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第五十八話 調査依頼の報告

 冒険者ギルドにて。

 受付に並ぶと、早速俺は以前と同じ個室に呼ばれた。


 しばらくそこで待っていると、ローゼンが入ってきた。


「一週間か……結構早かったな。新領域、割と浅かったのか?」


 部屋に入ってくるなり、ローゼンはそんな質問を投げかけてくる。


 浅かった……と言えるのか。

 体感だと途中から飽きてきたので、結構広かったような部類の気がするのだが。

 とはいえ、ローゼンがギルド職員である以上、今のは調査依頼の相場と比べての感想なんだろうし……もしかしたら調査依頼とは通常、一週間以上かかることの多い根気のいるものなのかもしれないな。


 だとしたら……今後調査依頼系を受ける時は、案件を吟味した方がいいのかもしれない。

 つまらない作業ゲーを長時間にわたってやらされるのは、正直もう勘弁だし。


「……地図はこちらになります」


 とりあえずまずは。地図から見せることにした。

 探索範囲が浅かったか否かは、これを見て判断してもらえばいいだろう。


「……随分と精緻な地図だな。これはいったいどうやって?」


 地図を見るなり……ローゼンの興味は、その精度へと向かった。


「印刷用の魔道具で」


「印刷……は? ……うん、ジェイドらしいなとだけ思っておこう」


 一言で簡単に説明すると、ローゼンは納得……いや納得というより、思考を放棄したようだ。

 何がどう俺らしさなんだ。

 まあいいか、深くはツッコむまい。


「どれどれ……」


 気を取り直し、ローゼンは地図を一枚目から順に読み進めていく。

 初めはなんとなく目を通してる感じだったが……ページをめくるたびに、その顔色は変わっていった。


「おいおい、まだ続くのか……」


 5枚目に差し掛かったあたりで、ローゼンはそんな独り言をもらす。


「……まさか、これだけの範囲をこの一週間で?」


「ええ」


「いったいどうやったらこれほどの範囲をたった一週間で調べ終えられるんだ?」


「『移動強化』を使って走り回ればこんなものでは?」


 どうやら俺の探索範囲は一週間にしては多かったようで、ローゼンはその方法に興味を持ったみたいだったが……特にコツとかあったわけでもないので、俺は移動系のスキルのことだけ話した。


 するとローゼンは、驚きと呆れが混じったようにこう漏らす。


「確かに、単純に走るだけなら、足の速い者なら計算が合わなくないのかもしれないが……。それじゃ魔物を倒す時間が計算に入ってなくないか……?」


「えーと……」


 そんなことを言われたって、だいたいの魔物は弱かったもんな。

 通りざまに斬撃一撃で倒せる奴の討伐時間など、移動時間に比べれば誤差みたいなもんだろう。


「もしかして……この探索領域に出た魔物って、そんなに強くなかったとか?」


 などと思っていると、ローゼンも同じ仮説に辿り着いたようだ。


「そうですね。ほとんどの魔物は討伐時間が無視できるくらいだったので、このくらいの時間で調査し終えられました」


 答えると、ローゼンは納得した表情に。

 そして次に彼は、遭遇した魔物の詳細について聞いてきた。


「地図に関しては、これがあればバッチリだ。かなり正確なので、報酬に上乗せがつくだろう。じゃあ今度は、どんな魔物が出てきたか教えてくれないか?」


 えっと……。


「そうですね……主にはスレイプニールやセイントザウルス、ファントエルが出てきました。時々スクアルエルの群れもいましたね。条件は不明ですがごくまれにセイントザウルスレックスも湧くようなので、唯一そいつだけは注意が必要です。あと8枚目のマップのところにはゴールデンスクアルエル100匹ほどの群れがあるのですが、全滅させてしまうとトリガーフィールドが発動するのでご注意ください」


 時系列を辿りながら、出てきた魔物の名前を順に列挙する。

 たぶん、これで漏れはないはずだ。


 指折りながら頭のなかで再確認していると、ローゼンは目をパチクリとさせた。


「……ん? 確か君、さっき『討伐時間が誤差になるくらい弱い魔物しかいなかった』って言ったよね?」


「そうですが……」


「聞き間違いでなければ、私の耳にはセイントザウルスだのスクアルエルだのといった単語が入った気がするのだが」


「そう言いました」


 ……何か変なところがあっただろうか。

 真意が掴めないでいると、ローゼンはこうお願いしてきた。


「……思い違いとかじゃないよな? もし持ってたら、倒した実物を見せてほしいんだが……」


「いいですけど……」


 そんなに疑念を抱かれるような魔物だっただろうか。

 どれも聖属性だし、普通に出てきておかしくない魔物だと思うのだが。

 腑に落ちないながらも、とりあえず見せるために各一種ずつ出すことにした。

 この部屋には入りきらないだろうし、素材買取はまた別のところでするだろうから、今のところはサンプルを出すだけでいいだろう。


 ちなみにレックスは一体すら入らないので「ストレージ」から顔だけ覗かせた。


「こ、これは……!」


 するとローゼンは、明らかに動揺した様子で口をパクパクさせ始める。

 十数秒固まったあと、ため息をつきつつ彼はこう言った。


「あのなあ、これが誤差みたいな魔物って……。君の戦闘能力がおかしいのは薄々知ってたが、これは完全に想定外だったよ」


 どうやらローゼンは、今言った魔物たちを秒殺できたのが不思議だったようだ。


 ……そうか!

 今の俺の言い方だったら、セイントザウルスレックスまでも秒殺したかのように聞こえるよな。

 そりゃそんな反応になるわけだ。


「あ、でも流石にセイントザウルスレックスは多少手こずりましたよ。あとトリガーフィールドのホーリーネクロマンサーも」


 一応俺は補足として、ストレージから覗かせてる頭を指しつつそう付け加えた。

 あまり力を過大評価されるのもアレだからな。


「いやそういうことじゃなくてだな……まあいい。とりあえず、既知の領域とは段違いに強い魔物が出現するってことで報告はしておくよ」


 ……なんか腑に落ちない言い方だが、まあいいか。

 一応「既知の領域とは段違いに強い魔物が出現する」こと自体は、バイコーンとの比較なら間違いではないし。



 ……あ。ていうか、あれ渡さないとな。


「ところで、セイントザウルスレックスを感知する警報魔道具も作ってきたのですが。これいりますか?」


 ローゼンの反応が妙ですっかり忘れかけていたが、すんでのところで作ってきた警報魔道具の存在を思い出し、俺は話題を切り替えた。


「……警報魔道具? なんだそれ?」


「セイントザウルスレックスと共鳴しスイッチが入る照明用魔道具です」


「なるほど、そうすれば警報になるのか……凄い発明だ」


「いりますか?」


「ストレージ」からサンプルを取り出し、ローゼンの手元に置く。


「あるだけ買い取らせてもらおう。最悪、『特殊な許可を取らない限り基本出禁』みたいな領域になるかもしれなかったしな。まあセイントザウルスレックスさえ完全回避できるなら、そこまで厳しくはならない……だろう」


 魔道具を見回すや否や、ローゼンはすぐに買い取りを決めてくれた。


 ……マジか。警報魔道具がないと許可制になるかも、くらいには考えていたが、まさかほぼ出禁になる恐れまであったとは。

 まったく、とんでもない慎重さだ。

 作ってきといてよかったな。


「調査報告はそれで全てか?」


「はい」


「そうか。ならそうだな……ちょっと待っててくれ」


 ローゼンはそう言って、部屋を出ていった。

 待っててって……何でだろう。

 調査依頼だから予め報酬が決まってて、今それを持ってきてくれるとかだろうか。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ゲームの時の記憶によって様々な事を知ってるなら、他のジョブの大体の強さとか敵の強さを相対的に分からないのかね。 今までに会った冒険者の強さとか見てるんだから、どれくらいの敵に対応出来る…
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