第七十八話 基地爆破
「永久不滅の高収入」の基地が見えてくる頃。
前方を見ると……見覚えのある形の浮遊物が飛んでいるのが目に入った。
俺が乗っているのと同じ、浮遊移動魔道具だ。
もしかして、幻諜の三人と同時に着くことにでもなったのだろうか。
いや、あるいは……この基地の状況が伝わり、別の「永久不滅の高収入」の基地から応援が来たという説も考えられる。
「サーチ」に映るのを見る限り、乗っているのは三人のようだが……人数が合っているというだけでは、それが幻諜だとは断定できない。
だが幸いにも、幻諜かどうかを判定する方法は、一つだけ持っている。
戦闘時に破損するのを避けるため一時的に脱いでいた、例の隠密効果のあるマントを、「ストレージ」から出して着る。
すると……「サーチ」の反応の鮮明度が、若干上がった。
このマントには、味方同士の間だけ隠密効果が発揮されない工夫がなされている。
その効果が出たということは……乗っているのは、幻諜で確定だ。
これで安心して落ち合えるな。
着陸して外に出ると、ほどなくして幻諜の三人も外に出てきた。
「びっくりした……まさか同じ機体と鉢合わせると思っていなかったから、敵の援軍でも来たのかと思ったよ」
「ジェイド君が降りてきたのを見て、味方だと確信できて降りられたわ」
「というかなんでここにいるんスか? 基地に再突入したはずじゃ……」
どうやら三人も同じようなことを考えながら着陸していたようだ。
「再突入はしたんですけど、そこで緊急事態が発覚したので、そちらの対処に動いてました」
「「「緊急事態……?」」」
……今後の動きどうこう以前に、まず何があったか話したほうが良さそうだな。
まず俺は、別行動しだしてからの事の顛末を説明することにした。
◇
「そ、そんなことになっていたとはね……」
一連の話を終えると、三人とも唖然としてしまった。
その視線は、説明のため一旦取り出した素体の亡骸に釘付けとなっている。
「この『素体』って奴がどれくらい強化されていたかは見当もつかないけど……キミが『何とか倒せた』って言うって、相当だったんだろうね……」
メギルはしみじみとそう続ける。
「まあ、処理できた今となっては、一件落着してよかったって感じですがね。それで……今後はどうします?」
素体を収納しつつ、俺は今後のことへと話題を変える。
「そうだね……一応、もう一度基地の中を見ておこうか。そっちは中断になってるんだろ?」
「はい」
「今度はボクたちも入っていくよ。生きて持ち帰らないといけない情報は、だいたい陛下に報告したしね。戦闘の方では役に立てないと思うが、それ以外の面で支援できることがあればしたいと思う。いざって時はボクたちのことは気にせず自分の戦闘に集中してくれ」
……まあ「三人を気絶させてストレージにしまう一瞬の隙が命とりになる」みたいな高度な戦闘にでもならない限り、見捨てる必要性は出てこないと思うが。
などと思いつつ、俺たちは基地に再突入した。
◇
結局……再突入して得られる戦果は、ほとんどなかった。
新発見の施設は、目ぼしいものは地雷の倉庫があったくらいで、残りは居住スペースとか取るに足らないものだった。
まあ地雷が正式に永久不滅の高収入の仕業と断定できるようになったことは、一応戦果と呼べるかもしれないが。
人員は倉庫含めどこにも人っ子一人いなかった。
逃げられたか……あるいは既に全滅していたかのどちらかだろう。
もし逃げられてたとしても、浮遊移動魔道具は回収させてもらってたし、生身ではまだそう遠くには逃げられていないはずなので、この後ある程度近くを空中偵察してもいいかもしれない。
などと考えつつ、基地を後にすると……俺たちの話題は、この基地をどうするかという部分に移った。
「それで……どうする? この基地」
「どうするとは?」
「ほら……調査が終わった上にほとんど壊滅に追い込んだ以上、もう用済みなわけじゃないか。となるとさ……いっそのこと、二度と使い物にならないくらいボロボロにしてやった方がいいんじゃないかって」
メギルはこの基地を破壊したいようだ。
「永久不滅の高収入」の性質上、一度撃破された基地を再建することはないと思うのだが……確かに使える資材を取り壊して再利用されたりするのもアレだし、無に帰すくらいのことをやるのもいいかもしれない。
「じゃあ、爆破します?」
俺はそう提案した。
すると、三人とも驚いたようにこちらに視線を向ける。
「あの広大な基地を……できるのか、そんなこと?」
「はい」
「キミもしかして隕石とか降らせられたりする?」
……俺を何だと思っているのだろうか。
流石に隕石は降らせられないが……基地を壊すだけに、そこまでは必要ないだろう。
崩壊粒子砲でも撃ち込めばあの程度、オーバーキルだ。
「隕石ではないですけど、やりようはあります。ちょっと余波がすごいので、空中に離れて待機してもらえると」
「……できればどのくらい離れるべきか、具体的に指示してくれると助かる。君のいう『余波がすごい』はホントにどのくらいを指すのか予測がつかないからね」
十キロほど離れた場所を待機場所に指定し、そこに移動してもらうと、俺は「国士無双」を発動した。
そして崩壊粒子砲に魔力を充填していく。
発砲すると……視界がホワイトアウトし、俺は猛スピードで吹き飛ばされていった。
今回は斜め下に向けて撃ったので、瞬く間に上空に放り出されていく。
なんとか減速できたことには、隣に幻諜の三人が乗った浮遊移動魔道具があった。
ジャストな方角に吹き飛ばされたようだ。
浮遊移動魔道具のハッチをあけてもらい、中に乗り込む。
基地があった場所からもうもうとキノコ雲が浮かぶのを見つつ……メギルはこう呟いた。
「あれもう隕石と同格かそれ以上だろ……。というかアレを受けて、原型を留めるドラゴンて……キミ一体なんて代物と戦ってたんだ……」