第七十九話 謁見
基地を破壊した後は、今度は全員で国王に謁見することが決まった。
メギル曰く、幻諜が間に入って伝言するよりも、国王も直接ジェイドから話が聞きたいだろうからとのことだ。
浮遊移動魔道具で王都に着くと、適当なところに着陸して王宮を目指した。
幻諜の特権からか、メギルが衛兵に話すと俺たちは最優先で国王に謁見してもらえることとなった。
「随分と早い戻りじゃな。……そちらの子が、今回とんでもない活躍をしてくれた冒険者の子なのじゃな?」
「はい、陛下」
開口一番の国王の問いに……メギルはそう答える。
いったいどういう伝えられ方をしてたんだ……。
なんかちょっと不安になってきたぞ。
「今度はいったいなんじゃ? まさか、この短時間でまた進捗があったとは言わんじゃろうな」
「そのまさかです。というか、全て片が付いたのでご報告に参りました」
「す、全て……じゃと!? は、話してみよ」
目を見開いて驚く国王に、俺は全てを話していった。
まずは、メギルたちがした中間報告の補足から。
広い場所への移動をお願いしてから、蓄音機と製作途中のトライコアを出し、実物を基に説明を加えていった。
それが終わると、今度は別行動中の話しへと移った。
素体の死体を見せると、国王が固唾を飲んでしばらく見入ってしまったので……この話は、少し長くかかってしまった。
最後に、基地を再捜査し、何も目ぼしいものが無い事を確認した上で基地を破壊してきたことを話した。
「自然災害でもなかなか見ないレベルの衝撃でしたよ、あれは……」
俺の説明が終わった直後、メギルは遠い目でそう感想を付け加える。
「み、見たかったような、見なくてよかったような……。ともあれ、ご苦労じゃった」
国王はそんな感想で、話を締めくくる。
それからしばらくの間は、国王と幻諜の三人が行政的な手続きを行い……その後、報酬の話へと移ることとなった。
「それではまず……本件の一番の功労者である、ジェイド殿の報酬から決めて行きたいと思う。先に聞くが、お主特に希望とかあるか?」
まず国王は、俺にそう質問を投げかけた。
って……俺の報酬、ここで決まるのか?
「報酬、ギルド経由ではないのですか?」
「そもそも今回の指名依頼は余が出しておるからな。ギルドを経由しようがしまいが、本質的にはかわりはせん。……なーに、仲介手数料はギルドの方にきちんと払うから、立場がなくなる心配などはいらんよ」
……言われてみればそれもそうか。
そもそも幻諜が関わっている時点で、依頼主が国なのは分かりきっていることだし。
しかし……報酬と急に言われても、特に希望など思い浮かばないな。
「正直、特に思いつきません。陛下にお任せできればと」
とりあえず、無難そうな返しをしておくことにした。
「そうじゃな……まず大前提として、一つだけでお主の功績と釣り合う報酬など存在せんから、複数種類の報酬を渡そうと思うが。例えばそのうちの一つに、屋敷などはどうじゃ? ちょうど王宮のすぐ近くに一つ、大きいのがあるのじゃが」
すると国王からは、そんな提案が。
……屋敷か。
正直、冒険者である俺としては、あちこちを旅する仕事柄一か所に大きな拠点があったところでという感じではある。
だがそれは、あくまで俺が一人だったらの場合の話だ。
たとえば……ジーナの社宅として使うことを考えれば、悪くない報酬だと言えるのではないだろうか。
「良いですね。ありがとうございます」
考えをまとめると、俺はそう返事をした。
「屋敷、アリなのか……。確かにこれ以上ない豪華な報酬ではあるが、キミがそういうのを欲しがるのは意外だな……」
俺の選択に、メギルはなんか変な感想を漏らす。
「実は、住まわせたい人がいるんです」
「まさか……それは女性か?」
「そうですね」
「そうか……大切な人なのだな」
「ええ、大切な従業員です」
「って、そういう意味か。王宮近くの屋敷を社宅にって、滅茶苦茶太っ腹だな……。というかキミ、経営者でもあるのか」
さっきからメギル、何が言いたいのだろう。
「そういう意味か」って、逆にどういう意味だと思ったんだよ。
まあ何にせよ、替えが利かない社員である以上、福利厚生は可能な限り手厚くしたいしな。
というかどうでもいいことだが……正直俺とジーナの業務内容って、前世だったら間違いなく完全子会社化してジーナを社長にするくらい別物だよな。
株式って概念がないこの世界でそんなことを考えても無駄だが。
などと取るに足らないことを考えていると、国王はこう続けた。
「おほん。それで他の報酬の案なんじゃが……噂によると、お主は宝物庫から物を選んでいいと言われる度、意図的によく分からん掘り出し物を持っていくことが多いそうじゃな。常識では全く価値の分からん代物を役に立てておるのだとか。それで思ったんじゃが……もしよかったら、王宮の宝物庫見学でもせんか? これはと思うものがあれば、何なりと持って行け」
続いて提案されたのは、またもや豪華な報酬だった。
宝物庫見学……それは結構シンプルにありがたいな。
ウルトラソウルや超魂の鱗粉のようなお役立ちアイテムがあるかもしれないと思うと、これは結構価値がある。
ただ……「何なりと持って行け」なんて言ってしまって大丈夫なのかはちょっと心配だが。
今まではたまたま俺が選んだものの価値が一般に見出されてなかったが、俺が「これは!」と思ったものが普通に一般に価値あるものだったらどうするんだろう。
ま、そこは俺が気にするポイントじゃないか。
傾向としては、ノービスの特性に深く関わる品物であれば、一般的に価値は見出されていない確率は高いんだろうし。
そういうところから積極的に選んでいくとしよう。
「ありがとうございます」
「うむ。今日すぐにとは言えんが、可及的速やかに宝物庫の方に話をつけておくから、後日いつでも訪ねてくれ」
こうして二つ目の報酬も決まった。
「これでもまだ足りんよのう……。はて……」
二つ目の報酬が決まると……国王は今度はそう言って、うんうんと唸りだした。
これまででも結構豪華だったと思うのだが、まだくれるつもりなのか。
などと思っていると、今度はナーシャがこんなことを言い出した。
「陛下。例えばですが……屋敷に警備を生涯無料でつける、というのはどうでしょう?」
「うむ? どういうことじゃ」
「ジェイド君は先ほど、自分の大切な従業員を屋敷に住まわせたいと言っておりました。ですが……彼の周囲は今後、『永久不滅の高収入』に今まで以上に狙われやすくなるのではないかと思います。彼自身なら返り討ちにできるでしょうが、留守にその従業員が狙われると結構危険ではないかと。護衛の配置が、必要だと思うのです」
……なるほど。そこを考えてくれるのはありがたいな。
だが……護衛を配置するのって、実はなかなか考えものなんだよな。
「気持ちはありがたいです。ただ……護衛はちょっと、プラスに働くかマイナスに働くか微妙なとこでして……」
というのも……護衛なんて敷いたところで、「永久不滅の高収入」に狙われたら正直あってないようなもんなんだよな。
むしろ屋敷の周囲に護衛をズラリと並べなどしたら、「ここが重要拠点ですよ」というメッセージを送るようなことになってしまう。
正直、逆効果かもしれない側面があるのだ。
それよりは……こちらで工夫して、何かセキュリティ対策を作る方が良いような気が。
などと考えていると、ナーシャは俺の考えていることを察したのか、こんな提案をしだした。
「ではその護衛に、私一人が常駐するというのはどうかしら? 一人二人の護衛なら、どんな屋敷だって普通にいるし……幸い私は仕事柄名が知られていないから、『あの護衛がついているということは』などと邪推されることも無いわ。従業員は女性って話しだし、それなら護衛も女性の方が安心できると思うし」
これには俺も驚いた。
確かにそれならある程度は有効な警護となるが……幻諜のメンバーを警護のために常駐させてもらえるなんてアリなのか?
「お主はどう思う? 余はお主がアリじゃと思うなら、それも褒美につけるぞ」
国王の許可、先手で出たし。
「……では、ありがたく」
せっかくなので、俺はその申し出を受け入れさせていただくことにした。