第六十四話 得られた情報
目が覚めると、外は薄暗い夜明けになっていた。
寝たのはたったの3時間だが、スキルのおかげで今日はいつも以上に頭が冴えているように感じる。
叫び声や呻き声などは聞こえてこないので、尋問は無事上手くいったのだろう。
あるいは「なかなか口を割らないので保留にして寝た」とかかもしれないが、多量のスキルポイントを消費してまで自白強要スキルは取りたくないので、前者であってほしいところだ。
現在、テントの外にいるのはナーシャだけのようだ。
おそらく、彼女の見張りの担当時間が明け方だからだろう。
「おはようございます。捕虜たちからは色々聞き出せたんですか?」
「ええ、ばっちりよ。一時間半くらい前には終わって、メギルとザクロスは今眠りについてるわ」
「どんな話が聞けたんですか?」
「それなんだけど……私の役割は容体管理だったから、あまり自白を集中して聞けてないのよね。メギルたちが起きたら話してくれると思うわ。それより……昨日の美味しかったご飯、もしまだ貰っていいなら分けてもらえないかしら?」
なるほど。確かに、尋問中に対象がショック死とかしてしまったら話が聞けなくなってしまうから、容態管理役というのは必要になるよな。
それ自体結構細心の注意がいりそうだし、話の内容を覚える余裕まではなかったというのも、不自然なことではないか。
なら別に全員起きてから話を聞くのでいいのだが……それはともかくナーシャ、元仲間を尋問した直後に朝食を食えるのか。
「……ご飯、喉を通る心理状態なんですか?」
「この程度でメンタルがやられてたら幻諜は勤まらないわ」
そんなもんなのか。
まあジーナからはこれでもかってくらい食事を用意してもらってるし、美味しいと評判ならまた分けるとしよう。
「ではこれを」
「ありがとう」
ストレージから二人分の食事を出し、うち一人分をナーシャに渡す。
そしてそれを食べつつ、メギルとザクロスが起きてくるのを待つことにした。
◇
約一時間後。
二人も目を覚まし、テントから出てきた。
彼らも朝食を食べたいというので、ストレージからもう二人前取り出し、それぞれに渡す。
それを彼らが頬張る中、情報の共有が始まった。
「彼らはいったいどんなことを話したんですか?」
「俺たちや『永久不滅の高収入』に直結する重要な情報は二つだけだな。まず一つ目は……基地を守っている防衛システムについてだ」
「防衛システム?」
「ああ。基地の周辺には、『シャイニング・グリムリーパー』なる魔物が配置されているらしい。『見た者は死ぬ魔物だ』と言っていたから……視界に入れずに戦う必要があることを念頭に置いておいてくれ」
「……シャイニング・グリムリーパーですか」
まさかその魔物の名前が出てくるとはな。
ここでその名を聞くとは思わなかったので、俺は少し意外に感じた。
ちなみにその魔物、その認識で戦うと死ぬぞ。
というのも……シャイニング・グリムリーパーの正体は、高純度の放射性物質でできたゴーレム。
普段は光っていないが、近くに敵とみなした者がいると、高出力の放射線で即死攻撃をかましてくるのだ。
その線量は、およそ2テラベクレル。
文字通り数秒で命を奪われる威力だ。
「見た者は死ぬ」というのは、あながち間違いではないのだが……それはどちらかというと、肉眼で見れる距離で放射線を浴びると死ぬ、という意味に近い。
なので仮に視界に入れないように注意したところで、見ようと思えば見れる距離にいる時点でアウトだろう。
「その魔物なら知ってます。ちなみにきちんと対策をしないと、視界に入れずとも近くにいるだけで死ぬので対策は任せてください」
というわけで、俺はそう返した。
幸いにもノービスには、放射線をカットできる結界のアップグレードがあるからな。
「な……!? そ、そうなのか……。おかしいな、最高級の虚言制限ポーションを使って聞いたはずなのに……」
メギルは唖然とするが……まあ「見た者は死ぬ」というのも、あながち間違った発言ではないからな。
虚言という判定にならなかった、というだけだろう。
しかしまあ……永久不滅の高収入も、よくそんなのを配置したものだ。
飼いならしたりテイムしたりするのは不可能な魔物と言われているはずだが、彼らの古代魔法にはそれを可能にするものがあるのだろうか。
「というかキミ、何故そんなことまで知っているんだ? まるで過去に倒したことがあるとでも言わんばかりだが……」
「まあ、そんな感じですね」
テイム方法の思案にふけっていると、メギルが疑問を口にしたので、俺は適当に答えた。
過去に倒したとはいってもゲームの中で、それも野良の個体だが、間違ったことは言っていないだろう。
この方向性はあまり詮索されてもアレなので、さっさと話題を変えようか。
「では、二つ目はどういう情報だったんですか?」
シャイニング・グリムリーパーに関してはこれ以上聞く必要がないと思ったので、俺は二つ目の情報の方に移ることにした。
「二つ目は、リドルの奴がボクたちを売ろうとした理由だね。リドルの目的は蓄音機で聞いたけど、今回の尋問では『永久不滅の高収入側が要求した対価がなぜ俺たちの身柄なのか』を聞き出せたよ」
なるほど。もうちょっとで聞けるところだったのに惜しいと思ってただけに、それが聞けるのはありがたい。
「どんな理由だったんですか?」
「『トライコア』なる物体の核にしようとしていたらしい。なんでも信じ難い話だが、その『トライコア』とやらがあればこの世界を破滅させられるんだってね……」
メギルはそう言うと、遠い目で空を見上げた。
なるほど、トライコアだったか。
トライコアは、世界トップクラスの実力者三人を生贄に儀式を行わなければ手に入らない「究極禁忌生成物」の一つ。
幻諜のメンバーを使う以上、何かしら究極禁忌生成物を作りたいんだろうな、くらいには思っていたが、予想は間違っていなかったようだ。
ちなみにトライコアは、一瞬で太陽系を焼き尽くし宇宙の果てへと飛び立つ人工生物「最終破壊生物」の人工心臓となる物体だ。
NSOでは最終破壊生物編をクリアする前に死んでしまったので、その対処法を知らない身としては、事前に災いの芽を摘むチャンスが巡ってきたのはありがたい。
一応、最終破壊生物は完成(=素体となる魔物にトライコアを移植すること)から目覚めに10年かかる上に、完成時には街中でファントムが大量発生する異変が起きるので、歴史上そんな事実がなかったことから今が完成前の時点だとは分かっていたのだがな。
具体的な「永久不滅の高収入」の進捗状況までは分かっていなかったので、「トライコア」作成すらまだだったと分かったのはありがたい。
「トライコアの材料すら調達途上段階だったんですね。その段階なら、最終破壊生物が作られるまでに妨害できるタイミングがいろいろありそうで良かったです」
ホッとしつつ、俺はそう返した。
「トライコアさえも知っていたのか……。というかその、最終破壊生物っていうのは一体?」
「世界を破滅させる生物ですよ。トライコアというのは、その生物の人工心臓にあたるものです」
「一体どこでそれを……。キミ、本当にただの冒険者かい?」
「……」
少し喋りすぎたか。
まあどうせ「前世で知りました」と事実を言っても、詮索されないように適当なことを言っていると解釈されるだけだろうが。
「ま、話したくないなら話さなくていいさ。それより、準備ができてるなら早速基地に向かおう」
どう答えるか迷っていたが、この話はメギルの方から切り上げてくれた。
聞きたいことはだいたい聞けたし、メギルとザクロスもちょうど朝食を食べ終えたようだ。
これ以上ここにいる理由もないので、早速出発だな。
各々テントをしまうと、基地のある方角へと移動をし始めた。