第八十五話 これからの計画
★ちょっとしたお願い
今後、スキル名につける括弧を通常の「」から《》に変更させていただきたいと思います。
理由は書籍版の表記に合わせることで少しでも刊行作業の負担を減らしたいからです。
私事で恐縮ですが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
ジーナにボーナスを渡したあとは、三人でナーシャの宿直の部屋を決めた。
それから俺は、王都の冒険者ギルドに顔を出しに行ってみた。
依頼を受けるためではなく、「永久不滅の高収入」関連の怪しい動きの片鱗がないかをチェックしにいくのが目的だったが、依頼掲示板を見ても受付で話を聞いてもこれといった情報は掴めなかった。
何も無いなら無いで平和でいいやとか思いつつ、屋敷に戻る。
屋敷では、ジーナが夕飯の支度をして待ってくれていた。
「わざわざすいません。彫刻とか、自分のやりたいことを優先してくださってても良かったのに……」
「いえいえ。ちょっとテンションが上がっちゃって」
テンションと夕飯の準備をしたことになんの関係があるのかは定かでないが、せっかく作ってくれた以上はありがたくいただくとしよう。
「ナーシャさんもどうぞ!」
「い、いいの? 護衛の私にまで……」
なるほど、ナーシャの歓迎会的なテンションか。
「「「いただきます」」」
合図して、俺たちは夕飯を食べ始めた。
前にも食べたことのあるメニューだったが、心なしか前より俺の好みの味付けに近づいている気がする。
「確かジーナさん、あなただったわよね? この間の任務の時、みんなの分のご飯を作ってくれたの」
「え、ええ。美味しかったですか?」
「もちろんよ。あの時の弁当も、今日のこのご飯も。ジェイド君の特殊なスキルのおかげもあるけど、任務中にあんな美味しい食事にありつけるなんて思わなかったわ……」
俺が食べ進めている間、二人はそんな話で盛り上がっていた。
「それだけじゃなく、俺たち、ジーナさんのお弁当のおかげで命拾いもしてたんですよ。毒入りのご飯が支給されるのを阻止することができて……」
二人の話を聞いて、俺はリドルに薬を盛られそうだったことを思い出し、そのお礼も言うことにした。
「そ、そうだったんですか?」
「え、ええ……それもそうよ……」
ジーナが驚く中、ナーシャは少しテンションを落とした感じで返事をする。
あ……まだこの話題は触れないほうが良かったか。
表向きは平気そうでも、まだリドルの裏切りから完全に立ち直ってるわけじゃないだろうし……。
と思ったが、俺が心配そうにしているのを察したのか、ナーシャは気を取り直し、話題を変えてきた。
「ところで……ジェイド君は今度どうしていくつもりなの?」
今後、か。
手がかりさえあれば、引き続き「永久不滅の高収入」を追っていきたいところではあるが……特に奴らが絡んでそうな案件も見つかってないしな。
しばらくはスキルポイント溜めに専念するか。
「とりあえずまた、さらに強くなろうかと」
「まだ強くなる余地があるのね……」
しかし問題は、具体的に今後何をやるかだ。
エルシュタットはやり尽くしたので、正直何か別のことをやりたいが……かといって、今の俺に聖属性狩り以上に効率的なスキルポイント収集方法があるかと言えば。
などと悩んでいると、ナーシャが懐から一枚の紙を差し出した。
「良かったら、地図でも見る?」
その紙は、国内全体を表した地図だった。
目を通すと、王都の隣に「リア―ス」という、海に面した街があることが分かった。
その街を目にした俺の脳裏に、ある案がよぎる。
――「ゲリラステージ」での魔物討伐だ。
俺は《ストレージ》から売ってなかったファントムコアを一個と筆記用具を取り出し、魔法陣を一つ描いた。
そして魔法陣の絵とファントムコアをジーナに渡す。
「これは?」
「『ゲリラステージ』という魔道具です。この世界を、強力だが得られる経験値の多い魔物がいる並行世界と一時的に接続し、並行世界の魔物を討伐することができます」
不思議そうな表情を浮かべる二人に、俺はそう説明をした。
ちなみに「経験値」などと言ってはいるが、これは単にノービスでない二人向けに一般的な用語を使っただけであり、俺が集めるのはもちろんスキルポイントである。
「リア―ス……というかその先にある海に行って、この魔道具を使おうかと」
そう続け、俺はナーシャに地図を返した。
「な、なんか恐ろしい響きの魔道具ね……。でもなんで海でそれを?」
地図をしまいつつ、ナーシャはそんな疑問を口にする。
もちろん、それにも明確な理由がある。
「『ゲリラステージ』の魔物は、今の俺の実力では、『崩壊粒子砲』でも使わない限り倒せませんから。遠洋でもなければとても発動する気になれませんね」
そう。余波で周囲がめちゃくちゃになるのを防ぐためだ。
防ぐというか、人里に影響のないところで使おうというわけだが。
「『崩壊粒子砲』って、あの基地を爆破した一撃のことよね!? そ、そんな危険な魔物を呼び出すの!?」
「ああ、流石にアレを使えばオーバーキルですよ。アレと通常攻撃の中間くらいの攻撃手段を持ってないから使わざるを得ないだけで」
「崩壊粒子砲」の名前を出すとナーシャが思ったよりビックリしてしまったので、慌てて俺はそう弁明した。
いくら何でも、流石に素体より強いってわけじゃない。
素のホーリードラゴンよりは強いが、それでも「崩壊粒子砲」をくらえば、良くて魔石くらいしか残らないだろう。
それに並行世界の魔物は「ゲリラステージ」のスイッチを切ればこの世界から消える(※倒して入手した魔石は残る)ので、向こうの世界の魔物がなだれ込んで暴れる心配もない。
「そういう問題じゃない気が……。というか、何もそこまでしなくても……」
「でも、それに見合った価値はあるんですよ」
もちろん、わざわざそんな強敵を呼び寄せようとしているのは、得られるスキルポイントも莫大だからだ。
下でも一体あたりウン十万ポイントとか行くし、場合によっては7桁を超えてくることさえある。
「うん、ごめん。ジェイド君の考えを常識に照らし合わせようとした私が間違ってたわ」
おい、それはどういう意味だ。
「どんな戦闘になるかちょっと興味あるけど、流石に見せてもらうってわけにはいかなさそうね……」
かと思うと……今度はナーシャはそんなことを言い始めた。
戦いの見学、か。
並行世界の魔物は「ゲリラステージ」の効果範囲外には出てこないので、ある程度距離を保って見る分には安全だと思うが。
「もし見たかったら遠くから見ては?」
興味があるならと思い、俺はそんな提案をしてみることに。
「いや、私の身の心配じゃなくて。護衛業務をおろそかにするわけにはいかないから、ここを離れられないって話よ。というか本気で言ったわけじゃないから、気にしなくていいわ」
なるほど、そっちか。
と思っていたら……今度はジーナがこんなことを言い出した。
「あの……だったら、せっかくなので私も行くのはどうでしょう? なんだかんだで私、護衛依頼のときくらいしかジェイドさんの冒険者活動に同行してないですし……ちょっと興味はあったんです」
真剣な眼差しで、ジーナはそう口にする。
「もちろん、邪魔だったら無理にとは言いません。でもそうじゃないなら、一回くらい見てみたいというか……」
彼女はさらにそう続けた。
……ジーナ、そんなこと考えてたのか。
確かに、昔なら例えばエルシュタットの洞窟に連れていくなんて考えられなかったが……望むなら、今となってはやりようがある。
「現地に連れていくだけならできますよ。ただ肝心の戦闘中は、『クラウドストレージ』内に退避してもらう必要があるかもしれませんが」
俺はそんな折衷案を出した。
そう。「クラウドストレージ」がある今となっては、俺の活動に同行しても特に危険はない。
ナーシャが護衛についてるとなれば尚更だろう。
「ゲリラステージ」の効果範囲内に入りさえしなければ、ナーシャに探知や討伐ができない魔物なんてまず現れないだろうしな。
「それでもいいです!」
すると、その案でいくことが決定した。
まあ「ゲリラステージ」戦を見るといったって、せいぜい「崩壊粒子砲」の砲撃の余波くらいしか見えないだろうが。
満足してくれるならそれでいいか。
今月28日に、本作の2巻が発売となります!
それに伴い、本日から発売日まで毎日更新いたします。
その後も1〜2週間は出来る限り頻度高めで行けたらなと考えております。
書籍版2巻では、ナーシャのキャラデザも付いたりしてるので是非お買い求めください!