第九十話 ゲリラステージ試運転
兄を気絶させてからは特に何事もなく、俺たち三人は高級料理をたらふく食い上げた。
お会計の時、料金の2倍を払おうとすると全力で遠慮されたが、「身内のいざこざに巻き込んでしまって申し訳ないので」と言ってなんとか受け取ってもらった。
それを聞いていたナーシャは、「あれお兄さんだったの……? あんなことして大丈夫だったかしら……」と心配したが、「やり過ぎだと思ったら《国士無双》と《ヒール》で治療してます。そう言う処置をしないってことは、そういうことです」と言うと安心してくれた。
そして、次の日。
今日はいよいよ、「ゲリラステージ」での魔物狩りだ。
まずはリア―スのギルドの大型素材買い取り場に寄る。
船の清掃が終わっていたので、受け取ってきた。
依頼を受けるわけではない以上、「ゲリラステージ」狩りに関してギルドに話すことは何もないので、今日のギルドでの用事はこれで終わり。
浮遊移動魔道具に戻ると、俺たちはひたすら沖を目指した。
それから約三十分後。
「……そろそろいいか」
十分陸からの距離を取れたと判断した俺は、浮遊移動魔道具を減速させた。
と同時に高度も下げ、海面から十メートルあたりのところで静止する。
「《結界》」
足場を作ってからハッチを開け、外に出た。
「ナーシャさん、浮遊移動魔道具を運転して、基地を破壊した時と同じかそれ以上距離を取ってください。ジーナさん、まず間違いなく大丈夫なはずですが、少しでも身の危険を感じたら『クラウドストレージ』に逃げてください」
「はい!」
「了解よ」
二人に注意事項を伝えてから、ドアを閉める。
浮遊移動魔道具はみるみる遠くへ離れていった。
「《ストレージ》」
《サーチ》の反応を見て、十分な距離になったと思ったところで……いよいよ「ゲリラステージ」を取り出す。
「《国士無双》」
戦闘モードに入ってから、魔道具を起動させた。
一瞬視界が歪んだかと思うと……直後、目の前には大小3体の竜が出現した。
ちゃんと魔道具が作動して、並行世界と繋がれたみたいだな。
あのフォルムは……レッサーリヴァイアサン、リヴァイアサン、そしてキングリヴァイアサンか。
なんかリヴァイアサン系だらけの海域にきちゃったみたいだぞ。
まあ、敵の種類なんてなんでも良いんだが。
どうせ「属性変化領域」で猫も杓子も聖属性にしてしまうんだし。
とはいえ、これは初戦だ。
まずはキングリヴァイアサンを、「属性変化領域」は使わずに「崩壊粒子砲」で攻撃してみよう。
キングリヴァイアサンは、「ゲリラステージ」の敵でも上位の強さを持つ水属性の敵。
そして、非聖属性の魔物Aを討伐できるということは、聖属性なら魔物Aの十数倍の強さの魔物を倒せることを意味する。
「ゲリラステージ」にはキングリヴァイアサンの十数倍もの強さの敵などいないので、コイツを水属性のまま倒せれば、俺は「ゲリラステージ」のあらゆる敵を倒せるということになる。
今回は、それを確かめる実験をしようというわけだ。
「崩壊粒子砲」への力の充填が完了すると、キングリヴァイアサンに向けて発砲。
その瞬間、俺の視界が白く染まった。
減速しつつ、「ゲリラステージ」を解除する。
完全に止まった時、近くには浮遊移動魔道具があった。
奇遇というか、基地を破壊した時のデジャブだな。
そこまで計算して射出角度を調整しているわけではないのだが。
せっかくなので一旦浮遊移動魔道具中に入ると……ジーナは眼下の光景に目が釘付けになっていた。
「な、ななな何なんですかさっきの爆発は……! 太陽をもう一個作ったわけじゃないですよね?」
「いやいや、そんな大げさな」
流石にそんなことはできない、というかできてもやらないぞ。
こんなところに太陽を作ったらこの惑星が滅びるだろ。
心の中でツッコミを入れていると、次第に視界が晴れ、海の様子が見えるようになってきた。
「崩壊粒子砲」を発砲した付近では、巨大な渦巻きが発生していた。
「ここからでもあんなに大きく見える渦巻きって……。一体どれだけの海水を干上がらせたらあんな光景ができるのよ……」
ナーシャは呆れたようにそう呟く。
「私、知りませんでした。ジェイドさんって、あんな大自然の神みたいなことをやってたんですね……!」
……あのさ、ジーナ。言い方よ。
「毎回じゃないですけどね。こういうのは、敵がどうしようもないくらい強力なケースだけです」
一応俺は、「崩壊粒子砲」の使い時についてそう補足しておいた。
ま、こんなことを言いつつも、もしかしたら今後は使わないかもしれないけどな。
「属性変化領域」を使った場合において敵を「崩壊粒子砲」ナシで倒せたら、そっちに戦法を切り替えるだろうし。
ともかく、一旦スキルポイントを確認するか。
「《ステータスオープン》」
スキルポイントの項目を見ると、スキルポイントは「1934860」となっていた。
あれ、150万も増えてるな。
確かキングリヴァイアサンの討伐スキルポイントって、120万のはずだったんだが……もしかして、レッサーリヴァイアサンあたりが巻き添えで死んだんだろうか。
よく考えてみれば、キングリヴァイアサンを狙った時、レッサーリヴァイアサンも射線からそう外れてない位置にいた気がする。
まあ、結果オーライだな。
レッサーリヴァイアサンはともかく、キングリヴァイアサンの方の原型を留めているだろうし、海の荒れがある程度収まったら回収しにいくか。
◇
30分くらい経って、海が静まってくると、俺たちは浮遊移動魔道具で戦闘した地点に向かった。
うん。やっぱり、「崩壊粒子砲」を撃った場合素材回収に待ち時間が発生することとか考えたら、可能な限りそれ以外の手段で倒すようにした方がいいな。
などと思いつつ、浮遊移動魔道具のハッチを開けて外に出る。
そして《飛行》スキルを発動し、海の中を探索し始めた。
これもまた、古来人参を食べる前に取得しまくったスキルのうちの一つだ。
《飛行》の利点は、海中でも通用するのでこれを使えばスイスイ泳げること。
服は濡れるが、それに関しては後で《クリーン》を使えば綺麗に乾燥するので問題ない。
しばらく海の中を彷徨っていると、岩のようにデカい輝く石が目に入った。
《鑑定》すると、確かにキングリヴァイアサンの魔石と表示された。
「見つけた」
それを抱え、俺は海を出ようとした。
が……そんな時、ふと《サーチ》に、後ろから追いかけてくる魔物の反応が映る。
振り返ってみると……体中がハリネズミのように尖った、体長2メートルほどあるフグの魔物が目に入った。
ちょうどいい。次の「ゲリラステージ」戦に入る前に、奴を使って無双ゲージを再充填するとしよう。




