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第八十二話 王宮の宝物庫

 ギルドを出て時刻を確認すると、まだ昼前だった。

 時間があるので、俺はジーナと王都に行って、宝物庫見学と屋敷の紹介をすることに決めた。


 宿に戻ると、部屋の荷物などを全て収納し、チェックアウトする。

 そして外に出ると、「ストレージ」から浮遊移動魔道具を取り出した


「な……何ですかこれ?」


「浮遊移動魔道具という、超高速飛行ができる魔道具です。先日の調査依頼をこなしている時に、『永久不滅の高収入』の基地から見つけたので持って帰りました」


「へぇ〜。私もこんなの作れるようになるんですかね?」


「いやこれは……製造プロセスが結構非人道的なので、あんまりやるもんじゃないかと。まあ既に作られちゃった分は使うんですけど」


 この魔道具、製造プロセスに古代魔術を含むからな。

 作ろうと思ったら、儀式を行い古代魔法適性を得る必要が出てくるのだ。

 分解したところで儀式の際の生贄の命が戻ってくる訳でもないので、既製品に関しては遠慮なく使わせてもらうが……自分で一から作るということは絶対にしないな。


 などと考えつつ、ハッチを開けてジーナに乗るよう促す。

 そして俺も乗り込み、ハッチを閉めて魔道具を起動した。


「うわ……凄い速さですね。眼下の景色がみるみる変わります」


「便利でしょう?」


 などと会話しつつ、30分ほどが経つと、王都が見えてきた。

 昨日幻諜が着陸したのと同じ空き地を見つけると、俺も機体をそこに降ろす。


「着きました」


「もう王都に……早いですね! まずはどこに行くんですか?」


「とりあえず王宮に用事があるんで、まずはそれから」


「昨日言ってた宝物庫見学のことですね」


「それです」


 浮遊移動魔道具を収納すると、王宮の入り口へと歩いていく。

 衛兵が俺の顔を覚えてくれていただけでなく、俺が来たら宝物庫へと案内するよう言いつけられていたようで……俺たちは半ば顔パスみたいな感じで王宮に入ることができた。



 ◇



 宝物庫の手前にて……俺たちは偶然、国王と鉢合わせた。


「おお、ちょうどいいところに来たのう」


「偶然ですね、陛下」


「お主がどんな基準で宝物を選ぶのかには興味があったからな。できれば見てみたいと思っておったのじゃ。差し支えなければ立ち会ってもよいかのう?」


 そしてそのまま、宝物庫見学は国王立ち合いのもととなることになった。


「へ……この方が陛下!?」


「そうですよ」


「ほっほ、そんなに緊張せんでも肩の力を抜いてええぞ」


 目の前に急に国王が現れたことで、ジーナはガチガチになってしまったが……そんな様子を見て、国王は朗らかに笑いかけた。

 お陰でジーナも、少しはリラックスできるようになった。


 そんな中、衛兵が鍵を開け、俺たちは中に入れるようになる。

 そこから、俺の掘り出し物探しの旅が始まった。



 ◇



 宝物庫内を一通り見て回った結果……俺は二つの目ぼしい宝物を発見することができた。

 そのうちの一つ、より欲しい度合の高い宝物の前で立ち止まると、俺はその宝物を手に取り眺め始めた。


「ま……まさかそれを選ぶのか?」


 そんな俺に、国王は困惑した表情でそう聞いてくる。


「はい」


「本当に噂通りじゃな……一体何に使えるのかさっぱり分からんが」


「まあ、簡単に言うと……物を運ぶのが簡単になりますね」


 国王向けに、俺はざっくりと手に取った宝物の効能を説明した。

 ま、これに関しては……一般的に価値が見出されていないのは、割と自然なことだな。


 というのもこれ、ノービス固有のスキルである「ストレージ」がないと、意味をなさないのだ。


 この宝物の名前は「クラウドストレージ」。

 文字通り、自分の「ストレージ」をクラウド化し、他人と共有できるようにするものだ。


 この宝物に自分の「ストレージ」を登録しておけば、この魔道具を介し、他人が物を入れることができるようになる。

 また、「ピアツーピアストレージ共有」のアップグレードを取得している者であれば、自分のストレージにあるものをこの宝物に「転送」することもできる。

 入れるのに関しては自由だが、取り出すのに関しては「ストレージ」の持ち主が「転送」したものに限りこの宝物から取り出せる。

 これはそんなことを可能にする魔道具だ。


 これがあれば……冒険中に急に事前準備していない魔道具が必要となった時、メモ書きと魔石を「転送」し、屋敷のジーナから完成品を受け取る、といったことが可能になる。

 臨機応変な対応の可能性が広がるわけだ。


 ノービスとしては、ぜひ貰っておきたい宝物の一つだな。


「これ、頂いていいですか」


「おう、こんなもので良いならいくらでもいいぞ。……遠慮しているとかいうわけではないんだろな?」


「いえ、本当に欲しいものです」


「そうか。……他にはなにか欲しいものはあるか?」


 国王に貰っていいか許可を取ると、あっさり許可は貰えたのだが……それに続いてシレっととんでもない発言が出てきた。

「他にはなにか欲しいものはあるか」って……もう一個もらっていいのか!?


「え、いいんですか?」


「むしろそんなもの一個だけ渡して終わりにはできんわい」


「じゃあ……実はもう一個、ほしいのはありまして」


 自分としてはかなり価値の高い物を得られたのでなんか申し訳ない気もするが、せっかくの機会だ。

 俺はもう一つ見つけていた目ぼしいものも貰うことにした。


「これにしたいのですが……」


 その宝物がある棚に行き、手に取りつつそう言ってみる。


「また良く分からん物を選んだのう。それ古代の出土品ってだけで、杖としての性能は市販の安物と変わらんぞ?」


 国王はまたもや困惑した。


 いやいやとんでもない。

 この杖——「カスタマイズワンド」は、ノービスからすれば一級品だぞ。


 この杖の効果は、その名の通り、杖のエンハンス効果をカスタマイズするというもの。

 スキルポイントを消費して、「三日月刃の射程○倍」「フォースリダクションの低下率○倍」「クロノクラッシャーの消費MP○%カット」といったように自分好みに杖を変えていくことができるのだ。

 しかもエンハンスの仕方も、例えば同じ「クロノクラッシャー」でも「停止時間〇%上昇」「消費MP○%カット」などと項目別で強化していくことができる。

 通常の+値強化と違い、欲しい効果だけをスキルポイントを節約しつつ伸ばす、ということが可能なのだ。


 スキルの+値は高くなるほど1上げるのに消費するポイントが多くなるし、1上げるごとの効果上昇率は減ってしまうからな。

 上昇率あたり必要なスキルポイントの面でも、+値が高いスキルほど、杖を強化した方がお得ということになる。


 要は既に+値100超えの「ワープ」「基礎MP強化」「クロノクラッシャー」に関して、特に強力な恩恵をもたらしてくれる杖となるわけだ。


 これももらえてしまうとは……まるで宝物のバーゲンセールだな。


「では、ありがたくいただきます」


「うむ……なんというか、拍子抜けじゃのう。そんなのでよいのなら、もう一、二個は持って行ってよいぞ」


 ……まだくれる気なのか。

 だが残念ながら、これ以上は特に目ぼしいものはなかったというのが現状だ。


「いえ……特に他にはいいです」


「そうか。ではまた気が変わったら、いつでも言ってくれ」


「……じゃあまた何か変わった物が搬入された時にでも」


 こうして俺は、大収穫で宝物庫見学を終えることとなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 物の価値はその人次第という事なんだなあ。
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