Xの眼》を使えば多少射出速度が遅くても当たるので、一番戦況に直結する威力から強化したって感じだ。
そして「S」というのは、強化の度合いのこと。
カスタマイズワンドによる強化は、ほとんどのスキルにおいてDからSの5段階に分かれている。
それぞれどのくらいの強化にあたるかというと、Dで+15相当、Cで+35相当、Bで+60相当、Aで+90相当、Sで+125相当といった感じだ。
消費スキルポイントで言えば、Dは3000、Cは10000、Bは20000、Aは100000、Sは250000となる。
よりランクの高い強化になるにつれて+1相当あたりの消費スキルポイントは割高になってしまうのだが、普通のスキル強化だと200台の場合250000ポイントじゃ+30も強化できないので、それを思えばSすらだいぶ割安だ。
じゃ、次。
「《断聖の刃》――特攻倍率、S」
今度は、アップグレードの《断聖の刃》の方を強化した。
《断聖の刃》は、《三日月刃》が聖属性に対してダメージ2倍になり、0.3秒の痺れ効果も付随するアップグレードだが、「特攻倍率」の強化は文字通り、ダメージ倍率を2倍より更に高くすることを意味する。
これも5段階あり、Dでは3倍、Cでは4倍、Bでは5倍、Aでは6倍、Sでは7倍にダメージ倍率が引き上げられる。
未強化の《断聖の刃》と特攻倍率Sの《断聖の刃》では、もはや別物といってもいいくらいの差があるのだ。
こちらもSだと250000ポイント消費するが、そんなのぜんぜん安いもんだな。
これでカスタマイズワンドにかけたスキルポイントは合計500000。
還元分と合わせて、現在のスキルポイントは6132860だ。
まだまだスキルポイントは有り余ってるし、もっといろいろ強化してもいいところだが……今の間に、無双ゲージが結晶分も合わせて両方満タンになったようだ。
一旦、戦いに戻るとしよう。
「《断聖の刃》」
レディオアクティブアングラーに斬撃を放ち、一撃で仕留めた。
ちなみに今の斬撃はディバインアローの剣から放ったが、カスタマイズワンドの効果は持ってるだけで発揮されるので、これでも強化込みのダメージが入る。
今後は二刀流みたいな戦い方になりそうだ。
もっとも、カスタマイズワンドの方はただ持ってるだけだが。
「《ストレージ》」
一応、レディオアクティブアングラーの死体も回収しておく。
「ステータスオープン。変更点確認」
確認するほどもいろんな項目を強化してはいないが、一応見ておくことにした。
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MP:552766/552766→611516/611516
スキルポイント:7134860→6132860
【スキル】
三日月刃+20(断聖の刃)→三日月刃+255(断聖の刃)
【装備】
カスタマイズワンド→カスタマイズワンド(三日月刃威力強化S、断聖の刃特攻倍率S)
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うん。MPの増加分くらいしか確認することはないな。
すぐさまステータスウィンドウを閉じると、また俺は《飛行》スキルで少し場所を変えた。
せっかくスキルを強化した以上は、その成果も見てみたいし。
できれば今度は、1体くらい7桁級がいてくれ。