第五十七話 ギルドに行く前に
洞窟を出た俺は、途中雑貨店に寄ってインクを買い、それから宿に戻った。
ギルドに直行しないのは、まず必要な資料を作成するためだ。
必要な材料も揃えたことだし、「マッピング」で得た洞窟の元最深部以降の地図データを印刷用魔道具を作ってプリントアウトするとしよう。
「ジーナさん、この魔石にこの魔法陣を刻んでください」
そう言って俺は、一枚の絵とスクアルエルの魔石一個をジーナに手渡した。
「スキルコード1335『破砕』取得、強化×5」
ジーナが作業を進める一方、俺の方ではスレイプニールの魔石4つほどを、新たに取得したスキルで粉々にしていく。
「……一体何をしているのですか?」
「今ジーナさんが彫ってくれてる魔石を核に、魔道具を作るんです」
「なるほ……ど? ……あ、できました!」
ジーナから魔石を受け取ると、俺はその魔石をスレイプニールの魔石の粉の山に埋もれさせた。
そして……こう唱える。
「魔石再結晶化」
すると……魔石の粉と魔法陣を刻んだ魔石が一体化し、無色透明な円柱型の魔道具が完成した。
「……これは?」
「印刷用の魔道具、『ロータリープレス』です。まずはこうやってインクを補充して……」
そう言いつつ「ロータリープレス」に買ってきたインクをかけると、「ロータリープレス」はインクを吸収して黒くなった。
「ステータスオープン、マッピング」
次に、ステータスウィンドウにマッピングで得たデータを表示すると、俺は画面上の「ロータリープレスにデータを転送」というボタンを押した。
「あとはこれを、紙の上に乗せると……」
ロータリープレスは紙の上を自走し、吸収したインクを適量吐き出して地図を出力しだした。
「こ、こんなことができる魔道具があるのですね……。にしても、この地図のように見えるものは一体……?」
「ほら前言ってた、洞窟の未探索領域の地図ですよ。『マッピング』ってスキルで得たデータを印刷してるんです」
「そ、そんな……なんて便利な!」
などと会話しているうちにも、「ロータリープレス」は計8枚の紙に元最深部以降の全領域の地図を印刷し終えた。
これでいっちょ上がりだな。
あとは……一応あの魔道具も作って持っていくか。
「あと、もう一つお願いしたいのがあって……」
続けて俺がジーナの作ってもらうことにしたのは、何の変哲もない照明用の魔道具。
ゴールデンスクアルエルの魔石を30個ほどと魔法陣の絵を渡し、作業に取り掛かってもらった。
もちろんこれは、「洞窟を照らす魔道具を作ってもらおう」などというどうでもいい目的でやってもらうわけではない。
この魔道具をベースに、とある警報機を作ろうと思ったのだ。
「スキルコード1445 『魔法付与』取得、アップグレードコード1111-3 『レゾナンス』取得」
そのために、俺は魔道具に自分が持つスキルの効果を付与するための「魔法付与」というスキルと、「サーチ」のアップグレードの一種である「レゾナンス」を取得した。
「レゾナンス」の具体的な効果は、特定の魔物の反応に共鳴するというものだ。
例えば今作ってもらっている照明用の魔道具にセイントザウルスレックスの死体を触れさせ、「レゾナンス」を付与すると……その照明用の魔道具は、セイントザウルスレックスが近くにいる時にのみ光を発するようになる。
それも距離が遠い時は微弱に、距離が近くなるにつれて強く発光するようになるわけだ。
それを携帯しておけば、セイントザウルスレックスに鉢合わせる前にその存在に気づき、回避行動をとることができるようになる、という算段だ。
セイントザウルスレックスだけは、流石にあの洞窟に出る平均的なレベルの魔物とかけ離れすぎているからな。
このような安全策でも用意しなければ、セイントザウルスレックス以外なら倒せるにも拘らず、一定の割合のパーティーが「元最深部以降は立ち入り禁止」みたいな措置をくらってしまう恐れも出てきてしまうだろう。
そのような格差を生まないためにも、念のためこのような疑似的な警報機でも供給しておこうと思ったのである。
「……できました!」
照明用の魔道具の魔法陣は他と比べてだいぶシンプルなのも相俟って、ジーナは目にもとまらぬ早さで30個の魔石への刻印を終えてくれた。
「ありがとうございます。ストレージ、魔法付与、魔法付与、魔法付与……」
収納魔法でセイントザウルスレックスの死体の一部を取り出し、「レゾナンス」を全照明用の魔道具に付与していく。
それが終わると、俺は全てを収納してギルドに向かうことにした。