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第六十二話 夜中の出来事

 日が沈んで3時間くらい経つと、一人目の見張りの番が終わり、リドルと交代になった。

 交代して5分ほど、リドルは動きを見せない。


(杞憂だったか……?)


 一瞬そう思いかけたが……その時。

 リドルはおもむろに立ち上がると、音を立てないよう最大限気を付けた歩行法で持ち場を離れだした。


 ──一人目の見張りが睡眠状態になるのを、念には念を入れて待っていただけか。

 誰かを起こしてしまわないことに全神経を注いで去っていったあたり、ほぼ黒と見て良さそうだな。


 尾行がバレないようにするため、リドルがステルスサーチの探知範囲ギリギリまで離れるまでテントの中で待つ。

 それから、彼を見失わないよう注意しながら、俺も後をついていった。


 全力疾走しても音が野営地に届かない距離まで離れると、リドルは一気に移動ペースを上げる。

 それを俺は、ほどほどの出力の「移動強化」で着かず離れず追いかけた。


 30分ほどすると……「サーチ」の反応に新たに7人の人間が映ったところにリドルは合流し、歩みを止めた。

 この7人が、野営の見張りを抜け出してまで会いたかった人で間違いないだろうな。


「ストレージ」


 俺は蓄音機と自作の集音装置を取り出し、彼らの会話を拾えるようアンテナの向きなどを調節した。

 すると……こんな音声が聞こえてきた。


『約束通り、俺を国王ソックリにしてくれるんだろうな?』


『ああ。生贄をちゃんと用意してくれたなら、もちろんだ』


 ──確定だな。リドルこそが、NSOで国王になりすまし、悪法を立てまくった張本人にあたる人物だ。

 早速俺は、録音機能を起動した。


『で……生贄たちは、今どういう状況だ?』


『野営をしていて、今は俺が見張りの当番だから誰も起きていない。寝込みを襲えば全員無傷で捕らえられるだろう』


『はん、お前のお仲間など起きてても俺たちなら余裕で捕らえられるさ。俺たちが心配しているのはそこじゃない。今回の諜報活動……例のガキも同行してるんだろう?』


「ぷっ」


 突如自分の話が上がり、思わず俺は吹いてしまった。

 至近距離で直に盗聴してたら、今ので気づかれてしまってたところだったな。

 遠隔で助かった。

 ……気を取り直して続きを聞こう。


『例のガキ? 確かに今回は、お前たちの基地を一個壊滅させたとかいう幻諜の部外者の子供が一人ついてきてるが……あんなの俺たちを冒険者と組ませるのを納得させるためのでっち上げだろう』


『まさにソイツだよ。そしてその噂は本物だ。忌々しいことに、奴はここら一帯に敷いた地雷さえも除去したらしいってな』


『……な!? そうだったのか……』


『ちゃんと薬は盛ってきたんだろうな?』


『それが……あの野郎、なんかクソ美味そうな飯を収納してやがった。それを全員に振る舞われたもんだから、俺には飯を用意する余地もなかったよ』


『……クソが』


 リドルの状況報告に、「永久不滅の高収入」の構成員の一人が声を荒らげる。


 ……そんな作戦だったのかよ。

 実は今日の夕食、「お仲間さんの分も。お仕事頑張ってください」ってジーナから用意された弁当をみんなで食ったんだよな。

 おかげで全員命拾いしたようだ。


 ありがとうジーナ。そしてその飯をこんな奴が食ったのは許せないので、ちゃんと殲滅させてもらうとするよ。


『じゃあ最悪奴と戦う羽目になるじゃねえか』


『まあ、寝込みを襲えば……。奴には「疲れてるだろうから見張りはいいよ」って言って一晩中寝かせてあるからな』


『しょうがねえな。まあでも、生贄三人を「殉職」として消せる絶好の機会なんだ。命に代えてでも、奴の抹殺と三人の生け捕りを実行してやるよ』


 ……それで一晩寝ていいって言われたのか。

 善意じゃないのは分かっていたが、一人当たりの見張りを増やしたいとか以上の理由があったとは。


 などと思っていると、彼らの話題が変わった。


『それでよ、結局生贄ってのは、何に使うんだ? そろそろ教えてもらっても……』


 お、その話聞けるのか。

 確かに、リドルが寝返る目的ははっきりしてるが、なぜその対価が「生贄三人」なのかは謎なんだよな。

 リドルが国王に扮する対価は「永久不滅の高収入」の傀儡となることのはずだし、それ以上に余計に永久不滅の高収入側が要求しているようにしか思えないのだが。

 誰にも聞かれないと思って、洗いざらい話してくれると手間が省けてありがたい。


『それは……』


 だが、七人のうち一人が話し始めた時のこと。

 急に彼は、言葉を止めた。


『……おい。誰か俺たちの話を聞いてるぞ』


 なんとこの距離と探知方法にもかかわらず、ついに気づかれてしまったようだ。

 マジか。このタイミングで逆探知されるのかよ。

 もうちょっとでいいとこだったのに、惜しいな。


 どう立ち回るか考えていると、彼らはこう続けた。


『どうする。消すか?』


『そうするしかねえだろ。今の会話は、第三者に漏れていいもんじゃねえ』


『追いかけるか』


 第三者……言い方からして、盗聴者の正体までは割られてないみたいだな。

 来るならこのまま待つか。

 直前まで畜音しとけば、俺を倒せる前提で走りながら機密を喋ってくれるかもしれないし。


『誰だか知らねえが、サクッと殺して作戦に戻るぞ。関係ないことに首ツッコんだらどうなるか思い知らせてやる』


『思い知る間もなく死ぬだろうがな』


『……揚げ足を取るな』


 しょうもない言葉遊びでピリピリするほどの空気感が、集音装置越しにも伝わってくる。

 そして「サーチ」上の反応も、猛スピードでこちらに向かいだした。


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