第五十三話 殲滅とかつてない強敵
先頭を走る二匹のスクアルエルのうち、右側の奴に「断聖の刃」を放つ。
それにより、そのスクアルエルは一刀両断されたが……その隙に、もう一体のスクアルエルが俺の左腕に噛みついた。
が、もちろん、俺は無傷。
むしろスクアルエルの方が自身の咬合力が仇となってしまい、歯が殆ど欠けて悶絶し始めた。
やはり、防御を気にしなくていいというのは楽なものだな。
かつて前世の中学の友人が、プログラミングの勉強がてら「味方の当たり判定が無い弾幕シューティングゲーム」を作って見せてきたことがあったのだが……それをプレイしているような気分だ。
などと思っているうちにも、一匹また一匹と、噛みついてきたスクアルエルの処理は流れ作業のごとく進んでいく。
が……残り三体となったところで、スクアルエルは全く噛みついてこなくなった。
俺を警戒して、「断聖の刃」をギリギリ避けられる程度の間合いを保って攻撃機会を伺ってくるのだ。
まあ、そうなるか。
実はスクアルエル、今までの魔物に比べると割と知能が高い方なのだ。
生身の生物を自慢の咬合力で噛み砕けないことを不審に感じ、様子見する方向性に切り替えたのだろう。
もしかしたら……「国士無双」の効果時間が有限だというところまで、見抜かれてしまってるかもしれないな。
もしそうだとしたら、このままだと本当に効果時間終了まで膠着状態になってしまうし。
そろそろこちらから仕掛けるとしよう。
「Xの眼」
そう唱えると、自分がどう動いたときにスクアルエルがどう反応するか、未来が完全に把握できた。
それを信じ、傍から見れば明後日の方向を切っているようにしか見えないような斬撃を三発放つと……ちょうどそこに吸い込まれるかのようにスクアルエルが飛び込んできて、全滅させることに成功した。
「やっぱいいよな、このスキル」
相手がどんなに敏捷性に優れていようと、完璧に敵の行動を把握して攻撃を放っておけば、敵の方から突っ込んできてくれるんだもんな。
などと思いつつ、俺はスクアルエルの死体全てを「ストレージ」にしまいこんだ。
そうこうしていると、「国士無双」の効果時間が終了する。
しかし……たかがスクアルエル相手に「国士無双」は、やっぱちょっともったいなかったよな。
「国士無双」の二連続発動の試用も兼ねての戦いだったので今回はいいんだが、次このような群れに会った時は別の方法で倒せるようになっておきたいものだ。
今回は十体くらいの群れだったが、スクアルエルは最大で百体前後の群れを作ることもあるので、そういうのに出くわしたら同じ戦い方だとダルいし。
だいたい、スクアルエルは攻撃性能こそ異常に高いものの、耐久力はこれっぽっちもない魔物なのだ。
「断聖の刃」どころか通常の「三日月刃」ですら、オーバーキルなくらいにはな。
そもそも対スクアルエルの正攻法は、範囲攻撃魔法で一掃すること。
今まではあまり必要性を感じず、取得してこなかったが、この洞窟を探索するうちになんだかんだでスキルポイントも82450まで溜まってるしな。
一個くらい、広範囲の敵を一掃する攻撃魔法を覚えておくとしよう。
「スキルコード3776 『ハイボルテージトルネード』取得、強化×20」
俺はスキルポイントを65400消費し、「ハイボルテージトルネード」というスキルを取得、+値も一気に20まで上げた。
このスキルは、空気の層がバウムクーヘン状になっている竜巻を発生させ、摩擦で大量の雷を飛び交わせる雷・風融合魔法。
実はこれもスクアルエル相手には若干オーバーキルなのだが、どうせ範囲攻撃魔法を取得するならギリスクアルエルを倒せる魔法よりも汎用性のあるのがいいと思い、多少奮発してこれを取得した。
奮発といっても、キャッシュバック50のおかげで現在のスキルポイントは49750と、洞窟に入る前よりは多くなってるんだけどな。
……さて。スキルの取得に時間を使ってたら、ちょうどいい頃合いになったみたいだな。
「……来たか」
ドシンドシンと足音が響きだしたところで……俺はそう呟いた。
実はさっきから、今まで会った事のないレベルの強力な魔物がこちらに向かってきているのは、「サーチ」で分かっていた。
いつから分かっていたかというと、スクアルエルと戦う前からだ。
というか俺は、スクアルエル戦と今から来る魔物との戦いの二回にかけて「国士無双」を発動する計画で、ここに来ていた。
おそらく今から来る魔物はスクアルエルの群れを食い散らかしに来ているはずなので、それを待てば漁夫の利も狙えたわけだが、無双結晶の実用を試してみたかったので、自分で両方倒すことにしたってわけだな。
などと思っているうちにも、足音はどんどん大きくなり、ついには地面も揺れ始める。
歩くだけでこんなに地面が揺れる魔物となると、重量も体積もかなりのものだろうし……「ストレージ」、強化しておいてよかったな。
などと倒した後のことを考えていると、その魔物が姿を現した。